第12話 これが飯テロと言うやつなのだっ


 

 

 ◇ ◆ レムリア視点 ◆ ◇


『エラー』

『ユーザーからの接続(ログイン)が確認されましたが、待機時間超過のため通信が切断されました。』


  --?


 目の前にはこんな文字が浮かんでいた。



「なんなのだこれは?」



 どういう事かというと、妾にもさっぱりわからなくて。朝になって、宿屋のベッドで目が覚めるとこうなっていたのだ。


 これのせいで、起きてからずっと首を捻って考え込んでおるわけなのだが、一向に答えが導き出せないでいる。



「意味が全くわからん」



 接続されるとしたら妾を作り出した『日向 錬』からなのだろうが、『ドラゴンテイルズ』の世界が崩壊した今、錬が接続してくる事は無いはずだしな。

 しかしそれなら、この文字の説明がつかん事になってしまう。


 試しにメニューを覗いてみても、相変わらず切断(ログアウト)の文字は灰色になっていて選択できんし、他に変な部分は見当たらん。



「むぅ...」



 まぁ取り敢えず、ふよふよと浮かんでいるこの文字は端っこにある『☓』を選択して閉じておく。

 考えても答えがでる気が全くせんし、この件は後回しにするしかないな。気にはなるが、どうしようもないのだ。


  --ぐぅぅ~...


 ......。



 まぁ、丁度お腹も減ったしな、昨日の報酬で美味いものを食いにいくとするかっ。



「ふんふんふ~ん」



 そんな感じで、朝の怪奇現象を頭から完全に振り払って、鼻歌交じりに買い食いの旅へと繰り出したのだが。

 露天が立ち並ぶこの辺りは、思った以上に様々な食い物が並んでいて先程から目移りして朝飯をどれにするか決められんのだ。


 一応御金に関しては、上位種とキングの魔石は御金を用意するのに時間が掛かると言われてしまって換金できなかったのだが、雑魚の魔石だけでも銀貨107枚も手に入れることが出来たのだ。

 だからここに並んでいるものなら片っ端から買っても問題は無いのだが、それでは悩んで選ぶという楽しみが損なわれてしまうからな。


 やはりこうしてどれを食べるか考えながら、幾つもの露天を見て渡り歩くのが一番楽しいのだ。まぁ、後で全部買って食べはするがなっ。それはそれ、これはこれの楽しみがあると言うわけなのだ。 


 それで、軍資金を片手に握りしめながら幾つもの露天を闊歩(かっぽ)しているのだが。そうだな、そろそろ軽いところから買い食いをはじめるとするか。



「おじちゃん、その串焼きをくれっ」


「まいどっ、1本銅貨2枚だ」


「ではこれで5本もらうのだっ」



 そう言って露天の主人に御金を支払う。

 やはりまずは慣れ親しんだ定番の串焼きからだな。何の肉かは知らんがとても美味そうな焼き色なのだ。


 そうして露天の店主から受け取った串焼きはアツアツで、肉と肉の間には何か野菜が挟まっていた。

 肉汁が串を伝って仄(ほの)かに垂れていて、タレの焦げた匂いがまた食欲を唆(そそ)ってくる。


   --かぷっ


  --もぐもぐもぐ...



 おぉっ、この口の中に広がる肉の芳ばしさ、それを引き立てる野菜の風味と甘み。


  --た、たまらんっ


 これは、昨日の夜に食べたサンドイッチなど、生ゴミだと再認識させてくれる素晴らしい味だ。昨日の夜は露天が全部閉まっていて買えなかったが、その分まで今は此処で食すのだっ。


  --もぐもぐもぐ


 --もぐもぐ


   --もぐもぐもぐ



「むっ?」



 あれは何だ!?

 何かの生地を丸く、掌(てのひら)サイズに焼いているのだっ。



「むはっ」



 凄まじく甘くて良い香りがするぞっ! 買うっ、あれも絶対買うのだっ!!



「おばちゃん、その甘い匂いのやつが欲しいのだっ」


「はいよっ、一袋で銀貨3枚だよっ」


「わかったのだっ」



 これも美味そうなのだが、なんという食べ物なのだろう?

 値段が少し高かったが、その分美味しいと言う事なのだろうか?



  --パクッ


 --ハフッ

      --ハフッ



 甘いのだっ!


 焼きたてで少し熱いのだが、それがまた良いっ。

 ふんわりとした食感に、後にひかないすっきりとした甘さ。


 このあっさり感は、柑橘系の果汁が入っておるのか?

 そしてこの微かに香るのは紅茶の様な茶葉の香り...。


 しかも生地にかけられた甘いシロップが少し焦げて、その苦味までもが生地と絶妙にマッチしている。


 これは、手が止まらんぞっ。


   --パクッ


  --パクッ


   --ムグムグ


    --パクッ


  --パクッ



「っはふぅ...」


  --もう無くなってしまったぞ?


 むぅ......、まだ少し食べ足りんのだ。

 しかし折角だから露天だけじゃなく高級な料理も食してみたいしな。腹が膨れてしまう前にそっちの店にも入ってみるか。 



「ふふふふふ...」



 この街の美味いものを制覇してやるぞっ!



「と、行きたいところなのだが...」


  --ふむ


 硬貨の入った革袋を見てみると、銀貨は沢山入っているのだが金貨は1枚も持っていない。

 せっかくの高級料理店だし、一番高いものを食ってみたいしな。十分な資金を調達してからの方が良いかもしれん。



「んー...」



 そろそろ御昼も過ぎるしな、昨日の報酬の残りが準備出来た頃合いではないだろうか?



