第9話 キングと言う名の大金なのだっ

 



 

 周囲が完全に凍りついて生き物の気配が消え去った事を確認してから、御金(ゴブリン)の集落に向かって足を踏み出した。



「おお、思ってたよりもちゃんとした集落なのだな」



 木々が開けるとそこには御金(ゴブリン)の集落が広がっていた。

 てっきり洞窟だったり藁で作られた家があるのかと思っておったのだが、目の前には石造りのしっかりとした建物がいっぱい見えるのだ。


 見た目的にはガタガタなのだが、藁や土の家よりは頑丈そうだぞ。


 そしてその建物の中には、蹲った常態で寄り添って凍りついた御金(ゴブリン)達の姿が沢山あった。



「ふむ、どうやら成功したようだな」



 自分の魔法がもたらした成果に満足して頷くと、早速凍りついた御金(ゴブリン)を着火(ディダ)焼いて、魔石を手早く取り出していく。

 そのまま集落の中へと進んでいくと、少しずつ『上位種』の氷漬けが目立つようになってきた。



「ふむ...。中心付近に上位種がかたまっておるのか?」



 探知(サーチ)で見た感じだと街の中心まではまだ距離があるみたいだな、この調子で上位種の数が増えていけば、銀貨のボーナスが期待できそうなのだ!


 しかし、やはり一体ずつ燃やして魔石を抜いていくのは面倒なのだ。いくら御金だとはいえ、最初の頃の高揚感は薄れてしまって作業に飽きてしまったのだ。



「そうだな、今なら出来るかもしれんな」



 ふと、思い至った考えに従って、集落の周りを一周しながら御金(ゴブリン)達の座標を調べて読み込んでいく。



「やっぱり思った通りなのだっ」



 これだけの数が動いておると座標の指定は困難なのだが、凍りついて止まっておると簡単に座標が指定できるのだ。これなら大量の魔石が一気に回収できて楽ちんだぞ。



「ふふふっ」



 やはり妾は天才だなっ!


   --着火(ディダ)



 座標の指定が完了すると、一気に燃やして灰にする。そうして出てきた魔石達を、そのままインベントリへと回収していく。

 


「ふっふっふ......。

 さてさて、今日の稼ぎはどうなったか...なっ」



 むほほぉっ、凄いのだっ!!


 回収した魔石の数を確認すると、インベントリの中に軽く300は入っていたのだ。

 そのうち100個近くは『上位種』の物だし、これなら金貨がえーっとえーっと...何枚だ?

 ......とっ、とにかく大量なのだっ!



「ふふ...ふふふふっ」



 この調子で御金が稼げれば、宝物庫付きの家(マイホーム)なんてすぐに手に入りそうなのだ。ますますやる気が漲(みなぎ)ってきたぞっ。


  

  --ドガァァァァンッ

      --ガラガラガラ


「なっ、なんなのだっ!?」



 妾が悦に浸っておると、いきなり目の前にあった一番大きな建物が吹き飛んだ。そのまま瓦礫は周囲に飛び散り、凍りついた大地の上で弾けると、滑るように転がっていく。


  --グギガァァァァァァアァァッ 


「ぬあああああっ」



 直後に咆哮が響き渡り、集落の壁をビリビリと揺らしていく。


 耳が、耳がキーーーーーンってなってるのだ。

 ううう......。いったい何なのだ?


 咆哮の主を確認しようと、吹き飛んだ建物の方へと視線を向けるとそこには...。



「おぉぅ......。

 あ、あれはまさかっ」



 そこから姿を表したのは、無骨な鎧に身を包み巨大な剣を手にした御金(ゴブリン)だった。

 体格は普通のゴブリンが1メートル程なのに対して、その存在は軽く3メートルは超えている。


 無茶苦茶でかい御金(ゴブリン)なのだっ。



「ニンゲン、ユルサン」


「ぬぉっ、なんか喋ったぞっ!」★



 突然の出来事に驚いておると、そいつと目が合って話し掛けられてしまった。

 しかし発音が悪くて何を言っとるのかわからんぞ...。


 だが、ふむ...。あれは見るからに大金(ゴブリンキング)なのだ。

 ならば狩るしかないだろう!!

 

   --ガアァァァァァァァアアッ

 

  --ドッ


    --ドッ


   --ドッ


「おっ」



 此方から行かなくとも、わざわざ向こうから来てくれたのだ。

 逃げられたら面倒だったしなっ、らっきぃなのだ。


 大金(ゴブリンキング)が地面を揺らして真っ直ぐ此方に突進して来る。 

 そのまま妾の目の前まで突っ込んで来ると、大剣を振り上げそのまま力任せに叩きつけてきたのだ。



「ふむ...」



 いくら妾でも、こんなのが直撃すると流石に痛そうなのだ。当たったらきっと杭みたいに地面の中へと打ち込まれてしまうぞ。


 それは嫌だしな、取り敢えず避けとくのだ。


   --ドゴォォォオオ...ン


 それで避けたのは良いのだが、予想外にも大剣が地面を抉ったせいで、土とか岩とかが弾けて此方に飛んできたぞ。


 ぬぅ、思ったよりも面倒なのだ。


  --盾(シールド)


 土で汚れるのは嫌だからな、取り敢えず魔法を使って防いでおいた。



「よし、間に合ったのだ」



 盾(シールド)を避けるように、土や瓦礫が舞ってそしてそれが降り積もる。


  --ボトッ


   --ボトボトッ


  --ゴトッ


    --ドサッ


 ぬおぉっ、ちょっ、ちょっと降り過ぎなのだっ! 沢山降ってくるぞ!?

