職探しもままならない、そんな俺たちロケンロー

 歩きながら、どうしたってエドゥの恋が気になる。


「なあ、もう告白はしたのか?」


「そ、そんなの……僕の片思いだし」


「なんだよ、ロックじゃねえな」


 そんなことを言っている間に、ギルドへとついた。


 この町のギルドは小さい。

 大きな町ならばもっと仕事もあるだろう。

 だけどここじゃあ、冒険者向けの仕事なんてほとんどない。


 一つ目は畑を荒らす魔物を追い払って欲しいという依頼。


 大きな町の近くに魔物が現れれば、依頼されるのは『殲滅』だ。

 ところがこの依頼、殺してしまうのはかわいそうだから追い払うだけでいいと、なんとも生ぬるい。


 もちろん報酬もそれなりにお安くて60デリスク……。


「1000万デリスクにはとてつもなく遠いな」


 高額報酬が見込める仕事はひとつだけ、暗殺の依頼がある。


「お兄ちゃん、これ、100万デリスクくれるってさ!」


「ダメだ、それこそ血に汚れた金じゃないか」


「殺すのはモンスターじゃなくて、人だからいいんじゃないかな」


「お前は善人な顔して怖いことを言うね、ロックっつうよりブラックメタルだぜ」


 そう言った後で、俺は頭を横に振る。


「それに、暗殺は俺には無理だ」


「お兄ちゃん、レベル99なのに?」


「俺の武器を考えてみろ」


「音楽?」


「そう、つまり音もなく対象を始末するような仕事には向いてない」


「あー、音波攻撃、けっこううるさいもんね」


 エドゥの口から、さらにとどめの一言が。


「あ、わかった。だからクビになったんじゃないかな」


「ぐぬぬ、本当に天然で毒舌だよね、お前は!」


「で、暗殺もダメだとしたら、どうすんの?」


「早! 切り替え早っ!」


 まあ、次の手を考えるってのには俺も賛成だ。

 ロックンローラーは転がる石、立ち止まっている暇なんかない。


「もっと大きい街へ行ってみるか。この暗殺と同じクラスの仕事がゴロゴロあるはずだ」


「だけど、それって血で手を汚すお仕事だよねえ」


「わ、わかんないだろ、ここより仕事もたくさんあるんだから、高報酬だがクリーンな仕事ってのもあるかも!」


「たとえば?」


「ええ……超高級ゴミ掃除ミッションとか……」


「お兄ちゃん、ちゃんと現実見ようよ、どんなに高級でもゴミはゴミなんだよ?」


「じゃあ他に、どんな手があるんだよ」


「そうだなあ……」


 エドゥが壁に貼ってあるポスターに目を止めた。

 依頼掲示のボートとは真逆の壁に貼ってある普通のポスターだ。


「お兄ちゃん、これだよ!」


「これって、なんだ?」


 それは『ストックウッド音楽祭』のポスターだった。

 賞金はちょうど1000万デリスク。


 だが、俺は首を縦には振らない。


「ストックウッドってお前、国内最大の音楽祭じゃねえか」


「そのぐらい知ってるよ」


「観客動員数は四十万人を超えるとも言われている……プロの吟遊詩人がゴロゴロ出場する、これに、俺が?」


「お兄ちゃんだってプロじゃん。それにレベルは99、負けるわけがないって」


「しかし、俺は長い間戦うために歌ってきた……だから……」


「うん、だから?」


「歌なんか……忘れちまったよ」

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