第13話 臨時パーティ?

 



 最初はあまり乗り気ではなかったのだが、完全に気分が変わってしまったぞっ。



「それで、妾が入ると言う臨時パーティはどんなのなのだ?」



 パーティを組むと決めたからには、やはり相手の事が気になるしな。早速グラディスに聞いてみた。



「ああ、そうだな。Bランクのパーティで模範的な奴等に頼む予定だ。

 まぁ模範的と言っても、御前さんにはパッと来んだろうがな」


「んむ、模範とかは良くわからんな」



 模範とかBランクとか言われても、別の世界から来た妾にはいまいち良く分からんからな。

 重要なのは楽しい冒険が出来るかどうかなのだ。



「今日の夕方に顔を出せと言ってあるし、パーティの雰囲気なんかは実際に会ってみた方が早いだろ。

 その時間にレムも来れるか?」


「うむ、予定はないから大丈夫だぞ」


「そうか、それなら今回の依頼(クエスト)は遠征になる予定だから、時間までに必要なものを買いに行って来ると良い」


「む? 遠征なのか」



 まだこの街と近場の森しか行っておらんからな、遠くに行けるのは楽しみだがちょっと不安なのだ。

 それに『ドラゴンテイルズ』には街へ戻れる『ポータル』があったからな、野宿なんかもやった事が無いぞ。


 んー。まぁ、でも。この機会に遠征の仕方を教えて貰えばいいのか。



「ああそうだ、昨日の報酬も準備できてるから今のうちに渡しとくぞ」


  --おっ?


「そうだったのだ、報酬をもらいに来たのだったっ」



 何やら色々と、パーティの重要さについて捲し立てられたせいで完全に失念していたぞ。


  --ジャラッ


「ほら、キングの魔石が金貨20枚、上位種が合計で金貨32枚と銀貨10枚。

 全部で金貨52枚と銀貨10枚だ。すげぇな、ギルドで歴代トップクラスの報酬だぞっ」



 そう言ってグラディスが重そうな革袋をカウンターの上に取り出した。



「ふっふっふ、妾にとっては余裕なのだ」


「......調子に乗ってヤバいのに手を出すんじゃねぇぞ?」


「うむ、気を付けるのだ」



 何やら心配そうに言われてしまったので、二つ返事でかえしておく。

 手を出すなと言われた所で襲われれば倒さねばならんからな。約束はちょっと出来ないのだ。



「さて、それでは遠征の準備に行ってくるのだっ」


「おう、準備が終わったらまた受付に顔をだしてくれ」


「わかったのだっ!」


  --スタタタッ


   --バタン


 報酬を手にした妾は、グラディスの言葉を背中に受けながら、勢い良くギルドの扉から外へと飛び出した。

 冒険なんて初めてだからな、今から夕方がワクワクなのだっ。


 さて、遠征の準備に必要なものと言えば食料だな。

 食べ物があれば死ぬことは無いしな、他に何を用意すれば良いかは良く分からんし、取り敢えず食料を買い込んでおけば大丈夫だろう。

 


「よしっ」



 さっきの露天のあたりで、買い食い...ではなく、買いだめツアーを続行するのだっ!!




 ◇ ◆ グラディス視点 ◆ ◇ 




「ふぅ...行ったか」



 何とか色々理由を付けて依頼(クエスト)を受けさせる事が出来た。

 最初は乗る気がなさそうだったが、パーティの重要さを捲し立てると、最後には上手く流されて乗り気になってくれた。


  --助かった...


 これで糞婆(ギルドマスター)が帰って来るまでの間だが、俺の平穏は安泰だ。


 『蒼天の剣』の連中ならレムの事も上手くやってくれるだろう。特にジョニアックは知略に優れたリーダーだ、うまくレムを扱えるだろう。

 放っておくと何を仕出かすがわからんやつだが、人の話には耳を傾けるからな。付きっきりで目を離さなけりゃ問題ないはずだ。



「......」



 いや、だが、うむ...。



「レムだからな...」



 何をやらかすか予想が出来ん。改めてリーダーのジョニアックには、ヤツから目を離さないように言い含めておかねえとな。

 問題でも起こされると、俺の書類仕事が一気に増えてしまう。 



  --パタン


「お久しぶりです、グラディスさん」


「ん?」



 声をかけられて振り向くと、『蒼天の剣』の奴等がギルドの扉から入って来たところだった。



「おぉ、ジョニアックか」



 今、声をかけてきたのが『蒼天の剣』リーダーのジョニアックで、赤髪を後ろに纏めた、全身フルプレート姿の青年だ。

 武器はロングソードと身体を覆えるほどの大盾で、『騎士』と言う言葉が似合いそうな見た目をしている。


 だが決して脳筋ではなく、その赤い瞳には知的な光が灯っていて、実際にリーダーとして指示を飛ばすのに優れている。


 俺がこの街で信頼をおける貴重な冒険者の一人だ。



「グラディスさんは相変わらず眩しいわね......頭が」


「うるせえぞ」



 で、このジョニアックの後ろから入ってきた口の悪い女がニナだ。


 長い銀髪に黄金色の瞳をした珍しい風貌の『魔導師』で、装備は漆黒のローブに身の丈程の杖といったいかにもな見た目をしている。


 実力もかなり名が知られていて、派手な攻撃魔法を好んで使うことから『爆風のニナ』とか呼ばれている。

 まぁ、痴話喧嘩で酒場を吹き飛ばしたせいでついた二つ名らしいが......。


 こいつはキレると所構わず魔法をぶっ放す危険なやつで、訓練場の通路をオーブンにしやがったのもニナの仕業だ。

 別の街の冒険者が、こいつの胸をまな板とか言いやがって。幸い死者は出なかったが、相手の装備品だけ器用に全部灰にしやがって、冒険者が三人も暫く使えなくなっちまった。



「えと、あのっ、お久しぶりです、グラディスさん」


「ああ、久しぶりだな、元気にしてたか?」


「はいっ」



 そしてニナの後ろからは『斥候』のエルが入って来た。


 ペコリと下げた頭の上には、犬耳がピコピコと動いている。

 そう、彼女は犬人の獣人で、栗色の髪をボブカットにした小柄な見た目の女の子だ。

 性格は少し人見知りをする素直な女の子で、見た目も強そうに見えねえから、全く戦闘に向いてるとは思えねえんだが、実は天才少女だったりする。


 彼女は斥候としての能力に優れていて、気配を消したり敵を追跡するのは勿論、近接戦闘での遊撃までこなす事が出来、この若さでもうAランクに届きそうな程の逸材だ。



 それで、この3人が『蒼天の剣』のメンバーだ。

 こいつらは3人なので最低人数のパーティに分類される。


 冒険者は2人でペア、3人からパーティと分類され、6人以上がクランと分類される。


 パーティやクランにはランクが存在し、決まったメンバーで依頼(クエスト)を受ければ、ポイントが加算されてランクを上げる事が出来る。

 『蒼天の剣』は現在Bランクのパーティで、今回試験をクリアすれば晴れてAランクとして認められる事になる。


 Aランクとなれば国からの支援も受けられるし、様々な場面で面倒な手続きも優先されたり免除される。それに冒険者にとって一流と呼ばれるのもこのランクからだ。



「さて、全員揃ってるな。それじゃあ少し早いが、俺の部屋で今回の昇格試験について説明するぞ」



  

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