第10話 どうだっ 凄いだろうっ!?

 



 それで早速死体に魔法をかけてみたのだが、むぅ...。この大金(ゴブリンキング)、死体になってもしぶといのだ。一気に燃やせなくて、魔石を取り出すのに時間がかかってしまったぞ。


 火力を上げれば早く燃やせたのだろうが、それで魔石まで灰になってしまっては困るからな。此奴は大金なのだ、慎重に魔石を取り出さねば。


 それで時間をかけた結果、死体からは巨大な魔石が転がり出てきた。


 うむ、流石キングとか偉そうな名前が付いているだけの事はあるな。金色でキラキラしていて、観賞用に置いておきたいくらい綺麗なのだ。


 でも宝物庫が無ければ飾る場所が無いしな、今回は売って御金にするしかないのだ...。

 勿体無いが、仕方がない。



「ふぃ~...」



 それにしてもどうやらコレで完全にこの辺りのゴブリンは片付いたようだな。探知(サーチ)で周囲を調べてみたが、他に気配は感じられないのだ。


 まぁ、もっと他の場所を探してみれば、まだ野良ゴブリンくらいはいるだろうが、今日の労働はこの辺りでも良いだろう。


 それに残しておけばまた増えるかもしれんしな。そしたら再び稼げてウマウマなのだ。


 さてと、それでは帰るとするか。

 今回はかなり働いたからな、報酬がとても期待できるのだ。



「ふひひ...今から楽しみだぞ」



 頑張って沢山倒したし、これはもしかしたら『良くやった』と褒められてしまうかもしれんな。

 早くギルドへ持って帰って、この巨大な魔石を見せびらかしたいのだ。


   --御金(おっかね)~♪


  --御金(おっかね)~♪


 と、言うわけでだ。 

 高揚した気分のまま、全速力で街まで帰ってきてしまったのだ。そしてそのまま鼻歌交じりに屋台の立ち並ぶ街中を、ギルドへ向かって歩いている。


    --ぐぅぅぅ~


「むぅ...」



 周囲から立ち込める美味しそうな匂いに思わずお腹が鳴ってしまうが、今はまだ依頼の報告をしておらんから手持ちが無いのだ...。


 だから涙をのむような気持ちで誘惑を振り切りながら、今はただ真っ直ぐにギルドへ向かって突き進んでいる。


 この魔石達を換金すれば、ここにある物は食べ放題なのだ。

 食べ放題だぞ、全部食べられるのだ。


 だから我慢。


 今は我慢。


 我慢。


 我慢。


 我慢。


 よしっ、ギルドに着いたぞ。


  --バタン


 我慢した気持ちをぶつけるように、勢い良く扉を開け放つとそのまま建物の中に入った...のは良いのだが。



「うぅっ...」



 何だかとっても混んでるのだ...。


 真っ先に冒険者の行列が目に飛び込んできて、絶望とともに肩を落として立ちすくむ。

 そう言えば前に来た時も帰り際は混んでおったな、完全に忘れ去ってしまっていたのだ。


 うぅ、これに並ばなくてはならんのか? 早く報告して依頼料が欲しいのだが...。



「おぉ、無事だったか!?」


「...む?」



 今、何だかグラディスの声がしたような。



「おいっ、こっちだレム」


「お、おおっ?」



 またグラディスに名前を呼ばれたようなきがしたが。


 ふむ、周囲に人の壁があって確認がしにくい...。あっ、人混みの向こう側にグラディスがおったぞ!


 まさか御出迎(おでむか)えに来てくれたのか? もしや、妾は期待されておるのだろうか?


 ふっふっふっ...試験でグラディスを倒したのだ、そうだなっ、御出迎えがあるのは当然といえば当然なのだっ。



「出迎えご苦労なのだっ」



 くるしゅうないぞ......んっ?


 てっきり出迎えかと思っておったのだが、その表情はなんか違う気がするぞ。

 何でそんなに苦い顔で妾を見ているのだ?


 むぅ、出迎えではないとすると、いったいどうしたというのだ。グラディスに呼び止められる理由に全く覚えが無いのだが。



「はぁ......

 良いからちょっとこっちに来い」


「む?」


「ほらっ」


「ぬおっ」



 何か急いでいるのか、腕を掴まれて人混みから引っ張り出されてしまったのだ。いきなりだったのでちょっと驚いてしまったぞ。


 そして何の説明もないまま無言で奥へと歩きはじめて、階段を昇って...。ふむ、これはグラディスの部屋に向かっておるのか?


 しかし早足で歩くのはちょっと待ってくれんだろうか。御主(グラディス)の早足に付いていくと、妾は駆け足になってしまうのだぞ?

