第16話 支援魔法なら任せるのだっ!!
「あのっ、そのっ、よろしくお願いしますっ」
「お、おおっ、宜しくなのだ!」
妾がどうやってグラディスを見返してやろうかと思案していると、唐突にエルと呼ばれておった獣人の少女に声をかけられた。
声のした方向へ振り返ると、エルがもじもじとした感じで立っていた。緊張でもしておるのだろうか?
「ふむ...」
これは、話しやすいように何か緊張を和らげるような言葉でも掛けた方が良いなっ。
ふふふっ、パーティを組むなら緊張を解すジョークの1つでも言えんと駄目だなっ!
......。
えーっと......。
「ふむ...」
考えてみたらそういった言葉なんて言った記憶が無いぞ...。何を言えば良いか良くわからん。
......。
...。
も、もう面倒だしそのまま話しを進めてしまうのだっ。
「さて、それでは早速だが連携について話し合いを......ふむ」
話し合いか。そういえば連携の打ち合わせというのはどうすれば良いのだ?
今までは前衛に壁を任せて魔法をぶっぱなすだけだったのだが。今回は同じ立ち位置だしな、コンビネーションとかも考えなければならんのだろうか?
しかし、そういったものは何時も錬(れん)が勝手に話しておったし、妾にはよく分からんぞ。
こ、これはもしかしてマズイのではないか?
このままではまたグラディスに鼻で笑われてしまうのだっ!!
「あっ、あのっ、レムリアさんは『剣士(ソードマン)』なんですか?」
「う、うむっ! そうなのだっ!!」
妾がどうやってグラディスに馬鹿にされんようにしようか悩んでおると、エルの方から話しかけてきてくれたのだっ。
正直何も思いつかんかったから助かったのだっ。これで一先ずグラディスには馬鹿にされんですみそうだなっ。
しかし聞かれたのは『剣士(ソードマン)』かどうかか...。
反射的に肯定してしまったのだが、今更になって実は『魔導師(ウィザード)』だとも言えんしな。ギルドにも『剣士(ソードマン)』で登録してしまっておるし、もうこれで通すしかなさそうなのだ。
「えっと、武器はその腰の剣?を使うんですか?」
「ああ、うむ、これが妾の愛剣なのだっ」
「そうですか、珍しい形の剣ですね
材質も見たことがありませんが、形状も初めて見るものです」
「そうなのか?」
「はい、形状からして突いて攻撃するんでしょうか?」
「うむ、そうだぞっ」
ふむむ、『ドラゴンテイルズ』では、わりと一般的に細剣(レイピア)が出回っておったのだが、こちらの世界には細剣(レイピア)は無いのか。
...因みにだが。この細剣(レイピア)は確かに突いて攻撃をするものなのだが、実は魔法の増幅効果もあるからなっ! 杖(ワンド)の代わりとしても使える優れものなのだっ!
「では、今日の模擬戦でもその剣を使いますか?」
「......ん?」
......。
ちょっと待つのだ。今『これ』を使うのかと聞いたのか?
「模擬戦ではあそこに立て掛けてある模擬剣を使うのではないのか?」
「あ、いえ、ジョニーさんが『本当の実力を見たいのでいつも使ってる武器で』って言ってましたよ?」
「そ、そうなのか?」
ほ、本当に良いのか? 当たったら痛いと思うのだが、それだけ防御力に自信があると言う事なのか?
ふむ......。そうだなっ! 怪我をしても上位水薬(ハイポーション)もあるし、いざとなれば蘇生薬(リザレクトポーション)もあるから大丈夫か...。
「けど、それだと......ああやっぱり」
「む? どうかしたのか?」
エルが自分の武器を取り出すと、妾の武器と見比べて肩を落とした。何かマズイ事でもあるのか? 妾にはサッパリわからんのだが...。
「ええとですね、私のショートソードとレムリアさんの武器の長さが同じなので、戦闘時に立ち位置が被ってしまうんですよ」
「な、なるほど...」
た、立ち位置か。うむっ、そうだなっ、妾もそう思ってたのだっ!
確かに武器の長さが同じだと攻撃の間合いも同じになるなっ。そうなると連携がとっても難しそうなのだ...。
.....。
ふっふっふ。
まぁ、それは普通の場合だけなのだっ!
妾には詠唱中に敵から素早く距離をとるためにとった技(スキル)があるのだっ!
『瞬歩(しゅんぽ)』という技(スキル)で、これを使えば歩きからでも一瞬で移動ができるのだっ!