 これは、盾(シールド)を使っておらんかったら体が埋まっておったところだぞ。


  --ズズ...ズズズ......

「ナニヲ、シタ...キサマ」



 埋まった刀身を引き抜きながら、大金(ゴブリンキング)がまた何やら言ってきた。

 相変わらず声が篭っておって言っておる内容がさっぱりわからんが、きっと華麗に避けた妾を見て『スゲェゾコイツ』とか言っておるのだろう。


 ふむ、それに此方を恨めしそうに睨みつけてきておるな。どうやら妾の使った魔法が気になっておるようだ。


  --ふふん


 妾の魔法は凄いからなっ。きっと、あの視線は羨ましいに違いない。


 さて、次はこっちの番だぞっ!



「飛ぶのだ」

   --ガゴォッ


 まずは手始めに魔力の塊をぶつけて吹き飛ばす事にした。


 だって近くで見ると結構ばっちぃくて、絶対触りたくないのだ。なんか御風呂に入ってない時の饐(す)えたような臭いもしたしな...。


 それで最初に吹き飛ばしたは良いのだが、どうやら大金(ゴブリンキング)は予想より軽かったみたいなのだ。


  --ガッ


   --ゴッ


 ちょっと思っていたよりも勢い良く遠くの方まで地面を転がって行ってしまったぞ。



「むぅ...」



 これはちょっと飛ばしすぎてしまったのだ。これ以上遠くまで飛んでいかれると面倒だぞ。


  --ズドンッ


「おっ」



 大金(ゴブリンキング)は20メートル程吹き飛ぶと、建物に突っ込んで止まってくれたのだ。

 森の中まで吹っ飛ばなくて良かった、森の仲間で吹っ飛んでおったら、魔石を取り出す時に着火(ディダ)でまた森が燃えて大変なことになっておった。



「ググ...ナンダ、コレハ」



 むぉっ、瓦礫の中から立ち上がったぞ。何だか全然無事そうなのだ。


 どうやら大金(ゴブリンキング)は結構しぶといみたいだな。

 普通の御金(ゴブリン)なら今ので倒せていたはずなのだが、アレはダメージを殆ど受けておらんみたいなのだ。


 妾のブリザードも耐えたし、伊達に図体がでかいだけでは無いわけか。

 そうなると、着火(ディダ)で一気に燃やし尽くすのも無理そうだしな...。



「んー......」



 かと言って、単純に火力を上げただけだと魔石ごと消し飛びそうだし。



「うぬぬ......」



 凍らすのも駄目、燃やすのも駄目、吹き飛ばすのも駄目...。


  --斬るか?


 いや、力を抑えた風魔法だと結局倒し切ることは出来んような気がするぞ。



「んん~......あっ」



 そうだ、水魔法に良いのがあったのだっ。


  --グァァァァァァァァァアアアアッ


 再び大地を揺らすような咆哮が響き渡った。


 ぬはぁっ、また耳がキーンって、キーンってなったのだっ。

 今度から此奴(コイツ)と戦う時は耳栓をしたほうが良いかもしれん。


 大金(オークキング)が、剣を構えて此方を睨みつけてくる。

 先程とは打って変わって、大金(オークキング)は此方の出方を伺うように、ジリジリと間合いを詰めて近づいてくる。


 どうやら逃げ出す気はないようだな。


 さて、警戒してくれておるところ悪いのだが、そろそろ晩御飯の時間なので終わりにさせてもらうとしよう。

 妾のとっておき複合魔法をくらうが良いぞっ!



「ウォーター」


  --それから浮遊させる為の重力魔法


「レビテーションッ」



 この水を出すだけの生活魔法『水(ウォーター)』。

 これを『浮遊(レビテーション)』で浮かせる事により、相手は陸で溺れる事になるというわけだっ。



   --タプンッ


  --グボッ!?



 大金(オークキング)の上半身を包み込む様に、大量の水を浮遊(レビテーション)で貼り付ける。



   --ゴボボボボッ



 --ガコン

   --パシャッ


  --ドガン

   --コポポッ



 剣を投げ捨て、為す術もなく空気を求めて暴れまわる。

 ふふふ、そう簡単には逃さんのだ。



  --ゴパポポポポポッ!!



 顔面に張り付いた水が、容赦なく大金(オークキング)の空気を奪い取っていく。



   --ゴバァァァァァッ


  --バシャッ


「うぉっと」



 あの耳がキーンってなる咆哮で、一瞬水が吹き飛ばされかけたぞ。

 危ない危ない...。



「ウォーター」



 飛び散った分の水を追加して。

 ...いや、増やしといた方が良いな。倍にしとこう。



  --コポッ......



 ふむ、どうやら今のが最後の足掻きだったようだな、急に大人しくなったのだ。



   --ズズン...



 おっ、やっと力尽きたか。ようやく地面に倒れて動かなくなったぞ。



「よしっ、これで後は魔石を取り出すだけだな」



 今回みたいな相手には、やっぱりこの魔法が有効だったのだっ。


 敵の魔法抵抗力(レジスト)が高かったりすると維持出来んし、動きが俊敏な相手だと捕らえきれんのが難点なのだが。次からも脳筋はコレで倒すとしよう。



「さて、それでは早速...」



 着火(ディダ)で灰にしてから、中の魔石をいただくとするのだ。




 


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