 それを少しは考慮してから歩いて欲しいのだ。


  --パタン


「さて、レム...」


「うむ?」



 部屋に入って扉を閉めると、すぐにグラディスが話し始めた。疲れておるからせめて椅子にくらい座らせて欲しいのだが、いったい何をそんなに急いでおるのだ?



「お前、ゴブリン討伐の依頼を受けたんだよな?」


「うむっ、受けたぞ」


「そうか......。

 もしかしてだが、もう討伐には行ったのか?」


「勿論なのだっ」


「マ、マジか...」


「う、うむ」


「おい、怪我とかしてねぇよな? 大丈夫だったか?」


「ど、どうかしたのか?」



 別に変な返答はしとらんのだが、急にグラディスが心配するように聞いてきた。全く理解が追いついておらんのだが、まずはここに連れてこられた状況くらいは説明が欲しいぞ。



「ああ、そうだな。実はな。

 ゴブリン討伐依頼のあった森で問題が起こったんだ」


「ん? そうなのか?」



 特に問題になりそうな部分はなかったと思うが、そんなに焦るような事態が発生しておるのか。



「とにかくそういうワケでな、あの森には暫(しばら)く出入り禁止になった」


「むぅ...禁止か」



 まぁでも、今日はがっつり稼げたからな、暫くゴブリン狩りが出来なくなっても問題ないか。

 しかし、いったい何があったのだろうか。流石にそれは気になるぞ。



「そうだな、本当は無謀なやつが現れんように情報規制扱いなんだが、お前には教えておいた方が良いかもしれんな」


「んむ?」



 おおっ?

 理由を教えてくれるのか。丁度気になっていたところなのだ。



「あの森で偵察依頼を受けてたパーティが、ゴブリンキングの痕跡を発見してな」


「キング?」


「ああ、Bランク討伐対象だ。

 だからそっちのランクで依頼(クエスト)を出すから、討伐確認がすむまであそこは封鎖する事になった。


 まったく、ギルドマスターがおらん時に限ってこんな面倒事ばかり起こりやがる」


「ふむ...」


「しかし御前、良く無事だったな。

 報告だと相当な数の上位種が出現してるって聞いていたが」



 んー...おそらくだが、グラディスの一手るキングと言うのは、あのでかいやつだと思うのだが。しかしアレは弱かったから、ここまで大騒ぎするとも思えんし。

 確かに珍しいゴブリンは沢山いたが、そう考えてみるとやはりあのでかいのが一番強そうだったからキングなのかもしれんな。


 何やら騒いでおるようだし、一応あれがそうだったのか聞いてみた方がいいだろうか? んー...。そうだな、聞いてみるか。



「な、なぁその...」


「ん? なんだ?」


「少し聞きたいことがあるのだが」


「ああ、どうした?」


「うむ...キングと言うのはどんなヤツなのだ?」


「キングか...そうだな。

 これくらいの、俺より少しデカイくらいのゴブリンでな、大きさが全然違うからひと目で分かるはずだ。

 だから見つけても絶対に手を出すなよ、危ねえからな」


「ふむ...」



 グラディスは2メートル半くらいの身長で、妾の倒したヤツが3メートルだったから...。おおっ! やっぱりあれがキングだったのか!?

 


「キング以外にその大きさのゴブリンはおらんのか?」


「そうだな、他のは割と小さいが...」



 むむむ...それでは、やっぱりあれがそうなのか...。



「どうかしたのか?」


「ふむ。多分なのだが...」


「ん?」


「キングなら妾が倒したぞ?」


「......何言ってんだおまえ? 頭は大丈夫か?」



 のぉぉぉぉぉぉぉぉっ。

 なんか凄(すっご)い馬鹿にしたような目を向けてきたぞ。


 でも...、でもっ。 本当なのだっ!!



「倒したっておまえ...。俺でも一人じゃ無傷で倒すなんて不可能だぞ」


「でも、あれは間違いないと思うのだ」


「いや、そうは言ったってなぁ...

 確かに試験での動きは凄いと思ったが、近接火力だけじゃ流石に倒すのは厳しいぞ」


「ぐぬぬ...」



 今度はグラディスが可哀想なものを見る目を妾に向けてきておるぞ。

 うぅ......。


 でも、確かに近接ではなく魔法を使って倒したからな。

 剣士だと言ってあるから疑われてしまっておるのかもしれん。



「はぁ......。そこまで言うならギルドプレートとキングの魔石を出せ」


「む?」


「まぁ、公にはされとらんがな、プレートには近くに居た魔物の情報が記録される」


「ほほぉ、それは凄いなっ」


「だから早くソレを寄越せ、あと魔石もだ。

 勿論拾って持ってきてるんだろ?」


「もっ、勿論なのだっ」



 ぬぐぐ、すぐに魔石(しょうこ)を見せてやるのだ。

 えーっと、キングの魔石は...よし、目を見開いてみるが良いぞ。



「コレなのだっ」



 取り出した魔石とプレートを、勢い良くグラディスへと押し付けてやった。



「あー...どれど...れ...」



 ふふん、驚いておるぞ。

 驚愕に目を見開いて言葉も出んみたいだ。



「嘘だろ、おい......