これを使えばどんなに離れた間合いからでも、ヒット・アンド・アウェイで戦う事が可能になるのだ!!
この戦闘法を応用すれば、エルの武器と間合いが同じでも立ち位置が被る事は無いし、連携は問題なく完璧なのだっ!!
「間合いの事なら心配はいらんぞっ」
「そ、そうなんですか?」
「うむっ 妾に秘策があるからなっ! まかせるのだっ!!」
ふふふ、きっとビックリするのだっ!
「ああそれと、妾の事はレムと呼ぶのだっ! そっちの方がパーティメンバーっぽいからなっ!」
「えっ、あっ、はっ、はいっ......。レム...さん?」
「うむっ!」
レムリアさんなんて呼ばれておったら堅苦しいからなっ! パーティメンバーならやはり愛称なのだっ!
「あの、レムさんはエルフのようですが、魔法は......その、使えないんですか?」
「ふむ...魔法か?」
そうだなっ、そういえばエルフは魔法が使えるとか言っておったな。
確かグラディスにも聞かれて、えーっと...その時は確か、支援系魔法が使えると言った覚えがあるのだ。
取り敢えずここは怪しまれないように話しを合わせておいた方が良いだろうな。
「妾は支援魔法が使えるぞっ!!」
「支援魔法......。 どんな魔法が使えるのか詳しく教えて頂いてもよろしいですか?」
「うむっ、そうだな......」
んんー......一応何でも使えるのだが。しかし、何でも出来ると言うとグラディスから色々聞かれて面倒そうなのだ。ここは基本的な支援魔法だけを選んだ方が良いかもしれんな。
--と、なれば......
「物理防御を上げる『プロテクト』と、一定レベルの攻撃魔法を防ぐ『スペルシールド』。それから行動速度を上げる『クイック』の3つだなっ!」
「3つも使えるんですか!?」
「うむ? 使えるが......」
なんでエルはそんなに驚いておるのだ?
『ドラゴンテイルズ』では、完全な前衛であってもこれくらいの初級支援魔法は使えたのだが、もしかしてこの世界では違うのか?
「これくらい、誰でも使えるのではないのか?」
「い、いえ。普通はレムさんの冒険者ランクで近接職なら、何か1つでも使えれば凄いんですが...。やっぱりエルフは魔法が得意なんですね」
「そ、そうかっ?」
どうやら3つも使えるのは多かったみたいなのだが、エルフって事で納得はしてくれたみたいなのだ。
エルフか...。
......本当はエルフでは無いのだが。ぐぬぬ......此処で訂正するとまたややこしい事になってしまうのだ。これでは何時までたっても訂正する事が出来んではないか!
竜神族はエルフなんかよりもずっとずっと格好良くて強いのだぞ!!
--むぅ...
「えっと、それでは連携についてなんですが...」
「おっ? おおっ」
おっと、考えが脱線してしまっておった。そうだ、今は連携の話し合いをしておったのだったな。
「んー......そうですね。レムさんが3つも支援魔法が使えるのなら、私が前で戦ってレムさんが支援に徹するのが一番連携を取りやすいでしょうか...」
「うむ、そうだなっ 妾はエルの戦闘を見たことがないし、いきなり近接戦闘で連携をとるのは無理だと思うのだ」
瞬歩があれば攻撃は出来ると思うのだが、それだと連携ではなく単独攻撃になってしまうのだ...。
連携をとる為には、まずエルの攻撃を見て覚えてだな、タイミングを合わせる事が最低限必要になるのだ...。
--だから......
「最初はエルに戦ってもらって、手を出せるタイミングがあれば妾も攻撃するのだっ!」
「わかりました、それでは今回はその方法で......あ、あと、支援魔法なんですが」
「うむっ、それは全部かけるから任せるのだっ!!」
「あっ、いえ、そうじゃなくてですね、その、どの程度の効力があるのか教えて欲しいんですが」
「おぉ、そうかっ そうだな、それが分からんと不便だったなっ」
確かに、発動時に込める魔力で効力が変わってくるし、効力を上げると持続に使う魔力の量が変わってきてしまうからな。完全に失念しておったのだっ。
「そうだな、まずは『クイック』なのだが、んー......」
この訓練場の端までだいたい300メートルくらいだろうか。それなら...。
「ここなら5秒くらいで端まで突進できるくらい速くなるぞっ!」
「えっ、そ、そんなに?」
「うむ、ただ制御を誤るとぶつかって大怪我をするからなっ 気をつけないと駄目なのだぞ?」
「お、大怪我......?」
「うむ、高速で何かにぶつかると腕とかが取れるかもしれんからな、とっても危険なのだっ」
「......えっと、冗談...ですよね?」
「......?」
どうかしたのか? エルが急に黙り込んでしまったのだが。
「別に冗談は言っておらんのだが...」
「えっと、でも、そんな威力の支援魔法...聞いた事が......」
「ふむ......。それなら一度かけてみた方が良いか?」
「......。ホントに危険なんですか?」
「うむ、しかし慣れれば大丈夫だぞっ?」
......。
...。
「や、やっぱり支援魔法を使うのは止めておきましょう!」
「むっ? いきなりどうしたのだ?
