7-6(41)

 僕達は会社近くの居酒屋のお座敷で夕食をとる事となり

お料理が来るまでの間たわいもない話で盛り上がり終始

和やかな雰囲気だった。


「宮下さん、最近資料部行かれました?」

「いや、そういえば長い間行ってないな」

「たまには顔出してあげればいいのに~」

「どうして河合さんがそんな事言うの?」

「実は昨日資料部に届け物があって行ったんですけど

柴田部長なんか寂しそうにされてましたよ」

「寂しそう?」

「いやなんとなくですけど」

「歴史書読んでなかった?」

「そうそう、読まれてました」「あっ! それと宮下さんの事 

すご~く気にされてましたよ」

「そうなの?」

「どんな感じだ~ とか、元気か~ とかそんな感じですけど」

「確かに部長には色んな意味でお世話になったんだよね~

資料部特有のレクチャー受けたり……」

「何ですかそれ?」

「いや気にしないで、それより部長の入れてくれるコーヒー

メチャウマだから今度いっしょに行こうよ!」

「はい、喜んでお供します! ふふっ」

「あれ? 旅行会社の袋持ってるけど何処か行くの?」

「そうなんですよ~ 12月に友達とハワイに行く予定なんです」

「いいな~」

「ほら見て下さい、素敵でしょ!」


 僕はパンフレットに描かれてる女性の首に掛かる首飾り

を見た途端あの少女が困った様子でたった1つしかないお手製

の首飾りを僕に渡そうとしたのを思い出してしまった。


「…………」

「どうかしたんですか?」

「えっ! いやイイね、羨ましいよ!」


 ほどなくして料理が運ばれ先ほどからの和やかな雰囲気を

そのまま引き継ぐかのようにお食事タイムへと進む中、 

僕一人感傷モードに突入してしまった。


「具合でも悪いの?」 

「いえ……、あの~ 白川さんのお子さんっておいくつですか?」

「ウチの娘は先月7才なったばかりだけど」

「可愛いでしょうね」

「確かに可愛いけど7才にもなるとけっこうおませな事言うのよ~」

「そうなんですか?」

「そうよ~ でもやっぱりまだ7才だから背伸びしきれなくってね、

まぁ、そんな所も母としては可愛いんだけどねっ!」

「やっぱりまだ子供ですもんね」

「ほらウチの場合母一人子一人だから余計そうなのかもしれない

んだけどいくら娘がおませな態度取ったとしてもどこか私の様子  

を伺ってるのね。やっぱり私を頼りにしてるっていうか全幅の信頼

寄せてるの感じるから私も娘に対して絶対裏切れないし嘘もつけ

けないんだよね」

「あの~ 白川さん、ちょっと変な質問していいですか?」

「なに~ 変な質問って。イイよ、イイよ、何? 何?」

「例えばですよ、もし娘さんぐらいの子供に『近いうちに必ず

戻って来るね』みたいな事言ったら期待して待ってるもんですかね」

「そりゃ~ 心待ちにしてるんじゃない」

「でもいつなのか正確に言ってないんですよ」

「それでも子供って待つものよ。しかも近いうちって言ったんなら

なおさらよ」

「えっ! そうなんですか」

「そうよ、そういうもんよ」

「あれ? なんか顔色悪いわよ。心当たりでもあるの?」  

「な、ないですよ別に」

「まぁ宮下くんも結婚すれば分かるわよ、色々と……、うん」


「どうしたの? もう帰えっちゃうの」


「はい、すみません、実は急に用事思い出しちゃって」

「みんな、お疲れさん! また明日会社で」と僕は自分の代金を

白川さんに預け店を出た。

 道中、白川さんとの会話をループすればするほど少女に対する

思いよりむしろ肥大し重く圧し掛かる罪悪感に耐え切れずまるで 

救いを求めるかのように本日2軒目の居酒屋へと足を運んだ。 

 僕はとにかく冷酒を飲み続け5杯目くらいまでは覚えていたが

その後の記憶がなく……、どうもカウンターの一番端の席で 

眠ってしまったようだ。




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