ヒロインは爆乳シスター!
院長室にはいい思い出がない。
子供だった俺がそこに呼び出されるのは叱られるときだけだった。
そんなことを思い出して身がすくむ。
ドアをノックすると、ひどく年取った声が聞こえた。
「お入り」
恐る恐るドアを開けると、部屋の一番奥に院長が座っている。
これはもはやいくつなのかわからないくらいのババアだ。
俺が子供のころにはすでにババアだった。
そう考えると、今や相当なババア……。
最も、見た目はきちんとしている。
しわくちゃだが、着ているものはシスター服だ。
しわくちゃだが、しゃんと背筋を伸ばして座っている。
「お帰り、マストゥ」
この孤児院で俺たちは育った。
だからここは俺たちの実家みたいなもの。
訪ねればいつでも「お帰り」で迎えてくれる院長。
彼女は俺たちにとって母親だ……ババアだけど。
だが俺はババアよりも、その隣に目を奪われた。
ババアに寄り添うように立っているのは若い女。
首元のきっちり詰まったシスター服を着ているが、目算Fカップ。
つまり爆乳。
胸元がパツパツに盛り上がっている。
こうなるとシスター服の露出の少なさが逆にエロく見える。
俺はおもわず、エドゥに聞いた。
「誰?」
「お兄ちゃん、忘れちゃった? マーリアだよ」
「マーリアだって!?」
それは俺たちと一緒にこの孤児院で育った幼馴染。
顔立ちが良くて賢かった彼女は、早々に良い里親に引き取られた。
だから、こうして顔を合わせるのは十二年ぶり……。
「いやあ、立派に育ったなあ」
俺は全体的な成長をほめたつもりだ。
しかし体の中で一番突出した部分に目が向いてしまうのは仕方のないこと。
マーリアは俺の視線がお気に召さなかったらしく、胸元を押さえた。
声は冷たい。
「どこみてるのよ」
「いや、その……」
エドゥが俺の前に立ちはだかる。
「お兄ちゃん、どこみてるのさ!」
「いや、だからな……」
そんな俺を、ババアが一喝した。
「これ、マストゥ!」
「ええ~、べつに悪気はねえのに……」
「マーリアは男に傷つけられてシスターになった身、少しは気を使ってあげなさい」
なんか、すごい重いことをサラッと言われた気がするんだが。
「わかったよ、俺がうかつだった。今後気を付けるよ」
「よろしい」
「で、なんだか困りごとらしいじゃねえか、俺に話してみなよ」
「どこから話せばいいのか……」
少し躊躇した後で、ババアは一気に言った。
「この孤児院、借金のカタに取られて閉鎖することになりました」
「ええっ!」
「とりあえず来月までにお金が用意できなければ、閉鎖です」
「ら、来月まで?」
俺は院長の肩をつかむ。
「な、何でそんなことになってるんだよ、ここの経営は良好だったじゃないか。それに、ここが閉鎖したら子供たちはどこに行けばいいんだよ!」
「落ち着きなさい、ひとつずつ答えましょう」
「おう」
「まず、経営ですが、いつも大口の寄付をくださっていた方がなくなりました」
「なるほど、それで借金を」
「ここの子供たちがどこに行くかですが……」
院長は言葉を戸惑うように黙り込む。
長い沈黙が続いた。
その沈黙を破ったのはマーリアだ。
彼女の声は重く、そして硬かった。
「どこにも、行くところなんかありません」
「そんな! それじゃあ、ここに今いる子供たちは路頭に迷うってことか!」
「そうならないように、いろんなところに寄付をお願いしているのですが……」
「いくらだ、いくらあればいい?」
「1000万デリスタ、それを来月の十五日までに用意しなくてはなりません」
「くそっ、一千万か。勇者からもらった退職金だけじゃ足りねえな」
この言葉にいち早く反応したのはエドゥで。
「退職金? にいちゃん、クビになったの?」
「まあ、平たく言えばそうだな」
それでも、勇者と旅して退職金以上のものを得た。
「今の俺はレベル99、ソロ戦闘でも十分に稼げるさ。足りない分の金はそこらでモンスターでも狩って……」
「ダメです!」
突然、マーリアが叫んだ。
「たとえモンスターといえどひとつの命、それを傷つけて得たお金なんて、いりません!」
「いや、そうは言ってもさ、来月までに金が用意できなきゃ、ここ、潰れるんでしょ」
「それでも、未来ある子供達を血で汚れたお金で育てるわけにはいきません!」
「あのなあ、そんな綺麗事言ってる場合じゃねえだろ」
「それでも!」
「あー、はいはい、シスター様はご立派ですね」
なんだかむかっ腹が立つ。
俺はマーリアを睨みつけてやった。
「わかったよ、血で汚れてねえ金を稼いできてやる。それでお前の横っ面ひっぱたいてやっから、覚悟しろよ!」
エドゥはオロオロと俺の袖を引く。
「稼ぐったって、どうやって……」
「そんなの、今から考えるんだよ、お前も来い!」
俺はなんの未練もなくドアに向かって歩き出す。
「早くしろよ、エドゥ!」
エドゥの方は後ろ髪を引かれるように何度も振り返る。
チラチラとマーリアの顔を見ているのだ。
それで、俺は気づいてしまった。
エドゥはどうやらマーリアに想いを寄せているらしい。
「エドゥ、お前、マーリアのこと……」
俺が何を言おうとしたのかを、エドゥは悟った。
「あー、お兄ちゃん、行こう、もう行こう!」
俺はエドゥに押されて院長室を出る。
「いいじゃねえか、好きな女を助けるために旅に出るなんて、最高にロックンロールじゃねえか」
「そ、そんなんじゃないよ!」
「照れるなって……それより、さて、どうしたもんかな」
金は来月の十五日までに用意しなくてはならない。
短期で大金を稼ぐとなると仕事は限られてくる。
モンスター退治なんか、その最たるものだ。
ところが、モンスター退治で血に汚れた金は受け付けないと言われた。
ならば、どうやって一千万デリスタなんて大金を稼ぐか……。
「ま、とりあえず歩きながら考えるか」
俺とエドゥは孤児院を後にした。
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