13-3(62)
今まで体験した事のない優越感、爽快感を少しでも長く感じていたい
僕はひなを留守番させ、この日も市場を歩き回った後、最近ハマって
いるうさぎクラブへと向かった。
お店には既に先客がいるようで女の子達3人が奥のテーブルで談笑
しているのが見えた。
「また来たよっ!」と声を掛けると一斉に振り向く中にショ―ちゃんの
姿が……。
「おう、ソラちゃん久しぶり」と不機嫌そうに僕に一瞬目を向けた後、
俯いたまま何事もなかったかのように再び女の子と話し始めた。
「あの~ そっち行ってもいいかな?」と呼びかけると明るく歓迎して
くれる女の子達とは対照的にショ―ちゃんが曇ったような声で
「あぁ……」と一言。
椅子に腰掛けると開口一番ショ―ちゃんが眉をしかめながら僕に尋ねた。
「おまえ、店はどうしたんだよ」
「今、休業中なんだ。まっ、そのうち再開するけど僕は参加しないんだ」
「参加しないってどういうことだよ」
「実はお店をフランチャイズ化してこの先どんどん増やすつもりなんだ」
「なんだよ、そのフランなんとかって?」
「簡単に言うと他人にお店をやってもらってソースやスープの作り方を
教える代わりに売り上げの一部を頂くってことかな」
「ふ~ん、ずいぶんラクそうだな」
「ラクって言うなよ、それ以外にお店経営のノウハウ教えたりするんだから」
一瞬の沈黙の後、ショ―ちゃんが呆れたように言い放った。
「オレがバカだったよ。ソラちゃんに説得されてストーン解禁したけど
結局はソラちゃん自身のためだったんだな、やっと分かったよ」
「そんな言い方するなよ。みんなも僕のマネすればいいし、実際色々と
便利になったろ!」
「フン、お前やずる賢いヤツにとってはなっ!」
「どういう意味だよ!」とつい興奮して立ち上がってしまった。
「誰に知恵つけられたか知らんけど値段を操作したり、物があるのに
売らなかったりみんな迷惑してんだよ!」
「それはストーン解禁のせいじゃなくそいつ自身の問題だろ、いっしょに
すんなよ!」
2人の緊迫した状況に女の子達は慌てだした。
「大体ショ―ちゃんはカッコつけて理想語ってるだけなんだよ」と
ボソっと呟くといきなりショ―ちゃんは僕の胸ぐらを掴み、顔を真っ赤
にしながら睨み付け店全体に響くような大声で言い放った。
「もういっぺん言ってみろ!」
凄むショ―ちゃんの両手を僕は一瞬で払いのけ冷静に対応した。
「まっ、そんなに熱くなるなよ。今日はこの前ショ―ちゃんと約束した
とおり僕がご馳走するから座わんなよ」と促すように肩をポンと叩くと
彼はそれを振り払い「お前の汚いストーンで飲めるか!」と捨て台詞を
残し出て行ってしまった。
普段、見たことがない彼の行動に女の子達は一瞬にして凍りついたが、
その後かなり焦った様子で3人が今まで僕に秘密にしていたことを
話してくれた。
「ソラちゃんはショ―ちゃんのこと誤解してるよ」と1人が口火を
きると「そう! そう! 絶対そう!」と残る2人も激しく同意した。
「誤解ってどういうこと?」
「ショ―ちゃんは口だけじゃないってことよ!」
「口だけじゃないって?」
「そう、ソラちゃん覚えてる? よくショ―ちゃんがリヤカー引いてた
でしょ」
「あ~ あのお誕生日会の食材運んでるって言ってたヤツね」
「あれ、実は違うのよ」
「違うって?」
「ショ―ちゃんはこっそり立場の弱い村人や食事に困ってる村人に
タダで食材配ってたのよ」
「えっ!?」僕は一瞬言葉を失った……。
「だから今から追いかけてショ―ちゃんに謝った方がいいって!」
「ソラちゃん、早く! 早く!」と急ぎ立てる彼女達の目に僕は
ハッとさせられた。
それは幼少の頃、幼なじみが意地を張ってなかなか謝ろうとしない
