第11話 パーティ昇格試験

 

 

 ◇ ◆ グラディス ◆ ◇




「はぁ......」



 ゴブリンキングの件があった次の日、俺は自分の部屋で頭を抱えて深い溜息を吐き出していた。



「どうすっかなぁ......」



  --クソッ


 何で俺がこんなに悩まんといかんのだ。

 こういったのは糞婆(ギルドマスター)の仕事だぞ?


 そもそもの原因はあんな規格外の少女が現れたせいだ。


 レムリアの、あいつの強さはどうなってんだ?

『剣士』だとか言ってるが、下位職の剣士があんなに強いわげがない。


 それに『14歳』だと? あんな14歳が居てたまるかよっ。

 例え天才だろうと熟練の雰囲気を纏うには、それ相応の時間と経験が掛かるもんだ。


  --なんだアレは?


 剣筋に一切の迷いは無いわ、手加減までされてる感じがするわ...。

 まるで格上の相手に手解きを受けてるみたいだった。



「はぁ...」


  --それだけじゃない


 昨日は魔石に気が取られて気にならなかったが、アイツの使ったあの魔法。アレは空間魔法の『収納(アイテムボックス)』だよな?


 あの魔法を使える人間自体はそれなりに居るが、それでも使えるのは上級の魔導師に限っての話だ。

 それを使ってたって事は、レムは上級の魔導師だって事になる。

 


  --絶対100歳は超えてるな


 エルフってのは年齢が外見と一致しない種族だ。

 剣だけでも熟練してるのに上級魔法まで使えるって事になると、それなりの年月を生きてるはずだ。じゃないとあの戦闘力は説明がつかねえ。


 すぐ身近にも外見が少女の100歳越えた糞婆(ダークエルフ)が一人いるからな。アレと同類の規格外って事はまず間違いないだろう。


 此処まで明らかに歳や職(ジョブ)を誤魔化してんなら、本来は理由を聞くべきなんだろうが。



「だがな...」



 あのレムリアとかいう少女は、どうも目立つのを避けてる節があるし、下手に詮索すれば行方を晦(くら)ます可能性がある。

 見えないところで問題を起こされるよりは、まだ見えるとこで何かやらかされる方がマシだしな。詮索するのは避けた方がいいだろう。


 まぁ、目立ちたくない理由は何となく察せるし、冒険者ギルドにワケありが流れ付くなんてのは日常茶飯事だ。

 元々登録詐称くらいは見逃すつもりだったし、そこはもう追求する必要はない。

 

 問題なのは隠してる実力と、あいつの人間性だ。


 一見すると調子の良いただの冒険者なんだが、ゴブリンキングに迷いなく突っ込む性格は危険だ。

 それに、ゴブリンキングを無傷で単独撃破してしまうような実力を持ってるとなると。



「やっぱりSランクか」



 元Aランクの俺でもゴブリンキングくらいなら単独で倒せるが、無傷で倒せるかは正直言って難しい。

 しかもあの耐久力と腕力だ、倒し切るにはかなりの時間がかかるだろう。


 それを半日足らずで撃破してくるような高火力。しかしあれだけの実力者にも関わらず、調べてみたが噂一つ見つからなかった。

 普通はあれだけ戦闘力が在れば多少なりとも名が通ってるはずなんだが。


 考えられるのは、閉鎖的なエルフの里に引き篭もっていたか、それとも裏の世界に生きて居たかくらいだ。



「いっその事、詮索しない程度に聞いてみるか?」



 いや、隠してんだし簡単に話してくれるわきゃねぇか。



「はぁ......。

 どうすっかなぁ」



 それに問題なのはレムの過去だけじゃねぇんだよなぁ。


 昨日の、ブリンキングを『正面からぶっとばした』とか言ってやがった事も問題だ。


 ゴブリンキングの討伐では、まず周囲に居るゴブリンから討伐する。

 何故なら、キングを先に倒してしまうと残ったゴブリン達が集団暴走(スタンピード)を起こすからだ。


 今回、もしもレムが雑魚より先にキングを倒していたら。

 あの魔石の数...『上位種107体』と『雑魚214体』が、この周辺地域に襲いかかっていただろう。



「......知識を付けさせるのが急務だな」



 何も知らんまま適当に魔物を討伐されると、いずれ周囲に多大な被害がでるだろう。



「厄介だな。厄介すぎる...」



 普通のCランクなら知らなくても良いんだ。キングに立ち向かったところで倒せやしないし、返り討ちにあうのが関の山だ。


 だがAランク以上は倒し方を知らなきゃならないし、知っていないとBからAランクにはまず上がれない。

 でもレムはEランク並の知識に、Sランクレベルの戦闘力を持ってやがるわけだ。


 そんな人間を野放しにしてたら、問題が起こるのは目に見えて明らかだ。 


  --何とか抑えられんもんだろうか?


 知識を持ってない人間に『責任もって行動しろ』と説教したところで、知らずに問題を起こすんだから意味は無いし。

 何か枷になるものでもありゃいいんだが。



 普通は上位ランクへ上がるまでに責任感やら誇りやらって枷も付いて来て、そのあたりの評価も含めてギルドは昇格(ランクアップ)試験を提案する。

 その点で問題があれば手に負えなくなる前に対処するのもギルドの仕事だ。



  --人格に問題があれば、実力が上がる前に潰せば良い...


