第17話 これが瞬歩というやつなのだっ!!

 


 ◇ ◆ ジョニアック視点 ◆ ◇



 さて、皆で話し合った結果だけど模擬戦をして相手の実力を引き出してからパーティを組むか決めると言う事でなんとかまとまった。


 まぁ実力を見るっていうのは建前で、ニナは追い詰めて魔法を使わせて『剣士なのになんで魔法が使えるのか?』って詰問する気満々みたいだけど。それは僕も気になってるから特に止めはしなかった......ん..だけど。

 直後に『大魔法を放って相手に魔法で受け止めさせればすぐわかる』とか言い出したからニナは模擬戦から外すことにした。

 そのせいでかなり不機嫌になったけど、ダメだから。それ、受けきれなかったら相手が死ぬからね?


 それでニナの機嫌を取る意味もあって色々と魔法を使わせる作戦を練ったんだけど。その一つがエルをレムさんと組ませて支援魔法を使わせるように誘導するって方法だ。

 だけどどうやらエルの方から『魔法は無しで』って言い出してしまったみたいだ。そのせいでニナがまた不機嫌そうな顔になっちゃってる。あれ、絶対この後とばっちりが僕の方に来るんだろうなぁ...。今のうちに少しだけでもフォローしておこうかな。



「あのさニナ、あれは僕でも仕方ないと思うよ?

 だって話しを聞いた限りじゃ、少しでも動作を誤ったら大怪我してしまいそうな話し方だったしさ」


「あんなの嘘に決まってじゃないの。そんな威力の支援魔法なんて存在しないわよ!」



 いや、まぁ、僕も多分大袈裟に言った嘘だと思うけど、それでもあんな言われかたをすれば僕だって支援魔法を使ってもらうか躊躇するよ。って言ったところで機嫌は直りそうにないしなぁ。むしろ悪化しそうだしもう黙っておこう。


 それにしてもあの二人、僕が聞こえる場所で作戦会議って。エルも熟練してきたと思っていたけど、こうして見るとまだまだ抜けてるところがあるなぁ。

 こうやって仲間の悪い部分を改めて見直せるなら、冒険者を雇って定期的に模擬戦をしてみるのも良いかも。


 っと、そろそろ頃合いかな? 話が一段落ついたみたいだ。

 


「そろそろ始めても大丈夫ですか?」


「うむ、大丈夫なのだっ」



 話し合いが終わる頃合いを見計らって声をかけると、レムさんから元気の良い返事が帰って来た。やる気は満々みたいだ。


  

「では、今から模擬戦を始めます。武器は普段使っているものをそのまま使って下さい。ああ、僕は刃を潰した剣を使用するので安心してくださいね」


「うむっ」


「それでは質問などが無いようでしたら訓練場の中央まで移動しましょう。詳しい説明はそっちでします」


「わかったのだっ!」


  --タタタッ


 レムさんはそう言うといきなり元気に駆け出していってしまった。その後ろを小走りでエルが追いかけていく。

 こうして見てると外見と変わらない精神年齢に思える。エルフだから実は100歳...なんて事も結構あるんだけど、レムさんは多分エルと同じくらいの年齢だろう。正確も裏表は無さそうに感じるし、今のところ悪い子ではなさそうだ。過去を隠した犯罪者って疑いは消していいかもしれないな。


 さてと。


 それじゃあ説明をして、グラディスさんにあそこまで言わせた実力を見せてもらうとしますか。



「それでは模擬戦の説明をしますね。まず、魔法の使用は広範囲に被害が出るものだけ禁止です」



 僕の魔法抵抗(レジスト)は結構高い、それにこの盾は魔法も防げる魔武具だから大抵の魔法は受けられる。だけど僕以外の人が巻き込まれると危険だし、かといって攻撃魔法を禁止してしまったらニナがいよいよキレて暴れだしそうだし...。広範囲魔法の禁止、これが多分ギリギリの妥協点だよね。


  --さて


「次に勝敗ですが、僕に完全な有効打を1発当てるかエル達が降参するまで、審判はグラディスさんにお願いします」


「ああ、責任をもって俺が判断させてもらう」


「模擬戦の説明は以上ですが、何か質問はありますか?」


「いや、問題ないのだっ」


「そうですか、ではグラディスさんの合図で始めましょう」


「うむっ」



 こんな感じに説明はすんなりと終わって、訓練場の真ん中で二人と間合いを取って向かい合う。


 まずは相手の選んだ武器を見て、これから行う戦闘の事を考える...ん..だけど。レムさんのあの武器は見たことがないな。

 刺突用の短剣にしては刃が長くて細いし、短槍(ショートスピア)にしては柄が短い。だけどあの武器の形状から、打ち付けたり斬りつけるのは考えにくいから刺突武器なのは間違い無さそうだけど。未知の武器からは予想外の攻撃も想定される、注意しておいたほうが良いかも。


 ただ、武器の長さはエルもレムさんも同じくらいなのかか。それなら攻撃の軌道も射程も近いだろうし、避けるのも誘導するのも楽そうだ。



「それじゃあ、始めっ!!」



 僕が相手の武器を見ているとグラディスさんの号令がかかって模擬戦が始まった。


 さて、それじゃあまずはエルを狙って軽く攻撃をしてみようかな。

 これでレムさんがどう動くのかが見てみたい。エルを囮に僕を狙って来るのか、それともエルを助けに入るのか。何も考えてないのは論外だけど、僕達とパーティを組むのなら出来れば助けに入って欲しい。

 別にこの模擬戦はレムさんの魔法をみるのだけが目的ではなく、本来はレムさんの行動を見るのが目的だからね。


 レムさんがどんな人柄か、この模擬戦で見極めないと...。


  --ダッ


 グラディスさんの号令の直後に駆け込んだのはエルだった。


   --さて、レムさんはっ?