僕を諭すように見つめたあの純粋な眼差しそのものだった。
僕はお店を飛び出し必死にショ―ちゃんを追いかけた。
はぁ、はぁ
はぁ、はぁ、はぁ
「お――い! ショ―ちゃ~ん!」
「ショ―ちゃん、さっきはごめん。あんな酷いこと言って、はぁ、はぁ」
「もういいよ」
「知らなかったんだ、はぁ、はぁ、ショ―ちゃんが食材配ってたなんて」
「オレはソラちゃんみたいに特別頭がいいわけじゃないし、なんの
知識も力もないから自分が出来る事をしただけだよ」
「でも普通なかなか出来るもんじゃないよ、すごいよ! ホント」
「そっか~ オレは普通だと思うけど」「ソラちゃんだって前いた町では
みんなの相談受けたり町全体を良くしようと頑張ってたんだろ」
「…………」
「どうしたんだよ?」
「違うんだ……」
「違うって何がだよ」
「ごめん、僕、ショ―ちゃんにずっと嘘ついてた」
「ウソ?」
「実は僕、有名どころかなんの取り柄もない役立たずな人間だったんだ」
「まさか~ ソラちゃんが」
「本当なんだ。会社では能力が低いからまともに仕事を与えてもらえ
なかったし、私生活でも空気読めないし人望もないからいつも一人
ぼっちだったんだ」
「で、でも実際ソラちゃんは頭いいし、なんでもよく知ってるじゃん」
「信じてもらえるか分からないけど僕が住んでた町は特区と言って
年月と共に精神が成長し続けることが出来る唯一の町なんだ」
「成長し続けるの?」
「そう、もちろん個人差はあるけどね。でも僕はその中でも特に精神の
成長が遅いいわゆる落ちこぼれだったんだ」と僕は正直に告白した。
一瞬の沈黙の後、ショ―ちゃんに目を向けると少し混乱しているよう
なので僕はまず電車の概念から駅番号の秘密、恐ろしいループラインの
ペナルティーについても丁寧に説明した。
――
――――
――――――
「どう、だいたい理解出来た?」
「うん、なんとかね……、ところでソラちゃん、この村は何番なの?」
「7番だよ」
「そっか~ かなり低いんだね」
「落ち込まないでよ~ 基本、村人達はみんな純粋で明るくいい人
ばかりじゃん!」
「まあな」
「ところでさ~ ソラちゃん、どうしてココ来たの?」
「偶然だったんだ、ホント単なる偶然で1日見物でもして帰るつもり
だったんだけどひなに出会っちゃって心が揺れたんだ」
「揺れたって?」
「ひなの置かれてる境遇があまりにも可哀そうで純粋になんとかして
あげたいと思ったんだ。それで一旦な特区に戻ったんだけどひなの
ことが忘れられず気づいたら電車に乗ってて今に至るって感じかな」
「そういうことだったんだ」
僕は村に到着したての頃を思い出し、当時の自分と今の自分との
ギャップに激しく落ち込み、今の心境を包み隠さずショ―ちゃんに
さらけ出した。
「僕は変わってしまった。しかも変わった事さえ気付かなかったんだ」
「たまたまこの村では他の村人達より経験や知識があり、腕力が
強いってだけでショ―ちゃんのように村人達に優しく接したり助ける
どころか調子に乗って優越感に浸り、人をさげすんだりイラついたり
……、ホント僕は馬鹿だった。イヤなやつだろ、僕って」
するとショ―ちゃんは「もう気付いたんだから前のソラちゃんだよ!」
と笑顔で僕の肩に腕を廻し「これからもずっとココにいて、また
前みたいにオレの相談に乗ってくれよなっ! 頼りにしてんだからさ―
ソラちゃん!」と僕の目をしっかり見つめ励ましてくれた。
僕は嬉しかった。
確かに精神面では僕の方が遥かに大人なのにショ―ちゃんの目は
純粋かつ真っ直ぐで力強くもあり、その奥にある懐の深さに僕は
ずっとこのまま心委ねていたいと思った。
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