マーリアの決意

 エドゥはまず、自分を見下ろしているドワーフ少女をじっくりと観察した。

 顔立ちにあどけなさは残っているものの、背丈は人間の膝くらいまで――つまり大人に近い年ごろなのだろう。

 手足の細い体つきといい、ふとした手元のしぐさの大人っぽさといい、人間の娘でいうならばそろそろ働きに出ようかという、いわゆる大人の入り口に立った年ごろである。


 つまり子供扱いは失礼であると――そう判断したエドゥは、最初に少女の言葉を肯定した。


「たしかに、子供だけで留守番している家に上がり込もうなんて、大人としてやっちゃいけないことだと思う」


「あら、お兄さんはちゃんと礼儀を心得ているのね」


「だけど、僕たちは君のお父さんに用事があって、どうしてもここで待つ必要がある。ねえ、どうしたらいい?」


 少女ドワーフは少し考えてから、はっきりとした口調で言った。


「家ではなく、元工房で待っててちょうだい。あそこには職人さんが使っていた休憩室があって、くつろぐには十分だと思うし……後でお茶を持っていくわ」


「ありがとう、感謝するよ」


 とてつもなくさわやかに微笑んで片手をあげるエドゥを見て、マストゥは驚いた。


「なあ、あれ、本当にエドゥだよな」


 そっとマーリアに尋ねれば、振り向いた彼女はあきれ顔だった。


「なに言ってるの、エドゥはエドゥでしょ」


「あ、いや、俺の記憶では、あいつって、なんかこう……ぼんやりしてるしかとりえのない奴だったからさ」


「そうでもないわよ。あなたが吟遊詩人になってから仕送りしてくれたお金、あれできちんとした保育士の勉強をして、ゆくゆくはうちの孤児院の院長にどうかって、上から打診されているのよ」


「やっべ、めっちゃ将来設計しっかりしてるじゃん!」


 マストゥがよろめく。


「うう……やっぱり俺って役立たず……」


 ヴィシャスが、そんな彼を受け止めて支えた。


「大丈夫、マストゥは役立たずなんかじゃない!」


「ヴィシャス……」


「ちょっと生活能力はないけど……」


「うわああああん!」


 そんなバカップルを横目に、マーリアは今一度、あのドワーフの少女を見た。

 彼女の表情は相変わらず硬く、幼い弟をかばうようにその肩を抱いてやっている。


 しかし、エドゥが何か声をかけたその一瞬、少女のかたくなだった口元がわずかに笑いを浮かべたのを、マーリアは見逃さなかった。


 これがマーリアの闘志に火をつける。


「エドゥより、私の方が優しそうなのに!」


 きっとあの少女と仲良くなってみせる……マーリアはひそかに、そう誓ったのであった。

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