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僕達はひなが提案した家のちょうど左隣の平地にお店を出すこと
に決め、木材などで作った簡易な2人掛けテーブル2組、そして詰め
れば4人ほど座れる木のカウンターを設置した。
カウンターの奥には石で囲まれた焼き場が2箇所、平らな石で
繋がれた調理カウンター、そして水瓶、貝殻のお皿置き場となんとか
調理出来る環境が整いつつあった。
僕達にとって製作ハードルが高い屋根作りは残念ながら断念し、
雨の日および風が強い日はお休みとする青空オープンカフェスタイル
とした。
内装作業も終わりに近づいた頃、僕もひなもお互い避けて先送り
してきたある決断が迫りつつあった。
それは僕がひなと住み始めてから一度も近づこうとしなかったあの
美しいお花畑がある田園地帯に入るという事。
以前のひなにしてみれば村人達から意地悪されるも生活の為と
割り切っていたに違いないが今となればもうそんな思いしたくない
だろうし、僕にそんな姿見られたくもないだろう。
僕自身も以前ひなが村人達に囲まれ辛い思いをしているのに
助ける事すら出来なかったという負い目もある上、もし再び村人達
に囲まれてしまった場合、今度こそにひなを守ってあげれるのか
いまいち自信を持てなかったのが先延ばしの理由だ。
楽しそうに葉っぱで飾りつけをしているひなに思い切って声を掛けて
みた。
「ひな、お花畑のとこ行こか」
それまでの楽しそうなひなの顔が一変した。
「なんで~」
「料理作んのにココと違う草や果物も必要やねん」「ひな、案内
してくれへんかな?」
「いやや」
「なんでいやなん?」
「…………」ひなは今にも泣きそうな顔で俯いた。
僕はそれ以上理由は聞かず話を続けた。
「でもな~ ひな、せっかくお店作ったのに料理美味しなかったら
いややろ~」「テリヤキも出来ひんようになんねんで」
「テリヤキいらん!」
「そんなん言わんと~ 甘くて美味しいねんから、なぁ、ひな~」
しばらくの沈黙の後、お尻を向けてしゃがむひなに対し僕は
少し語気を強めて言った。
「ひな、ひなのこと絶対守ったるから、絶対に。約束する」
僕の言葉が少し響いたのかチラっとこちらを見た。
「ほんまや! 安心してええで、ひなっ!」
するとひなは飾りつけの葉っぱをテーブルにそっと置き無言で僕の
手を握るとそのまま川辺の方へ僕を引っぱりだした。
「案内してくれるんか? ひな」
「うん……」ひなは小さく頷いた。
「ありがとな、ひな」
僕はひなの小さな手をしっかりと握りしめ、広がる川を目の前に
自身納得させるかのように心で呟いた。
僕は変わらなきゃいけない。
こんな僕を信頼してくれいるひなを裏切るわけにはいかない。
どんな事があっても僕は変わらなきゃいけない。
ひながずっと笑顔でいられるように。
そのために来たんだから。
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