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僕達は遂に念願のお店”ひなのや”をオープンさせた。
お店はお昼頃開店、その日用意した食材がなくなり次第終了とし、
メニューは基本1種類のみで焼き魚にテリヤキソースを含め数種類の
ソースが選べ、それに日替わりのスープが付いたランチセットを
提供することにした。
主にひなが担当した内装はうさぎクラブの南国調とは少し違いシンプル
ながらも所々お花をあしらった女の子が好みそうな雰囲気に仕上がり、
入り口付近には交換した野菜や果物を置く台と魚用に水の入った
水瓶も用意した。
僕は魚の下拵(ごしら)えから焼き場の調整、ひなはジュースの用意
など一応の仕込みを終え、後はお客さんを待つばかりとなったが、期待
に反し初日のお客さんはゼロだった。
オープンから数日が経ち、ショ―ちゃんをはじめ、うさぎクラブの女の子達
が来店してくれるようになり、それにつられ少しづつお客さんが増え
始めたが当初の予想を大きく下まわり用意したランチセットが全て完売
することは1度もなかった。
それでも辛い立場にいる村人達の楽しそうな姿や接客するひなの笑顔は
何物にも変えがたく僕はそれで十分幸せだった。
そんな幸せな日々が数週間続いた後、お店の周りに突如ある異変が
起きた。
早朝僕達が釣りから戻るとなんとオープン前にもかかわらずお店の前に
20人程の行列が出来ていた。
ところが提供できるランチセットには限りがあるので全員には行き渡る
はずもなく僕は交換出来る物と出来ない物を新たな基準としてお客さん
の選別を迫られるようになった。
しかしそのような状況下では当然のごとく揉め事が発生し、僕は入店
出来ずに憤慨する者や不公平と騒ぐ者などへの対応に追われ
お店運営にたびたび支障をきたすようになった。
東京から持ち出した調味料で作るテリヤキソースやコンソメを隠し味
としたスープはこの村には元来ない味でうわさがうわさを呼び入店
希望者は日増しに増え続け、お店の前には常に大行列ができ、
開店前は常にちょっとしたパニック状態が続いた。
そんな中、なんとかして入店しようと僕のみならずひなにまで媚を売る者
やズルをしたり力で威圧し行列の前に並ぶ者が後を絶えず、立場の弱い
村人は結局行列の最後尾に追いやられることとなり僕達が本来ランチを
提供したい人達には行き届かない状況となっていた。
更に皮肉にも交換ハードルを下げていたので僕達があえて提供する
必要のない裕福な村人や傍若無人な村人がいい思いをするのとは
対照的に提供する僕達の暮らしぶりはいっこうに良くなることはなかった。
さすがに大勢の村人を前に不公平を承知の上で強引に立場の弱い
村人を優先させる勇気もなく、仮にそんな事すれば村人達に対するひな
の印象が悪くなると感じた僕はお店の方針を大胆に変える決意をした。
「ひな、ちょっと話あんねんけど……」
「どないしたん?」テリヤキソースをなめるひながこちらを向いた。
「お店楽しいか?」
「前は楽しかったけど今は楽しない」
「なんでなん?」
「お店に来る人あんまり好きちゃうねん」
「そやろ― 僕もひなと同んなじこと思ててな……、せやからちょっと
お店のやり方変えよ思うんや」
「お魚やめるん?」
「違うねん、お魚はそのままで交換ハードル上げよ思うねん」
「交換ハードル?」
「まぁ簡単に言うと今まではトマト1個でお店に入れたやろ、せや
けど今度から10個以上必要ってことかな」
「トマト10個ももらえんの?」
「そうや~ ひなもその方がええやろ」
「うん! その方がいい」
「しかも行列も減るしいい事づくめやろ」
「うん! ひな大賛成!」
「せやけどひな、実際はトマト10個もあったら腐ってまうから交換は
腐れへんレアストーンのみにしょうと思うねん。そしたらいつでも
市場で欲しいもんと交換できるやろ」
「うん! レラストーンにしよ」
「レ・ア・ストーンな」
「高級レストランひなのや明日から再オープン決定! がんばろな!」
「うん! ひな明日からもっとがんばる!」
僕の目論みどうり交換ハードルが高いにもかかわらずある一定の
お客さんを確保し、行列による騒がしさとは無縁の静かで和やかな
雰囲気の商いがこのまま順調に続くかと思われたがある日を境に
突如客足が途絶え始め、遂に誰も来なくなってしまった。
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