微かに聞こえる……
とはいってもこの村、取り立てて見どころがあるわけではない。
何しろ岩山に棚田が張り付いたような地形なのだから旨い名物があるわけでなし、住んでいるのは小さなドワーフなのだから広いわけでなし。
だから、ドォの村案内というのは、とどのつまり『突撃!お宅訪問!』的なものだった。
「みて、ここが村長さんのおうちなの!」
そう言って見せられたのは小さな岩穴。
高さはマストゥが腰をかがめたよりも小さく、とても中へ入れる大きさではない。
それでも女性陣は興味津々で、しゃがみこんで中をのぞき込む。
「かわいい! 小さなベッド!」
「すごい、ドールハウスみたい。かわいい!」
大安売りみたいに『かわいい』を連呼するのだが、男性陣にはこの感覚がわからない……かと思いきや、猫を『猫ちゃん』と呼ぶ感覚の持ち主であるあの侍だけは別であった。
「かっわいいでござるぅ~!」
女みたいにキャイキャイ騒ぐ姿に呆れたページは、軽く肩をすくめる。
「わっかんねえな、なにがかわいいっていうんだ?」
「わっかんないのでござるか? ちっちゃいのって、もうそれだけでマジかわいいでござろう?」
「いや、だから、わっかんねえってば」
ページはため息をつき、軽く片手をあげた。
「わかったよ、好きなだけ見学しな。俺はそこらでタバコでも吸ってくるからよ」
そんなページを、キッシーが呼び止める。
「しっ、ページどの、足音禁止でござる」
「なんだよ、タバコも吸うなってか?」
「そうではなく、しばし静かにしてほしいでござる」
キッシーは目を閉じて岩壁に耳を押し当て、何かを聞き取ろうとしている様子だ。
やがて彼は、ふっと目を開けた。
「祭りでござろうか? 太鼓の音が聞こえるでござる」
ドォが驚いて振り向いた。
「聞こえるの? あれが?」
「うむ、岩を伝って、かすかにではござるが……ズンズンチャ、ズチャチャ、と鳴っておるでござる」
これを聞いた全員が「ズンズンチャは太鼓じゃなくてドラムだろ!」というツッコミの言葉を抱いたが、それが吐き出されることはなかった。
誰よりも早く、ドォがキッシーの足元に縋りついて、叫んだからだ。
「ねえ、本当にドラムの音が聞こえたの?」
「聞こえたでござるよ、実に楽しそうな太鼓の音が」
「もっと近くで聞きたくない?」
ドォは額に汗を浮かべて、どこか真剣さを感じさせる表情だ。
むしろ悲壮といってもいいほどの緊迫感……。
キッシーがこれに気づかぬわけがない。
だから腰をかがめて、深く頷いた。
そして、おそらく彼女が望むであろう言葉を。
「ぜひ聞きたいでござるな。案内をお願いしても?」
この言葉に、ドォの顔がぱあっと輝いた。
しかし口だけは困った口調で。
「しかたないなあ、あんたたちはお客さまだから、そこまでお願いされたら、行かないわけにいかないのよね」
「そうでござろう」
「いいわ、ついてらっしゃい!」
これはどうやらワケアリだ。
そう思った一同は顔を見合わせながらも、素直にドォの痕に続いて歩き出したのだった。
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