目指せストックウッド!
翌日、テントを片付け終えた俺たちはヴィシャスとナンシーに事の経緯を話した。
「そう、つまり、その孤児院を救うためにストックウッド音楽祭に出場なさるのですね」
「そうだ、そのために、ヴィシャスのドラムが必要なんだ」
「わたくしは、ヴィシャスには音楽を取り戻して欲しいと思っていましたし、止めませんわ。でも、いいんですの?」
「こいつが魔族だってことか? 何度も言うが、別に気にしねえ」
「そうではなく、ヴィシャスは魔王直属の将です。それが人間と行動を共にするというのが、どのような意味を持つのか理解しておりますか?」
「どのような……?」
「つまり……」
ザザッと風切る音がして、俺たちの頭上に影が走った。
「やはり、追っ手をかけられたようですわね」
影は羽音を鳴らして舞い降り……三匹のガーゴイルが俺たちの前に姿を現した。
一匹は槍を、一匹は剣を、そしてもう一匹は鉾を持った、戦う気満々の奴らだ。
槍を持った奴が叫ぶ。
「ヴィシャス=シド! 反逆罪でお前を処罰する!」
この言葉を聞いたヴィシャスは、泣きそうな顔で俺を見た。
「あいつらの目的は私だ。だから……お前たちは逃げろ」
「ばっか、お前、そういうかっこいいセリフはもっとキリッとして言うもんだぜ」
俺はヴィシャスの左胸に軽く拳を当てた。
エロい意味じゃなく、親愛を込めて。
「お前のここに、音楽は鳴っているか?」
ヴィシャスは軽く目を閉じて微笑む。
「ああ、鳴ってる。昨日のビートがまだ、酔いのようにじんわりと」
「だったら、悩むな。権力にはとことん逆らう、それがロックンロールってもんだぜ」
「そうか、そうだったな」
ナンシーもニヤリと微笑む。
「決まりね、蹴散らしておしまいなさい」
「お前は手伝ってくれないのかよ」
「このくらいの敵、自分たちでなんとかしてもらわないと困りますわ。何しろ、わたくしの大親友を連れて行こうって言うんですから」
「なるほどね、たしかに」
俺はヴィシャスと肩を並べ、ガーゴイルたちを睨みつけた。
「なあ、ヴィシャス」
「なんだ?」
「音波攻撃のやり方、教えてやろうか」
「ああ、ぜひ」
「まずは、声に魔力を乗せる……」
俺は切りかかってくる剣持ちガーゴイルに向けてデスボイスを発した。
声は大気を震わせる音波となり、刀身に共鳴してその鋼を折り砕く。
「ほれ、やってみろ」
「こ、こうか? あー♪」
「違う、こうだ、ま゛ー♪」
「ばー♪」
ヴィシャスの声は小さく空気を振動させたが、攻撃力となるには未だ弱い。
ガーゴイルの鉾はためらう事なく振り下ろされる。
「あぶねえ!」
俺はためらう事なくシアターを展開した。
ガーゴイルが武器を投げ捨ててオペラ風に歌い出す。
♪いざや退治ようぞ 謀反の将を〜
素晴らしいオペラが始まるかと思いきや……
「隙あり!」
ヴィシャスは火焔を三発放つ。
ガーゴイルたちは瞬く間に燃え上がり、断末魔をあげる。
「いいねえ、敵は燃やし尽くす、ロックじゃねえか」
「そうだろう?」
俺たちは軽く手のひらを叩きあわせてハイタッチを交わす。
ナンシーも両手のひらを上げてハイタッチを待っていた。
俺はクスリと笑ってナンシーの手のひらを叩いてやる。
「これで文句ねえだろ?」
「そうね、安心したわ」
ナンシーは、そのままヴィシャスに駆け寄り、その体をひっしと抱いた。
「ヴィシャス、わたくしの可愛いヴィシャス、思いっきり暴れてらっしゃい、ステージで」
「ああ、行ってくる」
ヴィシャスの体を手放して、ナンシーは晴れやかな顔だ。
「ここからが大変ですわよ。ヴィシャスを連れている事で人間からも狙われる、ヴィシャスの行動を謀反とみなしてさらなる追っ手も出されるでしょうね。ストックウッドに着く前にくたばってしまわぬようにお気をつけ遊ばせ」
「くたばるつもりはねえよ、だがくたばったらそこまでだったってこった。それがロックってもんだろ?」
俺は意気揚々と顔を上げ、森の向こう遠くを見やった。
「さあ、行こうぜ、俺たちの旅はこれからだ!」
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