   --だが、既に高ランクで色々と問題がある場合は...



「あぁ...まいったぞこりゃ...」



 早くレムの知識をAランク以上に上げなきゃならん。



「普通これはギルドマスターの仕事なんだがな」



 しかし今月はギルド間の定例会議が行われていて、ギルドマスターが不在なのだ。

 糞婆(アレ)さえ居ればこんな面倒事はとっくに投げつけてたってのに、本当に間が悪い。


 今頃は今年の開催地である『聖徒クラリス』で、何時もの会議が始まってる頃だろう。



「はぁ......」



 今日何度目になるかわからない溜息が口から漏れる。


 最初はEやDランクのやつらとパーティを組ませて徐々に知識を付けさせてみようとも考えてみた。

 だけど、あんなのにEやDのやつらを付けたら死体になって帰ってきそうな気がする。



「と、なればAランクの冒険者か?」



 だが、Aランクのパーティに『Cランクを混ぜて討伐』なんて依頼(クエスト)を掲示しても誰も受けるわきゃねぇしな。

 かと言って、俺の権限だと緊急でもないのに指定依頼なんてのは出せないし。


  --何か良い手はないものか...


「うーむ...」


   --コンコン


  俺が唸りながら悩んでいると、唐突に扉がノックされた。



「ん? 開いてるぞ」


「失礼します」



 俺が入室を促(うなが)すと、受付のリィナが部屋の中へと入ってきた。


  --受付嬢が俺の部屋に来るって事は...もしかしてっ!



「何かあったのか? まさかまたレムリアか?」


「い、いえ...」


「そ、そうか」



 いかんいかん、受付の者が来たせいで早合点してしまった。

 リィナも何やら心配そうな瞳で此方を見ているし、これは自分で思ってる以上に病んできているみたいだな。



「それでは何の用だ?」


「は、はい。Bランクパーティ『蒼天の剣』のリーダーをしているジョニアック様がパーティ昇格試験の申請に来られたのですが、いかが致しましょうか?」


「ほう...」



 冒険者個人にもランクが在るように、冒険者ギルドに登録したパーティにもランクが存在する。

 あのパーティはリーダーがランクAの冒険者で、副リーダーもA、後一人がBの3人パーティだったな。



「思っていたより早かったな」


「はい、彼らのパーティは連携が良いと有名で、依頼主からの評判も良いですし

 ギルドとしてもかなりの追加報酬やボーナスポイントを付与していますので」


「そうか...ふむ。評判が良いか...!!」



  --思いついだぞっ


 『評判が良い』...なら、冒険者の心得も行動も模範的だ。そして、俺は糞婆(ギルドマスター)から昇格試験の決定権をあたえられている。


 だから蒼天の連中にはレムを助っ人として1週間程の討伐依頼を受けてもらおう。

 丁度良いことにグリフォンの巣が街の北側に発見されたところだ、それの討伐をさせれば良いだろう。


 ただ、グリフォンの数や正確な巣の場所の調査はまだだが。

 レムのやつ、依頼と言ったら討伐って思ってる感じがするしな。ここでレムにそういった調査の依頼を積ませるのも良いだろ。


 兎に角、1週間だけでも時間が稼げれば問題は解決だ。

 糞婆(ギルドマスター)が帰ってくるからな。


 見た目と性格はアレだが、実力は折り紙付きだし、糞婆(ギルドマスター)に任せてしまえば大丈夫だ。

 そもそもこういった問題の対処をするのは糞婆(ギルドマスター)の仕事だしな。


 ただ問題は...。


 この依頼、蒼天は簡単には受けてくれねぇだろうなぁ。

 調査されてないグリフォンの巣を排除。敵の数すらわからんような依頼を受ける人間はAランクには存在しない。


 ぬぅ...。


 そうだな、断られたら試験内容を切り替えるか。

 ゴブリンキングを討伐したとはいえ、その方法を聞いても『正面からふっとばした』としか言わねえし。

 丁度いい、蒼天にはレムの戦闘能力を確認して報告してもらおう。

 それを試験内容にしてしまえば一石二鳥だ。

 レムもあいつらと行動を共にすりゃあ、少しくらい慎重に行動する事も学ぶだろ。



「よしっ」



 完璧だ。


 そうと決まればすぐに準備へ取り掛からねば。


 レムなら昨日の報酬を受け取りにもうすぐ顔を見せるはずだし、そこで依頼として受けさせれば良いだろう。



「リィナ」


「はい」


「ジョニアックには夕方、またギルドへ顔を出せと伝えておいてくれ

『そこで試験の内容を伝えるからメンバー全員で来るように...』とな」


「わかりました」


「頼んだぞ」



   --パタン


 リィナが部屋から出て行くのを見送ってから、早速試験の準備を始める。

 まずはレムに依頼を受けさせるところからだなっ。


  --すんなり受けてくれると良いんだが...




 

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