ソウルもブラッドもブラザーな男エドゥ


 経営も良好な良い孤児院で、俺たちは十分な教育を受けることができた。

 特に俺たち兄弟は吟遊詩人の家系ということで音楽に特化した教育を受けたのだ。

 だが残念ながら、俺のほうが弟より才能があった。

 だからこそ勇者のパーティに誘われて今に至る……っと。


 俺が孤児院につくと、弟は中庭にいた。

 ピンク色のエプロンをつけて子供たちの世話をしているのだ。

 吟遊詩人としての才能のなかった弟は、こうして孤児院を手伝いながら暮らしている。


「よお」


 俺は少しうつむき加減で手をあげる。


「兄ちゃん!」


 弟――エドゥは子犬のように目を輝かせて俺に駆け寄った。


「あれ? あれあれ? 勇者様と魔王城を目指しているのかと思ってた!」


「それなんだけどな、え~と……」


「あ、わかった! 危険なところに行く前に、家族に会っておけってやつだね!」


「ちげえよ! 縁起でもないこと言うな!」


 俺は腹立ちまぎれに弟の体をドンと突き飛ばした。

 子供たちがこれを見とがめる。


「やめて~」


「エドゥお兄ちゃんをいじめないで~」


 さすがの俺も、子供にキツイことを言う気にはなれない。

 たじろいで少し後ろに下がる。


「ち、違うんだ、俺はこいつのお兄ちゃんなんだ」


「え~、兄弟げんか~?」


「お兄ちゃんは弟に優しくするものだよ~」


 俺はさらにたじたじ、たじたじと後ろに下がる。


「や、優しくしてないわけじゃねえよ」


 それをとりなしてくれたのは、エドゥだった。


「そうだよ、お兄ちゃんって、不良っぽいけど、とっても優しいんだ」


 子供たちは声を揃えて「えー」と騒ぐ。


「不良じゃん、なんか派手な格好してるし」


「吟遊詩人だからね」


「傷だらけだし」


「勇者サマと一緒に旅してるからね」


「貧乏そうだし」


「それは、うーん」


 俺はそんな子供たちに向かってサムズアップを決める。

 本当は中指を立てたいところだが、教育的配慮というやつだ。


「貧乏上等、金は無くとも心は錦、それがロックンロールってもんだぜ」


「ロックンロールってなぁに?」


「教えてやるぜ、歌で!」


 俺はシアターを発動する。

 どこからともなく聞こえるエイトビートのリズムに乗せて。


♪刻め、魂の旋律ビート


 子供たちが激しくヘドバンしはじめる。


♪歌え喉が枯れるまで!

 世界の終わりまで続く馬鹿騒ぎ

 鳴り止まないぜミュージック!

 常識なんて蹴飛ばして、進め!


♪進め!


♪走れ!


♪走れ!


♪真面目なんてまっぴらごめん

 それが俺らの哲学ロックンロール


♪いえー


 これを聞いていたエドゥが、ほのーんと言葉を発した。


「お兄ちゃん、子供に過激なこと教えちゃダメだよう」


 とたんに、場に満ちていた俺の能力が無効化される。


 これが俺の弟の唯一の能力。

 こいつは俺のシアターを無効化することができる。


 もっとも、それ以外にはなんの能力もない。

 だからこんなところで子供の世話なんかしているんだが。


 エドゥは子供達を呼び寄せる。


「お兄ちゃんは優しいけど不良っぽいから、真似はしちゃダメだよー」


「はーい」


 そのあとでエディは、困った顔で俺を見た。


「でも、ちょうどいいタイミングで帰ってきてくれたよ」


「何か困りごとか?」


「まずは院長先生の話を聞いてあげてよ」


 エドゥが院長室に向かって歩き出す。

 俺はその後ろを追った。

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