これって出待ちだよね?
次に欲しいのはドラム。
「あいつはどうしてる?」
俺が目星をつけたのはバンド仲間だった男。
彼は『アラシを呼ぶオトコ』の異名をとるヤクザなドラマーだった。
暴風雨のうなりのように叩き鳴らすドラムは前衛的でソウルフル。
プロのドラマーとしてデビューを果たしたことまでは知っている。
その後、俺が勇者のパーティーとして旅している間に音信不通になった。
「ああ、あいつなら死んだよ」
「死んだ!?」
「モンスターとのドラムバトルに負けて、壮絶な最期だったらしい」
「どんな状況だよ……」
死人を墓から引きずり出してスティックを握らせるわけにもいかない。
俺たちは新たなドラマーを求めて旅に出た。
何しろボーカルがいる。
ギターもいる。
味のあるハモニカで盛り上げてくれるサブボーカルもいる。
俺たちは辻に立って歌を歌い、日銭を稼いだ。
そのほとんどは酒場での飲み食いに消えたってのはロックンロールだが。
残った金で馬車を買い、飛び切り足の速い馬龍にこれを引かせる。
それは、そんな旅路の途中での出会いだった。
俺たちの馬車はちょうど大きな町へ向かおうとしている途中だった。
そのためにはどうしてもサライの森を通らなくてはならない。
俺たちは森のちょうど真ん中で夕暮れを迎えてしまった。
馬龍は森の肉食獣に比べて夜目の利かない生き物だ。
だから夜道を急ぐのは得策ではない。
俺は勇者との旅でそれを覚えた。
「ここからは町に向かうことよりも、テントを張れる場所を探しながら進もう」
そういうわけで、俺たちの馬車はのろのろと進む。
ちょうど森の真ん中まで差し掛かった時のことだった。
「とまれ!」
鋭い声と馬龍のいななき。
馬車はがくんと揺れて止まる。
御者台にいるエドゥが叫んだ。
「お兄ちゃん、魔族だ!」
俺は幌の入り口を跳ね上げて外へ飛び出す。
敵は単騎、白銀の龍馬にまたがった小柄な女魔族だけ。
これが馬車の進路をふさぐように道の真ん中に立っている。
燃えるような赤い長髪の中にとがった大きな角が一対。
胸は大きく、その谷間が見えるほどぴっちりとしたビキニアーマー。
顔立ちは大きな目元が印象的な美人。
だが気の強そうな女。
俺はこの魔族を知っていた。
「よぉう、ヴィシャスじゃないか」
「うるさい、知り合いみたいに呼ぶな!」
「知り合いだろ、何度も剣を交えた……あ、剣を交えたってのは比喩表現ね、俺、剣は使わないし」
「むう、相変わらずへらへらした男だ……」
ヴィシャス=シド――彼女とは戦場で知り合った。
魔王四天王の一人で『焔獄のシド』と呼ばれる火炎使いだ。
彼女は何をいきり立っているのか、腰の剣をすらりと抜いた。
その切っ先を俺に向けて冷たくひとこと。
「ここで私と戦え」
しかし俺は肩をすくめる。
「戦う理由がない。俺は勇者のパーティーをクビになったからな」
「知っている。だから私闘を申し込む」
「そんなことをしている暇があるのかよ、勇者サマを倒すのがアンタの仕事だろ」
「ああ、それはもう済んだ」
「はい?」
「お前のいないパーティーなど、力自慢の寄せ集めに過ぎない。瞬殺だった」
「あ~、勇者サマ、負けたのかよ、ざまぁねえな」
彼女は馬龍から飛び降り、剣を投げ捨てた。
「戦場で、私がいつも見つめていたのはお前だ。いつかお前を倒してやると、それを目標に戦ってきた。だから、いまここで、私と戦え」
「つまり俺のワンフーね、オーケーオーケイ、どこにサインしてほしい?」
「茶化すな! いつもみたいに、歌で向かって来い!」
「いや、ファンの期待を裏切って申し訳ないけどさ、俺、戦うために歌うのはやめたんだわ」
「戦うためではなく……では、なんのために歌うというんだ!」
「そりゃあ、もちろん、ラブアンドピース……平和のために」
「腑抜けたことを……ならば、戦いたくなるようにしてやるだけだ!」
ヴィシャスは両手をこね回すようなしぐさを見せ、手の平から火焔を放った。
その火焔は小さな玉となり、はじき出される。
火焔が向かう先は俺たちの馬車だ。
御者台に座ったエドゥが顔を恐怖にひきつらせた。
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