14-1(66)

 目覚めると暗闇が辺り一面に広がり、次第に目が慣れいつもの

天井が姿を現す。

 天井を見つめながら今日の予定を整理するが特に何もなく

ため息を吐くがここ数日辛い思い出が断片的に色んな方向から

現れ私を更に落ち込ませる。

 出来るだけ楽しい事を考え蓋をしようと試みるも容易ではなく、

いつも施設スタッフのノックする音でようやく一時的にでは

あるがうつ状態から解放される。


〈コン!〉〈コン!〉


「宮下さ~ん」

「おはようございます! お変わりありませんか?」と女性スタッフ

はいつものように笑顔で窓のカーテンを開け「何かありましたら

遠慮なくおっしゃって下さいね」とだけ告げそそくさと出て行って

しまった。

「あれ?」

 以前なら「今日のご予定は?」と聞いてくれたのにもう聞いては

くれないのか。

 どうせ何もないからあえて聞く必要がないって事か、と一瞬

気分を害したがよくよく考えればそれは私を気遣った彼女なりの

優しさなのかもしれない。

 年を取るとちょっとした事で腹を立てたり、いつもと違うだけで

不安になったり、ヒガミっぽくなるというが本当かもしれない。

「イヤイヤそれは人によるか……」

 私は自ら反省を口にし最近購入したばかりの杖に少し体重を

掛けゆっくりとベッドから降り洗面所へ向かった。

 鏡に映し出される自身の顔をじっくり見つめ本日2回目の

ため息を吐いた。

 頭部は白髪が大半を占めるがボリュームがなく地肌が透けて

見える状態、しかもきっちり手入れされていない無精ひげが

なんとも汚らしい。

 当然肌もくすみ、あちらこちらにシミが目立ち普段あまり

喋らないせいか口角が下がり口がへの字になっている。

 昔雑誌の特集で【男の顔は人生の履歴書】とあったが私は

いったいどんな人生を歩んだのだろうか。

 妻や子供、孫どころか友人さえ誰一人尋ねて来ないという事は

きっと私が知らない無意識の人生はずっと孤独だったに違いない。

 しばしの沈黙の後、再び自身の顔をじっくり眺めほぼ間違いない

と理解した私は同時にこの先死ぬまでこのまま変化のない、味気

ない毎日をルーティーンのごとく消化しなければならないことを

覚悟した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る