絶 体 絶 命 !

 マーリアは、さるぐつわでふさがれた唇を必死に動かして、何かを伝えようとしている。


 少しうるんだ瞳が訴えるのは、助けてという念願だろうか。

 それとも、逃げてという覚悟だろうか。


 いたたまれずに、ヴィシャスが叫ぶ。


「マーリア!」


 しかし、ニンジャの言葉が、それ以上の行動を許さなかった。


「おっと、動くなって言ったよな?」


「くっ、マーリアをどうするつもりだ!」


「我らは親切だからな、この無知な娘に真実を教えてやりたいだけだ」


 覆面からのぞく目元が細く吊り上がった。

 それは覆面越しにもわかるほどの、厭らしい笑いだった。


「女、こいつらがさっき言っていたことを聞いただろう。お前の両親を殺したのは魔族じゃない、俺たちのような汚れ仕事を受け持つ、『影』と呼ばれる存在だ」


 ニンジャは、ここでキッシーをにらみつけて。


「『恥部』じゃないからな、影だ!」


 さすがのキッシーも強く唇をかむばかり。

 ニンジャは満足そうだ。


「そうそう、それでいい。さあ、とりあえず、その刀を置いてもらおうか。この女の命が惜しいならばな」


「くっ、致し方なし」


「良いざまだな」


 ニンジャたちが蔑みを含んでゲラゲラと笑う。


「そもそも、俺はお前が気に入らなかったんだ。人間の暗部を担う、それこそがニンジャの誇り! なのに、お前はそれを嘲った!」


「卑怯者のプライドなど、拙者の知ったことではないでござるよ」


「だまれ、減らず口をたたくな!」


 ニンジャは口を閉じたキッシーから目を離し、ヴィシャスをにらみつける。


「おい、そこの女、帽子をとれ」


「え、こ、これは……」


「さっさとしろ!」


「くうううっ!」


 帽子の下からは、当然、魔族の証である角が現れる。

 それを見たマーリアの瞳が大きく見開かれた。


 対照的に、ヴィシャスは悲しそうに瞳を伏せる。


「マーリアさん、ごめん、隠してて……でも、友達になりたかったんだ……」


 ニンジャが「はっ」と声をあげて、これを嘲った。


「魔族と人間が友達に? なに夢見ちゃってんだか!」


「それでも……本当に……」


 しかし、友になろうという相手をだましていたことには変わりない。

 ヴィシャスは唇をかんで下を向いた。


 マーリアのほうは恐怖と混乱に涙を流すばかり。


「いいねえ、そういう顔が見たかったんだよ。親の敵と信じていた存在は、実は敵でも何でもなかった。おまけに、友人だと思っていた相手は、自分が今まで憎んできた魔族だった……くくくく、どうだ、世界のすべてに裏切られる気分ってのは?」


 そこで終わっておけばいいのに、彼は、余計な一言を口にした。


「さて、我々はこの女に『影』の秘密を教えた。これがどういう意味か分かるか?」


 とたんに、場の空気が一変する。


「あ~、このパターン、前にも見たでござる」


「あ~、あ~、ニンジャは秘密を知ったものを生かしておかないから、だっけ?」


「あ~、あ~、あ~、フラグ、たてちゃったねえ」


 三人が馬車に目を向けるから……そちらに気を取られたニンジャの手元が緩んだ。

 それこそが、彼の油断だった。

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