考えてる作戦に効力が足りんのなら、頑張ればもっと威力をあげる方法も「いえっ!」」
む、むぅ...。
なんでいきなり支援魔法を却下してきたのだ?
いったいどうしたというのだ?
「効力足りないとかって問題では無くてですね、私が強化魔法には慣れてないのでいきなり本番で使うのは危険と言うか...。ぶつかっただけで腕がとれるってのは冗談だとしても、そんなに速度が上がるって事は移動しながら攻撃したら手首を痛めるくらいはしそうですしっ! 支援魔法はやめておきましょう!! 絶対に!!!」
はぁ...はぁ...。
「ふ、ふむ......」
息を切らせるほど早口で捲したてるから最後までよく聞き取れんかったのだが、まぁエルの言う通り...慣れておらんのなら使わん方がいつも通り戦えて強いかもしれんな。
妾も昔、支援特化のパーティメンバーにクイックをかけられて崖から落ちた事があるし。掛けられた側がうまく使えこなせんと、支援魔法は戦闘を妨害する事になってしまうのだ。
「まぁ、慣れておらんのなら仕方ないなっ。それなら今回は純粋に剣だけで戦うのだっ!」
「はいっ! 剣だけで戦いましょう!!」
さて、剣か.......。
支援魔法を無しにされてしまうと、瞬歩(しゅんぽ)以外にも攻撃手段を用意しておいた方が連携っぽくて良いだろうな。
しかし、瞬歩以外だと...魔法関係の技(スキル)しか持っておらんからな。技(スキル)無しで戦うしかなさそうなのだが......。
だが、動きが重なるとお互いに同士討ちになってしまったり、動きが阻害されてしまうのだ。
......って、エルもさっき言っておったし、錬(れん)も確か言っていたのだっ。
実際に錬(れん)が組んだ臨時チームでも、初めて組んだ者同士の時は良く誤爆して揉めておったしなっ。だからこの対処法の話だけは良く覚えておるぞっ! 何度もやったしなっ!!
--ふっふっふ
「役割を分担するのだっ!!」
「えっ? えっと、役割...ですか?」
「うむっ!」
片方が隙を作って、もう片方がその隙を突く。そうすることで敵が見せた隙に二人して飛び込んで同士討ちしてしまったり。二人してフェイントにひっかかったりするリスクが大幅に減るのだ。
「妾は少し離れた位置で相手の隙を伺う、エルは相手の隙を作るのだ」
「隙......。ええと、それは私が隙をつくるのに専念して、レムさんが隙を突くのに専念するってことで良いんですよね? なるほど、それで『役割』ですか」
「うむ、それで間違いないのだ」
「その作戦は悪くないとおもいます。けど、ジョニーさん相手だと多分無理ですよ」
「む?」
「私だけじゃ多分、隙なんて全く見せてくれないと思います......それに、最初のうちは良いでしょうが、すぐに何をしようとしてるのか見破られて警戒されてしまいますよ」
「そ、そうなのか......」
むぅ......。こういった場合はどうすれば。って、そうかっ、妾が隙を作れば良いのだなっ!
「よしっ、ならば妾が最初のうちに隙を作るから、エルがそこを攻撃するのだっ!!」
「えっ、でも......。ジョニーさんの護りは相当硬いですよ? とてもすぐに隙がつくれるとは思えないんですが...」
「大丈夫なのだっ!」
「え、っと...」
「妾に任せるのだっ!」
「......」
「妾なら出来るのだ!!」
「...わ、わかりました、そこまで言うのならお任せします」
「うむっ 任されたのだっ!!」
ふっふっふ、そこまで護りが硬い相手なら、それを崩せばきっとグラディスも妾の事を馬鹿にできないのだっ!
もし護りが硬すぎてもバレないように精神操作魔法でバランスを崩せばいいしな、これはもう勝ったも同然だろう!!
よしっ、これは完璧な計画なのだっ!!
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