ハイホーか? ドレミの歌か?

「お姉ちゃん、なんで歌ってるの?」


「うふふふ、おかしーい」


 チビドワーフたちの声に、マーリアは芝居がかった仕草で両手を広げてみせる。


「騙されたと思って歌ってごらんなさいよ、『きっと上手くいく』なのよ」


「うまくいく?」


「ええ、私に歌を教えてくれたお兄ちゃんが、そう言ってたの。歌えば、気持ちが明るくなって、なんでも上手くいくんですって」


「本当に?」


「本当よ」


 マーリアは、さらに高らかに歌う。


 ♪さあさあ、まずは自己紹介

 あなたの名前を教えてね

 はい、まずは大きなお姉ちゃん


 姉ドワーフは答えなかった。

 代わりに、二番目の兄ドワーフが歌い出す。


 ♪オイラの名前はレェ

 ドレミの二番目レェ

 兄弟の中でも二番目さ〜


 さすがは楽器職人を父に持つ子供達。

 マーリアの楽調に合わせて、即興で歌い出す。


 ♪ボクはミィ

 三番目の証さ〜


 その次はお下げ髪の少女ドワーフ。

 これはミュージカル女優みたいに、くるりとターンして歌い出す。


 ♪私はファア

 可愛い名前でしょ?

 ららら、ドレミファのファア〜


 これを聞いていたマーリアが、ポンと手を打ち鳴らす。


「まって、私、残りの子の名前、わかっちゃった!」


 そして、歌う。


 ♪あなたはソォ

 あなたはラァ

 そして一番小さなぼくちゃんがシィ


「正解かしら?」


 子供たちが口をそろえて答える。


「大正解!」


「ふふ、やっぱりね」


 子供たちのはしゃぐ声さえリズミカル。

 場はすっかり、ミュージカル!


 マーリアは、いっぱしの歌姫であるかのように両手を広げて歌った。


 ♪じゃあ、大きいお姉ちゃん

 あなたの名前は『ドォ』なのね?


 しかし姉ドワーフは、こんな茶番に付き合うつもりなどないらしい。

 普通の声音で、やや冷たく言い放った。


「ええ、そうよ」


 それから、少し怒ったように腕を組んで胸を張る。


「さあ、手伝ってくれるんでしょ、どうやって?」


 そんな反抗的な態度にさえ、マーリアはますます嬉しそうに目を細めた。


「うふふ、こうやって……よ」


 そして、高らかに叫ぶ。


「ハイホー! みんな、楽しく踊って~!」


 小さなドワーフたちが、タンタンタカタンと足踏みでリズムを刻みだした。


 ♪まずは片づけ

 おもちゃ箱に帰りたくて

 泣いてるおもちゃはいないかな?


 小さい方から三人、ちょこちょこと踊りながらおもちゃを拾い始める。


 ♪それから食器も洗いましょ

 洗うの上手な人は誰?


 おさげ髪の少女が、ぴょんと跳んでクルクルと踊り始めた。

 それから、食器の積み重なった洗い桶に手をかける。


 ♪ここは私に任せてね


 食器洗い用のたわしが、楽器であるかのようにシャッシャと楽しく鳴った。


 ♪さあ、次は大きなものの片づけよ。

 これは重いわよ

 アーユーオーケイ?


 兄ドワーフたちが、力こぶを作るしぐさを見せてから、踊りだした。

 食材の大袋を担ぎ上げ、楽しそうにステップふみながら運んでゆく。


 ♪さあ、次はあなたの番よ

 歌って! 高らかに!


 しかし姉ドワーフは、「ふん」と鼻を鳴らした。


「料理を作るだけなのに、歌っていられないわ。ばかばかしい」


「そう? 歌ったほうが、楽しいのに」


「あんたみたいなノーテンキと一緒にしないで。私は料理を作らなくちゃいけないの。どいて!」


 厳しい言葉を投げかけられても、マーリアはニコニコしている。


「はいはい、はい、どうぞ~」


 ミュージカル風の大げさなしぐさで場所を開けるマーリアを、姉ドワーフはきゅうっと睨み付けたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る