新たなる仲間!なのかなあ?
食堂の一隅を借りて、マストゥたちはマーリアとコーヒーを楽しんだ。
魔族であるヴィシャスはコーヒーに馴染みがない。
つい砂糖を多めに入れてしまう。
味覚が子供っぽいエドゥも同様。
砂糖壺を抱えるようにしてバッサバッサとコーヒーに入れる。
マーリアがこれを見咎めた。
「エドゥ、そんなに砂糖を入れては、コーヒー本来の味がわからなくなるでしょ」
「えー、だって、コーヒーって苦いじゃん」
「そっちの……ヴィシャスさんだっけ? あなたもよ」
「コーヒーなんて、好きなように飲めばいいって教わった」
「誰に」
「マストゥに」
「そう……」
マーリアが顔を伏せ、暗い声音でつぶやきだす。
「へえ、マストゥが……そうなの、マストゥがあなたにねえ、ふーん、教えたんだぁ?」
ヤンデレモードの気配。
これを察知したマストゥは、空々しいほど明るい声を出した。
「えーっと、それで、マーリアは何をしにここへきたんだっけ?」
「そうそう、私がここにきた理由はね……」
マーリアがすっと居住まいを正す。
その表情はあくまでも優しく微笑んでいるのだが……。
「あなたたち、魔族と繋がってるんですって?」
声音は冷たく、固い。
別にマーリアが特別に魔族を嫌っているというわけではなく、これが普通の『人間』の反応である。
魔族と人間は現在、交戦状態にあるのだから敵だ。
お互いの種族に交流はなく、敵対種族としての悪評ばかりが流布している。
人間にとって魔族とは、自分たちの平和を脅かす危険思想の持ち主なのである。
人を見つければ問答無用で襲いかかる野蛮な種族だとも言われている。
それだけ関係性が悪化しているのだから、常識ある人間であれば「魔族は問答無用で悪人」、それが大原則なのだ。
それでも、ヴィシャスは魔族であるのだから、マーリアの言葉に肝を冷やした。
「ま、魔族って、そそそ、そんな、ななな」
しどろもどろになるヴィシャスの手を、マストゥが固く握る。
「落ち着け、ここは任せておけ」
彼は、そのままマーリアをキュッと睨みつけた。
「魔族がどうしたって?」
マストゥの声は強く、揺らぎない。
そして片手は、ヴィシャスを安心させるように、その手を握りしめている。
「なあ、マーリア、俺たちが魔族と関係してるなんて、そんなデタラメ言いふらしているのはどこのどいつだ?」
「風の噂で聞いたのよ。魔族の、しかも元魔王四天王の一人を仲間に取り込んで、何か良からぬことをしようとしているって」
「なるほど、良からぬこと、ね。例えば?」
「ええと、勇者を打ち倒して、人間の世界を混乱させようとしているとか?」
「なるほどなるほど、つまり、勇者にクビを言い渡された俺の逆恨み的な?」
「そんなところね」
「マーリア、お前は誤解している。俺は確かに勇者パーティをクビになったが、別に恨みになんか思っちゃいないんだ」
「そうなの?」
「まあ、俺みたいな優秀な人材を手放してザマァとは思ったが……だから復讐しようとか、思い知らせてやろうとは思わない。何しろ、今の俺には孤児院を救うための金を集めなきゃならないって使命があぅて、そのために奔走してるんだから、勇者のこととか構っている暇がないんだよ」
「ふうん?」
マーリアはまだ、心から納得したわけではなさそうだ。
「孤児院を救うって、いったい、なにをやっているの?」
マストゥは揺るぎなくマーリアを見つめて答えた。
「金策さ。俺たちはストックウッド音楽祭に出て、そこの賞金をいただいてくる。そのためのバンドだ」
マーリアが、これを鼻先で笑った。
「音楽でお金を? あなたが?」
「なんだよ、音楽は平和的だろ。血に汚れた金じゃないぜ」
「それはそうだけど……音楽なんてお遊びじゃないの。そんなのでお金が稼げるの?」
これには、ヴィシャスが少しムッとしたようすだった。
「音楽を仕事にしているやつだって、いるぞ」
しかし、マーリアは悪びれる風すらない。
「それは才能のある人でしょ。あなたたちじゃ無理」
ついに、ヴィシャスの怒りが頂点に達した。
彼女はバン!とテーブルを叩いて声を上げる。
「無理じゃない!」
勢いで跳ね上がったコーヒーカップがカチャカチャと鳴った。
だが、口下手なヴィシャスはそれ以上の言葉を持たない。
「無理じゃない。無理じゃ……ないんだ」
そう言ったきり、口を閉ざしてしまった。
さて、マストゥの方は、逆にこういうタイミングで口の回る男だ。
肩をすくめて、軽い口調で言う。
「マーリア、つまり君は、俺たち……いや、俺にはかけらほどの才能すらないって言いたいんだな?」
「え、そこまでは……言ってないけど」
「言ってるじゃないか! 君にとって音楽はお遊び、そのお遊びすら俺には高級すぎると、そういうことだろ?」
「だから、そこまで言ってないってば!」
「だったら落ち着いて聞け。ここにいるヴィシャスは、元プロバンドのメンバーだった。つまり、君がいうところの『才能のある人』だ」
「そ、そうなの」
「何を隠そう、ページはそのプロの世界から何度もオファーを受けた男だし。ま、いろいろ生活の方を優先して、プロにはならなかったってだけで、才能ある人の部類だな」
「へ、へえ、知らなかった」
「そこのサムライも、国では名の知れた三味線奏者だったそうだ。それに、俺だって、勇者のパーティで吟遊詩人として戦えるほどの腕だぞ?」
「エドゥは?」
「あー、あれは……プロからは声がかからなかったが、俺たちのメンバーに欠かせない……そう、ムードメーカーってやつだ」
「そ、そうなんだ」
「な、わかっただろ、俺たちは遊びや冗談でストックウッドを目指しているわけじゃないんだ」
マーリアが「ふふん」と鼻を鳴らす。
「でも、それって、あなたたちが魔族と繋がりないって証明にはならないのよね。もしかしたら、このメンバーの中に魔族が混じったりしているかも知れないじゃない?」
「確かに」
マストゥは否定しなかった。
だからといって肯定したわけでもない。
ただ、その場にいる全員に向かって、力強く語ったのだ。
「だけど、別に悪いことを考えているわけじゃない。俺たちはストックウッドを目指すことだけを考えて集まった、そうだろう?」
ヴィシャスが魔族だとは一言も明かさない。
だから、真っ先にページが同意した。
「その通りだ。俺たちはストックウッドのことしか考えてねえよ」
キッシーも頷く。
「さようにござる。拙者、ベースを弾くことしか考えてござらん」
ヴィシャスも、少しためらいながら言った。
「私もドラムが演りたいだけだ」
エドゥだけが少し戸惑いがちに。
「え、えー、あー、魔族とか、関係ないよね」
「お前は黙ってろ」
マストゥが少し鈍い弟の口をふさぐ。
「ともかく、俺たちはストックウッドに出る。なに、これだけ才能のあるやつを集めても負けることがあるのがコンテストってもんだ、負けたらその時に好きなだけ笑えばいいさ」
「笑っていいのね?」
「もちろん。その代わり、結果も出ないうちから俺たちを笑うんじゃあないよ。俺たちだって、遊びで音楽やってるわけじゃないんだからな」
「そう、わかったわ」
マーリアは静かに立ち上がった。
「私も、あなたたちについていきます」
この言葉に激しく動揺した人物はただ一人……ヴィシャスだけだった。
「ええええ、なんで⁉︎」
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