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 焦りを感じた僕はお店を臨時休業とし、事態の真相を確かめるべく1人

市場方面へと向かった。

 交換ハードルを突如上げ、交換物はレアストーンに限って以降来れなく

なった村人達に尋ねるもはっきりとした理由が分からず途方に暮れて

いるとお高めの店で水瓶を品定めしているつい最近まで来てくれていた 

お客さんを発見した。


「こんにちわ! ひなのやのソラです」

「あら! ソラちゃん、ひさしぶりね」

「どうしてこんな所に? お店は大丈夫なの」

「今日はお休みにしたんです」

「そうなの」

「今、新メニュー考案中なんで近いうちまた来て下さいよ」

「そうなの! でも残念ながら行けないのよ」

「行けないって、どうしてですか?」

「レアストーンがもうないのよ」

「そうなんですか」

「あの~ ソラちゃん、勘違いしないでね。ストーンと交換する物は

いっぱいあるんだけどショ―ちゃんが交換してくれないのよ~」

「そうだったんですか」

「ソラちゃんからも交換するよう説得してくれない。結果あなた達の 

ためにもなるんだからさ」

「分かりました、頑張ってみます!」


 常連さんとお別れした後僕はその足でショ―ちゃんのお店へ直行した。

 ちょうど今日の仕事が終了したのかショ―ちゃんが石を片づけまさに

立ち去ろうとした瞬間僕は後ろから声を掛けた。


「ショ―ちゃん! どこ行くの?」

「おっ! びっくりするじゃんか」

「ひさしぶり!」

「おう……」

「ちょっと話があるんだけど今いいかな?」

「オレもソラちゃんに話があるからその先の土手で話そうか」

「うん」


 僕達はなるべく静かで人目につかない土手に移動したが着くなり

少し不機嫌なようすだったショ―ちゃんが堰を切ったように話出した。


「ソラちゃんのせいで最近石と交換してくれって客がやたら多くって

正直迷惑してんだよ!」

「そうなの?」

「そうだよ、まったく……。交換ハードル上げたんだってな、しかも

ストーン限定って辛い思いしてる村人に食べてもらいたいんじゃ

なかったのかよ!」と語気を強めた。

「もちろんそうだよ! 今でもそう思ってるよ! でも……」

「でも何だよ」

「でも現実はそうは行かないんだよ! 現実は」と僕は市場の方を指さし

ショーちゃんに畳み掛けた。

「あの賑やかな場所にお店出してる村人達ってどうやって決まったの?

答えてよ! ショ―ちゃん」

「それは……」とショ―ちゃんは口ごもった。

「結局は腕力であったり要領が良かっり、あるいは人気者であったり

とそれなりの力や能力のある者が暗黙の内に了承され特権を

得てるって事なんじゃないの!」

「ソラちゃん、なんとなく言ってること分かるけどあまり難しい言葉

使うなよ」

「ごめん、ごめん、つい興奮しちゃって。でもそれはウチのお店も同じで

立場弱かったり、辛い思いをしてる村人はいつも行列の後ろの方で

まずお店に入店することが出来ないんだ」

「へぇ~ そうなんだ」

「そうさ。だからと言って僕の独断で後ろの村人を入店させる訳にもいか

ないし、そもそも裕福な村人や要領のいい村人、乱暴な村人に

わずかな交換物で入店してもらう義理もないから交換ハードルを

上げる事にしたんだ」

「その気持ちは分かるけどハードル相当高いって聞いたぞ!」

「ショ―ちゃん、需要と供給の関係って分かる?」

「な、なんだよそれ」

「つまり価値のある物はみんなが手に入れたいからそれに

群がるだろ、だから自然と交換ハードルが上がるって事で

数に限りがあればなおさらなんだよ」

「そうかもしんないけどソラちゃんがハードル上げすぎなきゃいい 

だけの話なんじゃないの?」

「そういう訳にはいかないよ、だってソース作りや料理の仕込み 

結構大変なんだよ、ショ―ちゃんには分かんないと思うけど」 

「それと開店前に交換物で揉める事やお店前の大行列でいつも誰かに 

見られてるような状況に戻りたくないんだ!」

「そっか~ 結構大変だったんだな、ソラちゃんもひなちゃんも」

「分かってくれたようだね。で、僕からのお願いなんだけど……」

「何だよ、お願いって、大体分かるけど」

「そう! レアストーンをもっと村人達に開放してくれないかな」

「その件について少し時間もらえないかな、ソラちゃん」

「いやそんな悠長(ゆうちょう)なこと言ってる場合かよ。僕たちには

時間がないんだよ!」

「なっ! 僕とひなを助けると思って決断してくれよ、ショ―ちゃん」

「オレはオレの考えがあるんだよ」

「つまりアレだろ、格差的なことだろ」

 何も答えようとしないショ―ちゃんに僕は持論を展開した。

「確かに今までは物々交換で良かったかもしれないけどストーンが

流通するとまず村生活が劇的に便利になるはずだよ。それと

ストーンを貯めるとより高価な物を手に入れる事が可能になり村人の

やる気を高める効果も見込めるし、そこから野菜、果物などの食材

作りから物作りに至るまで活発になり今以上に村全体が豊かに  

なると思うんだ」

 黙って聞いていたショ―ちゃんが不安げな様子で僕に呟いた。 

「オレさ~ ソラちゃんみたいにちゃんと説明出来ないけどなんとなく

イヤな予感がするんだ」「ソラちゃんの町では実際その方法で上手く

いってるの?」

「えっ! まっ、まあね」と不意打ちの質問に一瞬激しく動揺したが 

僕は自身の要求を通すため更にストーン普及のプラス面ばかりを 

強調した。

「あのね、ショ―ちゃん、もし突然の台風で果物が飛ばされたり、

大雨で川が溢れ畑が全部ダメになったら村人達の生活はどうなる

と思う?」

「想像しただけでもゾッとするな」

「そんな時食べ物の備蓄があるとなんとか凌(しの)げるだろ」

「そのためにはストーンを流通させ、多少格差が生まれたとしても

村社会が豊かでないと村全体が死んでしまうんだよ」「いつもみんな

の事考えてるショ―ちゃんなら分かるだろ!」

「うん、そうだな……、ソラちゃんが正しいかもな」

「だろ! ショ―ちゃんならそう言ってくれると思ったよ。もしなんか

問題が起きればそん時はストーンを制限すればいいんだからさぁ~

もっと気楽に行こうよ!」

「分かったよ、ソラちゃんの言うとおりにするよ」

「じゃ、明日から頼むよ!」とショ―ちゃんの肩をポンと叩き、僕は 

足早に市場を後にした。




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