神様ギタリスト その名はページ

 そうと決まればメンバー集めだ。

 なんせ大きな舞台なんだから、アカペラってわけにはいかない。


「僕、ハモニカだけじゃなくてコーラスもできるよ」


 エドゥは自信満々だが、もちろんそれでも足りない。


「せめてギター、ベース、ドラムは欲しいところだな」


 心当たりはある。

 孤児院にいたころにつるんでいた悪ガキ仲間たちだ。


 特にギター担当のページは『ギターの神』と呼ばれるほどの名プレーヤー。

 こいつだけはなんとしても仲間に欲しいところ。


 そこで俺たちは隣町へと出向いた。

 孤児院を卒業したページは、この町の飯屋に引き取られた。

 そこの一人娘と結婚して今は店主だ。


 店構えは立派なものだった。

 通りでも一番人通りの多いところに見上げるように大きな建物。

 入り口は冒険者が好みそうなスウィングドア。


 俺たちはその扉を押して意気揚々と店に乗り込む。

 昼食の時間も過ぎたというのに店の中は混雑していた。


 きりっとしたウェイトレス服の女が客席の間を走り回っている。

 そのきびきびした態度は只者ではない。

 どうやらこれがページの女房だろう。


 腰に剣を下げたいかにも勇者な男が、手をあげてこの女を呼んだ。


「おい、おばさん……」


「おばさんじゃないよ!」


 かみつくような口調からは気の強さがうかがい知れる。

 その女は俺たちの姿を見て、店の一番奥の席を指さした。


「お二人さんね、そちらどうぞ」


「いや、俺たちは客じゃないんだ」


「客じゃないなら何? ごらんのとおり忙しいんだけど!」


「旦那はいるかい?」


 彼女は胡散臭いものを見るような目つきで俺をにらむ。


「うちの旦那に何か用かい?」


 まるで『旦那の全ては私が取り仕切っている』と言わんばかりの態度だ。

 きっとページのやつは苦労しているに違いない。


 俺がどう言葉を切り出そうか悩んでいると、店の奥から声が上がった。


「よう、マストゥじゃんかよ!」


 厨房から駆け出してきたのはページ本人だ。

 彼は俺の肩をバシバシ叩いて大歓迎の意を示す。


「なんだよ、勇者と旅をしている最中じゃなかったのかよ!」

「あー、クビになったんだ」

「なんでまた……ってか、立ち話もなんだから、座れよ」


 俺たちを客席に案内しようとするページ。

 しかしその前にページの女房が立ちはだかる。


「その人たち、何者?」


「ほら、前に教えただろ、同じ孤児院で育ったバンド仲間だよ」


「バンドマン、つまり、ろくな人間じゃないってことだね」


「何言ってるんだ、マストゥは勇者のパーティに在籍する、れっきとした冒険者だぞ!」


 俺は申し訳なくも言葉を挟む。


「いや、だから、それを先日クビになりまして……」


「聞いた? つまり無職のロクデナシ!」


 これにページがいきり立つ。


「おい、俺のブラザーたちにロクデナシとか、酷くないか?」


「無職でバンドマンなんて、ロクデナシ以外の何者でもないよ!」


 怒鳴り散らした後で、彼女は酷く冷ややかな目を俺たちに向けた。


「おおかた、ウチの人をバンドに誘おうって腹積もりだろうけど、そうはいかないよ」


 腕を組んで「はん!」と胸を張るページの女房。


「この前もどこだったかのバンドマンがスカウトに来たけど、追い返してやったのさ!」


 これはかなり手強い。

 俺は情に訴えてみる。


「これは、俺たちの実家である孤児院を救うためなんだ」


 彼女はその理由さえ聞こうとはしなかった。


「そんなの知ったことじゃないね。この人は今やウチのシェフで、この店になくてはならない人なんだ」


 取りつく島もないとはまさにこのこと。

 彼女はページにズイとせまる。


「音楽をやることは止めはしないよ、音楽は心を豊かにするからね。だけど、音楽じゃ腹は膨れない。この意味、わかる?」


「わかってる、音楽がやりたきゃ趣味でやれってことだろ。だけどさ、せめてこの二人の話を聞くくらい、いいじゃないか」


「ダメ! バンドマンなんて、どうせ金か女かドラッグの話しかしないよ!」


「それはずいぶんな偏見だな。俺たちはバンドといっても聖歌隊出身、めっちゃクリーンだぞ」


 しかし、彼女は夫の言葉にすら耳を傾けようとはしなかった。


「ダメなものはダメ! どうしてもっていうんなら、音楽か私、ここで選んで!」


 ページの女房は少しヒスり始めた。

 ところで俺は、女のヒスってのが苦手だ。

 だからシアターを発動する。


 彼女は金切り声をあげる代わりに張りのある声で歌いだした。

 まずはチューニング。


「ん~、ん~、ん~……オーイエー」


 ヒップでホップな感じ。

 悪くない。

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