ロックなソウルを取り戻せ!

 エドゥが驚いた声で俺に聞く。


「歌を忘れるなんて、そんなことあるの?」


「おっと、すまねえ、歌っつっても、ソングは忘れてねえ。声だって鍛えられて、ライブをこなすスタミナもついて、歌うだけならいくらだって歌えるさ。でもな……」


 俺はシアターを展開する。


「無効化するなよ、こんなの、恥ずかしくて素面で言えるか」


 それから存分に息を吸い込み、タカタカと短くビートを効かせて。


 ♪魂震わす歌!

 心刻むぜビート!

 それを忘れちゃ紡げない

 マイソウル

 ユアソウル

 イッツァミュージック


 俺は「イエー」でシメる。

 エドゥは容赦なく声を出してシアターを無効化した。


「そうか、ソングは歌えるけどミュージックを歌うにはソウルが足りないイエー、なんだね!」


「そういうことだ」


「じゃあさ、取り戻そうよ、ソウルを!」


「どうやって?」


「バンド組んでさ、ストックウッド音楽祭に出よう!」


「バンドって、お前と?」


「そう!」


「無理だ、お前、俺のシアターを無効化しちまうじゃないか」


「シアターなんか使わなくてもさ、お兄ちゃんの歌は世界一だったじゃないか!」


 エドゥはポケットから小さなハモニカを取り出した。


 パウゥと柔らかく音を歪ませてメロディを。

 酒に酔ったオヤジみたいな陽気な音質。

 この楽器にはR&Bがよく似合う。


 俺は肺を震わせるようにして歌う。

 シアターに頼らない、俺自身の歌を。


 いつの間にか、ギルドの職員たちが仕事の手を止めている。

 俺の歌に聞き惚れているのだ。


 エドゥのハモニカも調子を上げてくる。

 ワウワウワアワアと騒ぐ旋律が心地よい。

 歌いながら俺は、昔のことを思い出していた。


 まだ子供だった頃、俺と弟は聖歌隊だった。

 まあ、悪ガキだった俺たちが素直に讃美歌なんか歌うわけがない。

 聖歌隊メンバーの悪ガキたちとバンドを組んだ。


 神様だってロックがお好きに違いない。

 そんなノリで聖歌の代わりにロックを歌って怒られたのもいい思い出だ。


「そうだ、俺は、シアターなんか使わなくても歌えるじゃないか」


 振り向くと、エドゥが演奏を終えて笑ってくれた。


「兄ちゃん、ストックウッド、出よう」


「しかし、優勝できないと、1000万デリスクはもらえないんだぞ」


「そんなのはさ、あとで考えようよ。それがロックンロールでしょ」


「違いないや」


 俺は軽く笑い、エディに向かって片手をあげた。


 エディは軽く広げた手のひらで、俺の手のひらを打った。


 パァンといい音が鳴り響いた。

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