明かされるのか!? 衝撃の真実!
さて、ヴィシャスは湯上り用の薄衣を羽織ると、馬車に飛び込んだ。
「マストゥ、マストゥはいるか?」
ラッキースケベがうれしいのは、物語の中だけでの話。
馬車の中で待機していた男たちは、ぎょっとして凍り付く。
何しろヴィシャスが着ているのは、胸のかわいらしい色合いがうっすら透けるほど薄い木綿で作られたもの。
おまけにざっくり縫製しただけなのだから、太ももがむっちりとこぼれだしている。
「なんだ、みんな、変な顔をして」
ヴィシャスは湯上りの汗を飛ばそうと、薄衣の胸元を軽く仰いだ。
男どもは軽くパニック状態だ。
「マストゥ、俺は見てないから! 意外と乳首が小さいとか、見てないから!」
「拙者も見てないでござるよ! 太ももにほくろがあるとか、見てないでござる!」
「しっかり見てるんじゃねえか!」
マストゥは野郎どもの目を避けるように、ヴィシャスを馬車から押し出す。
「そんな恰好で男の前に来るバカがどこにいる!」
「む、マーリアが湯上りはこうしたもので汗を押さえてから着替えるのだと貸してくれたのだが、おかしいのか?」
「いや、その服装がおかしいんじゃなくて、そのままの恰好で人前に出るのがおかしいんだが……魔族っていうのは、そんなに性的にオープンなのか?」
「せーてきにおーぷん?」
「つまり……さ……」
マストゥがヴィシャスを視界から外すように横を向く。
「透けちゃってるんだよ、いろいろと……」
「透け……あ!」
ヴィシャスが慌てて胸元を押さえる。
「ち、違うぞ、魔族がみんなそういう風じゃなくてだな、私はその……ちょっと油断しすぎだって、ナンシーからも良く怒られる……」
「ったく、女だっていうことを、少しは自覚しろよ」
「そ、そんなこと言ったって、私はそこらの男より強いから、手を出そうなんて不届き者はいなかったし……」
「ふうん、じゃあ、これからは気をつけるんだな。俺は不届き者なんでね」
「ふ、不届き以前に、君は人間じゃないか!」
「あ? かんけーねーな」
マストゥはヴィシャスに向かって手を伸ばした。
「ひゃ!」
クビをすくめたヴィシャスの、帽子の中に手を入れる。
「魔族と人間の違いなんて、角があるかないか、その程度だ。そうだろ、ヴィシャス?」
「ひあああ、角触っちゃらめぇ!」
「と、茶番はこのぐらいにして、少しは危機感を持てよってことだな」
マストゥは、ヴィシャスからパッと手を放した。
「それより、俺に用があるんだろ?」
ヴィシャスは角を触られた余韻で、とろりと溶けたような顔をしている。
しかし、ハッと我に返って、マストゥに縋りついた。
「そ、そうだ、聞きたいことがある!」
「聞きたいこと?」
「マーリアは、両親を魔族に食い殺されたと言っていた。だが、知っての通り、魔族にはそんな性質はない」
「ああ、それか……」
「教えてくれ、マストゥ! マーリアの両親を食い殺したのは、本当に魔族なのか?」
「それを聞いてどうする?」
「もしも人を食うような魔族がいたら、そいつは犯罪者だ。探し出して、しかるべき処罰を与えねばならない」
「おいおい、戦争でバンバン人間を殺している魔族の言いぐさじゃないな」
「それはそうなんだが……」
ヴィシャスは戸惑う。
人を食い殺すなど、確かに正気の沙汰ではないが、被害者は人間だ。
魔族から見れば、邪魔な敵をわずかにでも減らす好ましい味方であるはずなのに……。
「そうか、そんな大げさな理由じゃないんだ」
ヴィシャスは、ようやく、自分の本心に気づいた。
「私はマーリアと友人になりたいと……いや、もはや私の方からは友人だと思っている。だから、友人の家族を手にかけたやつが許せなかった、それだけなんだ」
「マーリアは人間で、お前は魔族だぞ。なのに、友人に?」
「魔族と人間の違いなど、角があるかないかだけだと言ったのは君だろう」
「そっか、そうだったな」
口調は軽いが、マストゥの表情は硬かった。
いつものヘラリとした態度もどこへやら、まじめな顔でヴィシャスを見つめる。
「マーリアの両親を殺した犯人を聞いたら、お前はきっと、俺たち人間を嫌いになる」
「嫌いになんてならないさ」
「いいや、嫌いになってくれていい。人間は、それだけのことを魔族にしているんだ」
「嫌いになるかどうかは、聞いてから決める。教えてくれ、マーリアの両親を手にかけた犯人を!」
「それは……」
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