2-11(12)
僕はエレベーターに乗り資料部がある地下2階へと向かった。
扉が開くとそこは悪い意味で別世界だった。
薄暗い照明で床もあまり掃除されてる様子もなく、なんとも
重く、どんよりした空気を裂きながら奥へ奥へ進むと突き当りに
半開き状態の資料部の扉が……。
そお~っと覗き込むと人の気配がなく「すみませ~ん」と
恐る恐る声掛けてみた。
すると「どうぞ~」と力のない声と共に40歳は過ぎてるであろう
おじさんが現れた。
「キミ新人?」
「あっハイ、宮下といいます! よろしくお願いします」と挨拶し
ファイルを渡そうとするとお茶でもと誘われ中に入ることになった。
部署内にはおじさん以外誰も見当たらず、聞くと部の責任者らしい
が部下はいないらしい。
来年僕が営業部からここ資料部に移動になる事を伝えると
おじさんは急に上機嫌になり、時折唾を飛ばしながら
早口で話始めた。
話題は会社の噂話が中心で名前を出されても新人の僕は
ちんぷんかんぷん。
困った様子の僕に気づいたのかおじさんは話題を変えてきた。
「キミね~ 宮下くんって言ったけ」
「はい」
「まだ分からないと思うけどサラリーマンってのは実に気楽な
商売なんだよ」
「気楽……ですか?」
「そう! 気楽」
「だって会社の役に立とうが立つまいが必ずお給料が貰えるん
だからね」
「分かるかな~ 仮に自分で商売立ち上げて失敗でもしたら
借金に追われ最悪コレもんだよ」と人差し指を首に当てた。
「会社ってものは組織だから社員はパーツなの」
「沢山あるパーツの内1つや2つ機能してなくても特に問題
ないってワケ! 分かる?」
「はぁ~」と怪訝そうな僕にそのうち分かるからと肩をポンと
叩かれおじさんの熱弁? がやっと終了し僕は資料部を出た。
上京して今まで僕なりに精一杯頑張り、なんとか会社のお役に
立ちたい気持ちでいたのに会社から下された判断は早くも
お払い箱。
もう僕は必要とされないし何の期待もされてないってことか。
来年から資料部に移動しあのおじさんみたいになるんだ。
そんな失意の中、僕の心にぼや~っと浮かび上がるのは
あの改札だった。
ループライン……日を追うごとに僕の気持ちを強く強く惹き
つけてゆく……まるで僕を誘惑するかのように。
今回の件で今まで張り詰めてたものが一気に弾け、自暴自棄的
な、そんな気分が更に後押しとなり、今週の土曜日遂に僕はあの
列車に乗る決意を固めた。
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