ループラインの軌跡

リノ バークレー

1-1(1)

 朝7時、私はいつものように目を覚まし、いつもの様に天井を見つめ今日

の予定を整理するが、やはり施設のイベント以外何にもなく、いつもの 

溜め息を吐く。

 年を取ると月日の経つのが早いと言われるが本当だ。

 ただ私の場合そう感じるのではなく確実に……まるで特急列車の 

ごとく年を取ってしまったため心の準備が間に合わなかっただけなのだ。  


〈コン!〉〈コン!〉


「宮下さ~ん!」

 施設のスタッフがルーティーンのごとく入室し、いつもの声掛けから私の 

1日が始まる。

「おはようございます。お変わりありませんか?」

「はい、今日も宜しくお願いします」

 スタッフの女性は笑顔で窓のカーテンを開け「今日もお天気がいいですね!

宮下さん、今日のご予定は?」との問いかけに私はいつものセリフを

返した。

「特に……」

 このフレーズにはスタッフもすっかり慣れたようでいつもならこの時点で 

会話終了となるはずが今日は少し違った。


「宮下さん、入浴の件なんですが実は介護スタッフの田中さんが担当 

から外れたので今週から新人になります」

「そうですか」

 

 スタッフが退出した後私は天井を見ながら何か無作法があったのか 

など考え込んでしまったが特に思い当たるフシはなかった。

 ただ施設には友達もなく、これといった趣味のない私は入浴介助の際

つい昔の思い出話を一方的にしゃべることがあった。

 その際、内容があまりにも荒唐無稽で真面目に話を聞いてくれて

ないと勝手に思い込み、時折不機嫌な態度をとる事があったかもしれない。 

 もしそれが原因だとすれば彼女に悪いことをしてしまった。

 実のところ私自身もあれは夢だったのかもと疑ってしまう事も。

 

 あの日私はたまたまゴーストタウンのようなシャッター街に迷い込み、  

地下を走る謎めいたループライン(環状線)につい足を踏み入れて

しまった。

 それがまさか私の人生を根底から覆す事になるとは……。

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