第15話 うっ、嘘じゃないのだっ! 経験くらいあるのだぞっ!?

 


 ◇ ◆ レムリア視点 ◆ ◇



「やってしまったのだ...」



 そう、ギルドを飛び出した妾の気分は完全に舞い上がってしまっていたのだ。

 食い物の露天をまわっているうちに、気が付けば52枚もあった金貨が3枚しか残っていなかった。



「1枚、2枚、3枚...」



 ......。


 ...。



「うむ、3枚しか残ってないのだ」



 銀貨や銅貨はジャラジャラと沢山残っておるのだが、その中で金色に輝いているのは3枚だけしか見当たらなかった。



「うぬぬ...」



 最後に買った1本で金貨2枚もする串焼きは失敗だったかもしれん。しかし、今日限定と言われたら買う以外の選択肢は存在しないしな。あれは一種の魅了魔法よりも強力だったのだ...。


 見た目は何の変哲もない串焼きなのだが、『限定』の一言で一気に高級感が跳ね上がるから不思議なのだ。

 どうやらコカトリスと言う魔物の肉を使っていて、高ランク冒険者が持ち込んだ物だから本当に数が限られているとは言っておったが。



「......。」



 試しに1本だけ食べてみるか。特別な日のお祝い用に10本も買ってしまったからな、1本くらいは今食べてしまっても良いだろう。

 もしも不味かったらお祝いの日に食べて興ざめしてしまうからな。味を確認するのも大事なのだ。



「さてと...はぐっ」



 収納(インベントリ)から早速1本取り出すと、すかさずそれにかぶりつく。


   --ムグ

  --ムグ


 こっ、これはっ!!


 外側がパリッと焼かれていて香ばしく、中はジュワっと柔らかい。肉の程よい噛みごたえの後には、肉汁が口いっぱいに溢れ出てきて...。



「絶品なのだっ!」



 確かにこれならば金貨2枚は納得なのだっ!


  --はぐっ


   --ング

  --ング


 むしろこれだけのものなら、金貨2枚では安いのではないか?


   --はぐっ


   --ング

    --ング


「っふぅ......」



 美味すぎてあっという間に食べきってしまったぞ。

 むー...。もっと食いたいところではあるのだが、これはやはりお祝い用に残しておいたほうが良いだろうな。それくらいの味だったのだ。


 ......。


 今度グラディスからコカトリス生息地を聞き出して、大量に狩ってくれば毎日これを食べられるかもしれんな。

 よしっ、次の標的はコカトリスに決定なのだっ!!



「さて...」



 しかし、今更なのだが。本当に冒険の準備は食料だけで良かったのだろうか。


 錬(れん)はこう......もっと色々と自前に準備しておったような気がするのだが。思い出そうとしてみても、細かすぎて何を買っておったか思い出せんのだ。

 そもそもどうも操られておった時の記憶はところどころモヤがかかっておって、大きな出来事があった時のものしかしっかりと思い出せんぞ。



「むー......」



 確か上級水薬(ハイポーション)と蘇生薬(リザレクトポーション)だけは何時も準備しておったような気がするのだが。

 ふむ、多分だがその2つなら買いだめしてあったような。確か収納(インベントリ)に入っているはずなのだ。


 ......。


 ...。


 ええと、両方共9000個ずつくらい入っておるな。

 んー...。9000個か。


 こんなに買った覚えはないのだが、いったい何でこんなに持っておるのだ?



「んんー......拾った記憶もないのだがなぁ......」



 んー......。

 .....。

 ...。



「おっ...おおっ、そうかっ!」



 最後のボスを倒す時に、生産職の人達が大量に色んな物をくれたのだった!

 だからか、見覚えのない素材や消耗品まで大量に持っておるのは。


 まぁこれなら多分、冒険の準備などせずとも何かしら使えそうな物がはいっておるだろう。こんなに沢山見たこともないアイテムが入っておるのだしな。

 きっと準備なんてしなくても大丈夫なのだっ!


 よし、これで冒険の準備は完璧だなっ!!