 ちょっと待ってろ」



 グラディスは魔石を見た途端、慌ててプレートを確認し始めた。


 しかしプレートに魔物を記憶する機能があるとはな、あの板(プレート)はとっても機能的なのだ。

 是非とも掛けられておる魔法を、いつか解析してみたいものだ。


 ん? どうやら確認がおわったか?



「おいレムリア...」


「うむ」



 何故いきなりフルネームなのだ?



「お前、そうとう実力隠してやがるだろ」


「んぐっ...」



 どっ、どうしてその話しになったのだっ!?




「試験の時は面倒事を避けてか、実力を出してないとは思っていたがな。

 単独で...しかも無傷でキングを撃破だと?

 言え、どんだけ実力を隠してやがるっ」


「あだっ、いだだだいだいのだっ」



 なっ、なんでいきなり頭を掴んで持ち上げるのだ。

 片手でブランブランされるとキツイのだっ、足が浮いておるぞっ、頭が抜けてしまうっ。



「しょっ、正面からぶっとばしただけなのだっ」


「ぶっとばした? 正面から...?」


「あうっ」



 はぁ、はぁ、やっと降ろしてもらえたのだ。

 もうちょっとで可愛らしい小柄な妾の身長が、スラリと伸びてしまうところであったぞっ。



「それで、他には?」


「む?」


「もちろん雑魚の方も倒してあんだろ? 魔石をだせ」


「おおっ、倒してあるぞっ。これが魔石なのだっ」


   --ジャラッ


「......」



 言われた通り、インベントリから雑魚と上位種の魔石を合わせて300個程を取り出した。それでそのまま目の前の机に、ばら撒くようにして積み上げる。


 それを目にしたグラディスは何故か引き攣った表情で固まってしまったが、言われた通りにしたと言うのにその反応はどうしたというのだ?



「おいっ」


「ひっ」



 なっ、なぜだ、グラディスの声で反射的に頭を庇って後ずさってしまったぞ。これはまさか、さっき頭を掴まれてしまったせいか?

 うぅ、どうしてくれるのだ。トラウマになってしまったではないか。



「はぁ...。報酬を用意してやるからちょっと待ってろ」



  --バタン


 そう言い残してグラディスはすぐに部屋を出ていってしまった。

 しかし、何故かグラディスの機嫌が悪そうなのだが、妾は何か悪い事をしてしまったのか?



「んー。わからん」



 まぁでも、報酬はちゃんと出してくれるみたいだしな、グラディスの機嫌なんてどうでもいいか。


 この世界に来てから初めての稼ぎなので楽しみなのだっ。


  --ガチャッ



「おっ?」



 どうやらグラディスが報酬を持って戻ってきたみたいだな。



「待たせたな、とりあえずゴブリンの報酬を渡しておく。

 ああそれと、悪いが上位種とキングは明日まで待ってくれ、数が多くて準備に少し時間がかかる」


「んむ、そうか」



 そう言ってずっしりとした袋を手渡された。



「おおっ」



 中を覗いてみたが銀貨が100枚は入っておるぞっ。

 これだけあれば好きなだけ露天の食い物が手に入りそうなのだ!


 そうだな、報酬を手に入れた事だし、自分へのご御褒美に今から美味いものをお腹いっぱい食べにいくぞっ。

 この世界に来てから美味いものが殆ど食えておらんからな、今度こそ食い歩きをするのだ。


 それで、早速ギルドを出た足でそのまま露天へと向かったのだが。これは...。



「露天が無いではないか!?」



 むぅ、どうやらグラディスと話してる間に閉店時間になってしまっていたようだ。日が暮れて露天は殆ど店じまいされていて、串焼きの店しか開いておらんかった。

 仕方なく宿屋のメシよりはマシだからと、串焼きの店で余っていたやつを買い占めて、泣く泣く宿屋に帰ることにした。



「うぅ、楽しみにしておったというのに残念なのだ」



 明日こそは。

 そう、きっと、明日こそは。


 買い食いツアーをしてみせるのだ!!


 ちなみに買った串焼きは余り物だったので味は微妙だったのだ。



 


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