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「ひなも行く――!」
「今日も大事な仕事の話があるんやからひなはお留守番な」
「いやや――!」といつものように泣き始めた。
「泣いたってアカンで!」と僕は泣きながら足に纏(まつ)わり付く
ひなを振りほどき一人で出掛ける日々が続いた。
もちろん休業状態のお店を任せる適任者探しの為だが、市場や
村の中心部に行けば村人達からチヤホヤされ、見た目は大人
でも腕力が7才児と気づいた僕にとってほぼ敵はなく、毎日大物
気取りで村を闊歩するのが気持ちいいというのも確かにあった。
ところがそんな僕にひなが敏感に反応し彼女の行動にある変化が
見え始めた。
それは僕が何処に行くにもひなが付いて回るようになったのだ。
顔を洗う時、洗濯の時、料理の時、寝る時も僕が仕方なく寝るフリを
しないとひなから先に眠りにつくことはなかった。
当然僕一人外出ともなれば出掛けるまでが大変で、帰りも一人家
で待てないのか家から数十メートル手前で僕を迎えるてくれることが
しょっちゅうあった。
「ひな~っ!」「家で待っとり― 言うたやろ!」
「おかえり― そらちゃん!」
「おかえりって、こんな格好で……、風邪ひくやんか!」
「しししっ!」
「しししっ、やないよ。寒ないか?」
「うん!」
「ほんまか?」少し赤みをおびたひなの額に手を当てた。
「ひな、熱あるんちゃうか?」
「別にしんどないよ」
「今はええかもしれんけど、ひどなったらアカンから早よ帰ろ!」
「うん!」
一人寂しかったのか妙にテンションが高いひなの姿に少し
安心した僕は明日の予定を伝えた。
「ひな、ゴメンやけど明日もお留守番してくれへんかな?」
「え~っ! 明日も出かけるの」「いやや~ ひなも行く―」
「その代わり明日が終わったらひなとお花畑行こう思てんねんけど」
「えっ! お花畑?」
「そう! お花畑。ひなといっしょに」
「ほんまに?」
「ほんまにホンマ! 約束するよ」
それを聞いたひなはよほど嬉しかったのか僕の周りをクルクルと何度も
回りながらぶつかるような仕草を見せた。
「そんなに嬉しいのん?」
「うん! 嬉しい。そらちゃんといっしょやったらどこでも嬉しい!」
「ひな、今度は怖がらんと堂々と2人でお花畑に入ろな!」
「大丈夫?」と一転少し不安げなひなに僕は自信満々に答えた。
「ひな、この前ゲンタ達やっつけたの見たやろ」
「うん! すごかった。そらちゃん、強いもんね!」
「そうや! ひなに悪さするヤツおったら僕がやっつけたる!」
その自信に満ち溢れた言葉はひなを安心させ、お花畑の件は
彼女にとって最大のお楽しみとなり、当日は僕を困らせることなく
すんなり笑顔で送り出してくれた。
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