 そろそろ時間も良い頃合いだし、待ち合わせ通りギルドへ向かうとするのだ。



「ふっふっふー...」



 それにだっ。


 今回はこないだの妾とは違うのだぞ?

 今日はなんと、ちゃんと道を覚えているのだ!!



「えーっと...」



 ここから後ろに戻ってサンドイッチの露天を左に曲がって、それから大通りに出たらそのままラビットステーキの露店がある壁沿いに真っ直ぐ行けば、確か冒険者ギルドの建物があるはずだっ。


 うむ、うむっ!


 今のところは完璧だなっ!!

 これなら迷わずギルドまでたどり着けるのだっ!!




 ◇ ◆ ◇ ◆



  --バタン



「ふぃ~ 間に合ったのだっ」



 まさかラビットステーキの店が焼き菓子の露天に変わっておるとは思わんかったぞ。おかげで少し迷ってしまったのだ。

 しかし今回はすぐに違いに気がつけたからな、ギリギリセーフで日が暮れる前にギルドの建物へ辿り着けた。



「レムリアさん」


「んむっ?」



 ギルドの建物に入ると受付からリィナお姉さんが声をかけてきた。名前を呼ばれたという事は昼間の件の話しだろうか?



「グラディスさんから『訓練場まで来てくれ』と伝言を預かっております」


「うむ、わかったのだっ」



 やはりグラディスからの呼び出しだったみたいだ。

 早速伝えてくれたリィナお姉さんにお礼を言って、この前行った訓練所の中へと足を進めた。



「ふむ...しかし、訓練場か」



 顔合わせならグラディスの部屋でも良いと思うのだが、訓練場で何かするんだろうか?

 そうだな、訓練場は広いから親睦会的な感じで遊んだりするのかもしれんな。


 まぁ、取り敢えず行ってみればわかる事だなっ!


 それで訓練場の扉をくぐると、そこにはグラディスが仁王立ちで待ち構えていた。

 その後ろには見慣れん人が3人程いるのだが、あれが言っておった臨時でパーティになる人達だろうか?



「おう、来たか」


「うむ、来たのだっ!」



 グラディスに声をかけられて、まずはそれに言葉を返す。


 訓練場の中はすでに日が落ちてしまっていて、代わりに魔法の光が周囲を明るく照らし出していた。

 どうやらこの場所は夜間でも問題なく使えるようになっているみたいだな。



「貴方がレムリアさんですか?」


「うむ、妾がレムリアだぞっ」



 妾が周囲に気を取られておると、全身鎧(フルプレートメイル)を着た青年が声を掛けてきた。初めて見る顔だが優しそうな雰囲気が漂っている、恐そうな人じゃなくてよかったのだ。

 装備は大盾(タワーシールド)と長剣(ロングソード)みたいだな。と、言う事はジョブは騎士(ナイト)や聖騎士(クルセイダー)あたりだろうか?



「ああレムリア、こいつが昼間行ってたパーティのリーダーでジョニアックだ」


「はじめまして、ご紹介に上がりましたジョニアックです。今回はわざわざ僕達の為に助力を願えるそうで、有難うございます。

 僕の事は気軽に『ジョニー』とでもお呼び下さい」



 そういって紹介された青年が此方に向かって手を差し伸べてきた。これはあれか、きっと握手を求められておるのだなっ!