「よしっ」



 先にギルドへ立ち寄って軍資金を追加してしまおう。そうと決まれば早速もらいにいくのだっ。




  --バタンッ

 

 ギルドにたどり着くと、扉を跳ね開けて中へと駆け込んだ。



「報酬をもらいにきたのだっ」


「おお来たか」



 昼間で冒険者が殆ど見当たらないギルドの受付には、昨日と同じくグラディスが仁王立ちで立っていた。

 グラディスは偉い立場の人かと思っておったのだが、暇なのだろうか?



「むむっ? 妾を待っておったのか?」


「ああ、ちょっとレムに頼みたい依頼(クエスト)があってな」


「ふむ...。

 しかし、今の妾は懐がホクホクだし、お金は当分必要ないのだが?」



 昨日の討伐で沢山稼いだし、二・三日は食い倒しで豪遊する予定なのだ。依頼(クエスト)なんて受けてる時間はない。



「まぁそう言うな、この依頼(クエスト)はレムに受けてもらわにゃ困るんだ」


「ん? どう言う事なのだ?」


「色々学んで欲しくて俺が用意したからだ」


「む...?」


「ゴブリンキングの事もそうなんだが、魔物を倒すには色々と考えて行動する必要がある。

 例えば討伐が失敗した時に発生する問題とかの対策だな。

 だけど今回、お前は何も考えずに突っ込んでいっただろ?」


「うっ...」


「やっぱりか...」



 し、しかし、今回は確実に倒せるから突っ込んでいったのだぞ?

 いくら妾でも勝てん相手には手出しせんしな。


 だから別に倒しきれば問題なんてないのではないか?



「納得いかん... と言った表情だな」


「う、うむ。倒しきれるなら大丈夫なのではないのか?」


「あのな、魔物には生態系やら習性やらってもんがあって、何でも倒しゃ良いってワケじゃねえんだよ。

 ある種類の魔物を倒すと、違う種類の魔物が人里に降りてくる事だってあるしな

 今回はたまたま倒せば良い相手で、結果として何も問題が起きなかったから良かったが、相手によっては戦わずに対処する必要もあるんだよ」


「そう... なのか?」


「ああ、だから依頼(クエスト)を受ければ、その地域に住み付いてる魔物の生態系や特性をちゃんと調べてから行動しなきゃならねえ。

 危険が周囲に及ばないように、その土地に住む人が困らないようにな。

 しかし上位ランクの連中でも全部一人でこなすのは一苦労でな、みんなそこで苦労してんだよ。

 だからソロで活動してるやつなんて殆ど居ねえよ」


「むむぅ」



 悪い魔物を倒せば解決すると思っておったのだが、何やら面倒そうな前準備が必要そうなのだ。

 しかし妾にはそんなものさっぱり分からんし、出来る気も全くせんのだが、ど、どうすれば良いのだ?


 グラディスに指摘されて、だんだん不安になってきてしまったぞ。



「あー......。その反応からして、お前、調べるのとか苦手だろ」


「う、うむ...」



 苦手というか、やったことが無いのだが。

 

 『ドラゴンテイルズ』の世界でも、情報を調べて来るのは錬(あるじ)だったし、妾はそれに従ってるだけで全部終わっておったしな。

 確かに見てはおったのだが、その頃は意識もしっかりしておらんかったし、何をしていたかまでは覚えておらんのだ。


 それを考えると、今回の依頼(クエスト)は受けた方が良いのか?


 食べ歩きは名残惜しいが、今後のことを考えると無下に断るわけにもいかん気がする。ここはもう少し話しを聞いてみるとするか。 



「それで、受けて欲しい依頼(クエスト)というのは?」


「あぁそれはな、ベテランの連中と臨時パーティを組んで依頼をしてもらいてぇんだ」


「臨時ぱーてぃ?」



 『ドラゴンテイルズ』で言うところの『クイックパーティ機能』の様なものだろうか?



「ああ、飛び入りで熟練パーティと組んでもらって、そこで色々学んで貰いたいわけだ」



 むむぅ、確かに熟練冒険者と組めば色々と教えてもらえそうな気はするが、い、いきなり知らない人と組むというのは緊張してしまうぞ。

 パーティなんてどうすれば良いかさっぱりわからんし、怒られてしまいそうなのだ。



「まぁ、悩んでねぇで試しに組んでみろ。

 情報の入手の仕方とか教えてもらえるし、繋がりが出来れば、分かんねぇ事を色々聞くことも出来るようになるぞ?」


「そ、そうか?」



 うぬぬぬぬぬ、ここまで言われてしまうとパーティを組む重要さが分かってきた気がするのだ。

 確かに今の妾は何も知らんしな、知り合いを作れば色々と相談する事ができるかもしれん。


 よく考えてみればこの世界の事は冒険に限らず何もわからんのだ。情報をくれる人間の確保は重要だろう。


   --し、仕方がない


「わかったのだ」


「そうかっ! 受けてくれるか」


「うむっ」



 それに、そうだな。

 妾も仲間との冒険には興味がある。


 『ドラゴンテイルズ』でも良く仲間たちと組んで冒険したが、妾ではなく妾を操っていた『錬(れん)』の冒険だったからな。

 妾は錬の操作で身体を動かして、楽しそうに会話をしている皆を見ているだけだったのだ。


 確かに、その時の思い出は楽しいものとして存在するのだが、冒険に参加したといった実感が非常に薄い。どの記憶も錬が、錬が...錬が...と、思い返せば錬が先に出てきてしまう。

 まるで物語の中の主人公を見ていた思い出を持っているような感じなのだ。


 だから妾も、仲間達と楽しい冒険がしてみたいのだっ!!





 

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