ニンジャ!? ニンジャナンデ!?

 その照りも消えぬうちに、ゴミバケツを蹴り上げて人影が飛び出してきた。

 屋根の上からも二人、黒装束に身を包んだ人物が飛び降りてくる。

 木箱を突き破ってまた二人、いずれも顔を黒い布で巻き隠して、人相すらわからない。


 ページが叫んだ。


「アィェェェェ!?」


 サムライがその後頭部に軽くチョップを入れる。


「うるさいでござる」


 そのあとで彼は、みんなを守るように一歩、ずいと前に出た。


「見ての通り、こ奴らはニンジャでござる」


「ニンジャとは、またマニアックな職だな」


 それでも、傭兵としてはサムライよりも早くこの地に参入した職だ。

 別称、東洋の暗殺者アサシン――。


 一人のニンジャが声をあげた。


「貴様! オヤカタ様を裏切る気か?」


 これにはマストゥが首をひねる。


「オヤカタなんて名前の将軍、この国に居たっけ?」


 サムライがこの疑問に答えてくれた。


「あれは『主君』……つまり雇い主を指すニンジャ用語でござるよ」


 サムライは唇の端を釣り上げて薄く笑った。

 嘲りを存分に含んだ顔つきだった。


「我らサムライは自らの誇りと引き換えに主君に仕えるもの、それ故にいかな場面においても胸を張って主君の名を告げるというのに、あの卑怯者どもは、自分の仕える人物の名すら隠語に混ぜて隠そうとするのでござるよ」


 ニンジャたちが地団太を踏む。


「ちっげーし! 雇い主の名を明かさないのは守秘義務だし!」


「それに、卑怯者はお前のほうじゃないか!」


「なぜ、その女魔族を斬り捨てない! 裏切者め!」


 よせばいいのに、エドゥが元気よく手をあげる。


「はい! 卑怯者と裏切者はイコールじゃないと思います!」


 ニンジャが答えの代わりに投げつけたのは、手裏剣だった。

 それも一人が一個ずつ。


 合計五個の手裏剣がエドゥを襲う!


「危ない!」


 マストゥの声よりも疾く、サムライが動いた。

 その動きは人の動体視力を超え、わずかな残像のみが彼の立っていた場所に残った。


「チェストォ~!」


 奇態な叫び声とともに再び彼が現れたのはエドゥの目前。

 もちろん彼を襲う手裏剣をたたき落とすべく、刀を構えて。


 五個の手裏剣はすべて、甲高い金属音とともに四方へ散った。


「ふう、戦えぬ者に平気で刃を向けるとは、さすがは卑怯者ニンジャでござるな」


 構えを引かぬサムライに向かって、ニンジャが声をあげる。


「お前は、その女魔族を斬るように任じられたのだろう。それを斬らぬということは、これを裏切りとみなされても仕方ないのだぞ!」


「裏切り、上等でござる。このおなごが、かつてはどれほどの将だったかは知らぬがな、いまはただのミュージシャン、つまりは非戦闘員でござるぞ。刃を持たぬ相手に刃を向けるは、拙者の武士道に対する裏切り……」


 サムライはぐっと足元に力をためる。


「そのくらいなら、貴様らを裏切るほうが、これ拙者の武士道に沿うところでござる」


「つまり、死ぬ覚悟ができたと、そういうことで良いな」


 ニンジャが覆面を外す。

 どいつもこいつも揃ってモブ顔だ。

 しかしもちろん、彼らの目的は単にモブ顔をさらすことにあらず。


「ふう……ニンジャが覆面を外す、この意味が分かるか?」


「わからぬでござるなあ、拙者、卑怯者の作法には詳しくないゆえ」


「ニンジャは己の正体を知るものを生かしてはおかない、つまり、お前たちを殺す!」


 五人のニンジャが残像のみを残して一気に跳んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る