 握手するのは初めてなのだが、なんだかちょっとどきどきするのだ。



「うむっ、ジョニー。妾の事もレムと呼んでくれれば良いのだ!」



 差し出された手を握り返して、妾も愛称で呼んで良いとこたえておく。そっちの方がパーティらしいしなっ、何だかちょっとワクワクするのだっ。



「よろしくお願いしますね、レムさん」


「うむ、宜しくなのだ!」



 さて、無事に自己紹介が終わったところで、ずっと気になっていたことが1つあるのだ。



「ところでグラディス、なんで顔合わせが訓練場(ここ)なのだ?」


「ああ、それはな...」

「すみませんグラディスさん。細かい話もありますので、僕から伝えてもいいですか?」


「おお、そうか?」



 グラディスが話そうとしたところで、ジョニーが会話に割って入ってきた。しかし細かい話とはなんなのだ? とっても気になってしまうのだっ。



「ええと、レムさんが臨時でパーティに加入してもらえるとの話しをグラディスさんから受けた後、僕のパーティメンバー達と話したんですが。

 どうもレムさんの実力がわからないのに、急に組むのは不安だという話しになってしまいまして...。

 申し訳ないのですが、一度僕達と模擬戦をやっていただけないでしょうか?」


「ふむ、模擬戦か...」



 そうだな、確かにパーティを組むというのに、相手のレベルや戦法を詳しく知っておかないと役割がうまく果たせないのだ。

 妾は固定火力だから前衛をやれと言われても無理だからな。



「はい、レムさんは剣士(ソードマン)だと言う事なので、今回はエルとのチームワークも見ておきたいんです。恐らくパーティでは二人で中衛を任せることになると思いますので...」


「そ、そうかっ」



 そう言えば剣士で登録したのだったな、完全に忘れておったのだ。

 しかし『剣士(ソードマン)』だと言う事は、今回も魔法は使えんのだろうか?


 ......。


 使えんのだろうな。



「それでは妾はそのエルと言う人と一緒に戦えばいいのだなっ! ええと、相手はジョニーともう一人のパーティメンバーなのか?」


「ええと、エルというのはこの獣人の女の子です。もう一人のパーティメンバーはニナっていう魔導師(ウィザード)なのですが、今回相手をするのは僕一人です」


「ふむ、一人でも大丈夫なのか?」



 2対1だとこっちが圧勝してしまうとおもうのだが。



「おいレム、ジョニーはAランクで護りに関しては俺よりもずっと上手いからな。舐めねぇほうが良いと思うぞ?」



 妾が疑問に思っておると、グラディスが横から口を挟んできた。

 しかしグラディスより強くても、妾ならわりと余裕だと思うのだが。


 ......。


 ふむ、しかし考えてみるとあれなのだ。

 此処で妾が圧勝してしまうとだな、『もうアイツ一人で良いよね』ってなってしまうかもしれんのだ。


 そしたら臨時パーティを断られてしまうかもしれんし、ちゃんと手加減しないとまずいかもしれんな。


 それなら、妾は手加減して接戦な感じを目指すのが良いのだろうか? 『お前もなかなかやるなっ』って感じにもって行ければきっと完璧だなっ。

 うむっ、きっとそれがベストなのだっ!!



「よしっ、わかったぞっ! それじゃあ早速始めるのだっ!」


「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!」


「むっ?」



 妾がやる気を出して訓練場の真ん中へ歩き始めようとすると、何故かジョニーに引き止められた。いったいどうしたと言うのだ? せっかくヤル気になっていると言うのに...。



「あの、始める前にエルと連携等の確認をして頂きたいのですが......」


「お、おおっ、そうかっ!忘れてたのだっ!!」



 そうだなっ、組んで戦うのだから、どう攻めるかとかを話し合っておかんと駄目だな。ずっと一人だったから完全に失念しておったのだっ。

 よしっ、それでは早速連携の話を......。



「ぬっ?」



 なんだかジトっとした視線がグラディスから突き刺さっておるのだが、あれは一体何なのだ?



「......」


「なんでグラディスはそんな目で妾を見るのだ?」


「なぁお前、もしかして誰かと組んで戦うのは初めてなのか?」



 なっ、それを疑ってそんな眼差して見てきておったのかっ!?



「く、くく、組んだ事くらいあるのだっ! 大丈夫なのだっ!!」


「ホントか?」


「う、嘘じゃないのだっ!」


「そうか......」


  --むぅ......


 あれは絶対に信じてない時の目なのだっ。『どうせ何を言っても無駄だろっ』って、諦めて馬鹿にしてる者のする目なのだっ!!


   --ぐぬぬっ


 妾の言うことを信じんとは、これは絶対に格好良く連携で勝って、グラディスにグゥの音も出ん程に見返さんといかんなっ!!


  --さて、どうしてくれようか 




 



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