 どうやら動いたのはエルだけで、レムさんはまだ動かずにいるみたいだ。話し合いではレムさんが『妾が隙を作るのだ』って言ってたけど、どうするつもりなんだろうか。


  --カンッ

    --キンッ


 レムさんから意識は離さずに、まずはエルの先制攻撃を盾を使って往なしていく。


  --カンッ

   --カンカンッ


 盾を通して、斬撃の振動が伝わってくる。しかし全てがエルのものだ。


 レムさんは相変わらず一歩も動く様子がない。

 エルの言葉を無視して支援魔法をかけようとしてるのかとも考えたんだけど、詠唱も魔法陣も無いし違うみたいだ。


  --ならどうしたんだ?


 僕やエルの動きを観察するにしても、もう動いてもいい頃合いだ。


   --カンッ

  --キンッ


 こうしてる間にもエルの攻撃は延々と僕にいなされている。これ以上見てても同じだと思うんだけど...。


  --んんー......


 当初の予定では二人の攻撃をうまく誘導して同士討ちを誘うつもりだったんだけど、ああ突っ立ってられるとそれは出来ない。

 それにこのままじゃレムさんの実力がわからない。


 もしかして同士討ちを警戒したうえで突っ立っているのだろうか?

 だとすれば、エルと交代で交互に入れ替わり攻め込んで来て、此方の疲労を誘う作戦が考えられるか。


  --タッ


    --タッ


   --タタッ


  --カキンッ


 エルが立ち位置を変えて反対側へと回りこんできた。


  --これは...


 エルに正面を向けると、レムさんに背中を向けることになる。剣をもってる腕からエルが遠くなって攻撃できなくなるけど、ここはこうするしかないよね。

 僕は盾だけをエルの方へ向けたまま、視線と剣はレムさんの方へと突きつける。これでエルの攻撃をいなしつつ、レムさんが動いても対処が出来る。


  --けど、まだ動かないのか?


 そう思った次の瞬間、ようやくレムさんが一步前へ踏み出した...ん..だけど。まるで歩いて散歩するような動作でこっちに向かって歩き始めた。

 いったいどうするつもりなんだろうか? 攻撃の間合いは僕の剣の方がずっと広いし、そんな速度で近づいてきても意味がっ..ぐっ!!


   --ガキンッ


「えっ...つっ...」


  --ザッ


 いきなりレムさんの体がブレて、嫌な予感が背筋を走った。

 咄嗟に剣を振り払うと、たまたま目の前に突き出されていたレムさんの攻撃を弾いていた。


 全く見えなかったが、剣を弾く音と地を蹴る音だけが聞こえて、次の瞬間には歩き出した位置にレムさんが平然と立っていた。


  --いったいこれは...


 一瞬で間合いをつめられて、僕が反撃する間も無く攻撃の範囲外へと下がられた。


   --落ち着け


  --焦るな


 今のは......何だ?


 確かに歩いて近づいて来た。最後まで踏み込みもせずに歩いていたはずだ。

 走ったり跳び込んだりはしなかった、歩いている動作のまま飛び込むより早く間合いを詰められた?



「っ...!」


   --ガキンッ


  --ザッ


 まずい...。反射的に何とか防げたけど、このままだと次の攻撃も避けれる気がしない。


  --でも、今のでわかった...


 あれは動作(モーション)と結果が合ってないんだ。


 歩いている様な動作で、実際には飛び込むよりも早く間合いを詰めてきている。

 飛び込む動作が一切ないから飛び込んでくる場所の予測が出来ない。それだけじゃなく動作を飛ばしてるから攻撃に反応も殆どできない。飛び込んできたレムさんが武器を突き出してからしか防げない。


  --これは...


 熟練した暗殺者(アサシン)が使う技によく似ている。何気ない動作に紛れて攻撃してくる...。けどそれとは全く桁違いだ。

 その場合の対処は動作に惑わされないように足下の砂煙や空気の流れを頼りに攻撃する。


  --ガキンッ


   --ザッ


 ん...だけど。そのどっちもレムさんには感じない。まるで転移魔法みたいに風も砂煙もたてずに一瞬で近づいてくる。まさか魔法で近づいてるのか?

 そう思ってチラッとニナへ視線を向けるが、僕の意図を察したニナが目を閉じて首を振る。どうやらこれは転移魔法じゃないみたいだ。


  --ガキンッ


   --ザッ


 なんとか防いでるけど、この技は厄介だ。

 ニナは違うって言ってるけど、良く見れば僅かに魔法の残滓が感じられる。この距離じゃないとわからないような量だけど...。

 そのレベルの弱い魔法は何かしら発動させてるのか?


  --でも...


「っつ!!」


  --ガキンッ


   --キンッ


 そんな弱い魔法でこんな効果が発揮するものなんて考えられない。


   --カキンッ


「っと...」



 レムさんに集中してるとエルの方から攻撃がすり抜けてきた。なんとか盾ではじいたけど、正直いまのは危なかった。


  --これはまずい...


 『妾が隙をつくる』

 確かにレムさんの作戦通りだ。


  --けど、まだ大丈夫だ


  --僕なら対処できる


 現に今もまだ攻撃は1発も通ってない。呼吸を浅く冷静に...集中しろ。



「ふぅ...」



 まさか模擬戦で本気を出すことになるとは思わなかったけど、『この程度』僕ならまだ戦える。





 

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