まさか、シアターが!?

 サムライは刀を斜に構えてそれを防ぐ……。

 かと思いきや、その姿勢のままニンジャに向かって特攻をかます。


「やあやあ、我こそは……以下省略ぅ!」


 振りぬいた刃は早すぎて、空気を切り裂く光線の一束にしか見えなかった。

 ニンジャのほうも、もはや人の目ではとらえることのできない速さで動いている。


 だから、マストゥたちには、金属同士がぶつかり合う甲高い音が聞こえただけであった。

 いくつもいくつも、ただひたすらに打ち合う金属音が耳に痛い。


 エドゥがマストゥの袖を引く。


「お兄ちゃん、これ、やばいんじゃないの」


「あ……ああ……やばい、こんなハイレベルな戦いはみたことがない」


 この言葉に、ヴィシャスは不思議そうな顔をする。


「勇者のパーティーに居たのに、か?」


「だってほら、うちの勇者サマって、パワー重視じゃん」


「あ~、確かに」


 好きな作戦は『ガンガン行こうぜ』。

 HP《体力値》の高い順に前衛に配し、後衛には回復術の使える者を。

 体力に任せて特攻をかまし、傷ついたら回復。

 さらなる特攻をかますという、荒っぽい作戦を好む。

 それが、マストゥが所属していたパーティーの勇者様だ。


「確かにあの勇者様では、こんなテクニカルな戦いは望めないな」


 ヴィシャスの言葉に、マストゥは肝をつぶす。


 彼の眼には、時折現れては掻き消える残像が見えるのみ。

 後は響く金属音で彼らのいる方向を予測するのが精いっぱいなのだ。


「まさか、これが見えている?」


「当たり前だ」


「すごいな」


「一応は魔王四天王が一人だったわけだし? 動体視力には自信がある」


「いや、もう、そういうレベルじゃないでしょ、これ」


 それでも、マストゥにはスピードもパワーさえも無効にする必殺の能力が一つある。


「踊って歌いながら攻撃はできない……ってね」


 彼はニンジャたちに向かってシアターを発動した……はずだった。


「あれ?」


「どうした?」


「いや、まさか……」


 ニンジャたちは相変わらず残像を残して飛び回っている。

 歌いだす気配はみじんもない。


「くそっ! もう一度! シアター!」


 恥かしくも技名まで叫んで気合を入れたというのに、やはり、状況は変わらなかった。


「こんなことは初めてだ!」


 叫ぶマストゥの背後に、一つの残像が飛びついた。


「お兄ちゃん、危ない!」

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