伝説のドラム職人は巨乳好き

 しかしこの勝負、圧倒的にマーリアが不利すぎる。

 その後しばらくして、父ドワーフとともに、少女はマストゥたちのところへ来た。


 この父ドワーフこそが、伝説のドラム職人ことトラップ氏である。

 マストゥたちは頑固で人嫌いな人物を予想していたのだが、意外にも彼は、ニコニコと人懐っこく笑う好漢であった。


「すいませんねえ、娘が何かわがままを言ったみたいで」


 客を廃工房で待たせた非礼を謝るにも腰が低く、礼儀正しい。


 ところが、その娘であるドワーフ少女は、「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「ワガママじゃないわ、自衛よ」


「これ! お客様を悪人扱いするんじゃない」


「だって、悪人っぽいもん!」


 トラップ氏は、マストゥたちに向かって深々と頭を下げる。


「すいませんねえ、幾分にも子供の言う事ですので、ご容赦ください」


 あくまでも紳士的……かと思えば、この男、ひょいと目線を上げて軽口を叩く。


「それにしても、ご立派ですなあ」


 彼の視線は、マーリアの胸に注がれている。

 とは言っても、人間よりもはるかに小さなドワーフ、たわわに張り出した豊かな胸の膨らみを見上げているわけだが。


「本当にご立派だ……死んだ妻を思い出しますよ……」


 トラップ氏はしんみりした声で言ったが、彼の娘はこれを聞きとがめて目尻を釣り上げた。


「パパ!」


「な、なんだよ」


「私、新しいママとか、いらないからね!」


 これで一同は、この娘がマーリアを敵視する理由に気づいてしまった。

 恐らくはマーリアの容姿はトラップ氏の好みドストライク、これに自分の父親が惚れてしまう可能性を危惧してのことなのだ。


 これを最初に否定したのは、トラップ氏本人である。


「あ、新しいママとか! そんなんじゃないから! お客様に失礼だろう!」


「ふーん、どうだか。パパ、胸の大きい人なら誰でも口説くじゃない」


「そ、そんなことはないぞ! 女性の価値は胸じゃないんだ!」


「はいはい」


 プイと横を向いてしまった娘をてあまして、トラップ氏はマストゥたちに愛想笑いを向けた。


「ともかく、ここじゃなんですから、まずはウチに。夕食の支度をしましょう」


 ちょうど腹も減ったところだ。

 マストゥたちはありがたく、この申し出を受けた。

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