第59話 思った以上に食いついてきた
「なぁシビス」
--んぐんぐんぐ...
--ングッ
「なに?」
「いやさぁ......」
「なによ?」
何でコイツ、こんな危機感ゼロなの?
周り森だよ?
人の形跡すらないんだよ?
未開の土地だぞ?
明らかに危険な魔獣とか居るだろ?
--んぐんぐんぐ
「なぁ、ここ何処だよ」
「森ね...」
「いや、だからさ、御前が言ってた異世界だろ?」
--むぐむぐむぐ...
「多分そうね、そこの森ね」
......えっ?
ちょっと待って。
......多分?
多分って言いやがったかコイツ?
まさか予定してた世界ですら無いとかいう可能性も...?
「お、おい、予定してた異世界だよな? そうだよな?」
--んぐんぐんぐ...
「お、おい...」
「んー......っと......
ええそうね、雰囲気からして間違いないわね」
「よ、良かった...」
コイツすら知らない、完全な未開の土地とかだったら詰むところだった。
ほんっと心臓に悪い、食ってるからって変な間をあけんじゃねーよ。
「それで?」
「...?」
「これからどうするんだ?」
「えっ?」
「『えっ?』てなぁ......
だから 御前が言ってた世界なんだろ?
これから何処に行けばいいんだよ」
「知らないわよ?」
「......は?」
--本気(マジ)かよ......
本当に俺を、ノープランでこの世界に飛ばすつもりだったのか?
「わかった...うん、わかった」
シビスの駄目っぷりはもうわかった。
色々言いたい事はあるが、もう良い、こいつには何も聞かない。
「えぇっと、獣っ娘(こ)」
--んぐんぐんぐ
--ごくっ
「んっ?」
おお獣っ娘(こ)で通じたっ。
そういや名前聞いてなかったな。
「名前は何て言うんだ?」
「灯火(トウカ)っ!」
「おぉ、トウカって言うのか
俺は竜也って言うんだけど...」
「タツヤッ!」
「ああ、竜也だ。
ちなみにそこのちっこいのはシビスだ」
「シビッ?」
「ああ、シビだ」
「シビッ!」
「ちょっ、ちょっと。何で私の名前を略すのよっ」
あー 無視無視。
「で、だ......
人里を探したいんだけど
見つける方法とか、ありそうな場所とか知らないか?」
「んー.......?」
--んぐんぐんぐ
いや...さ、食いながら首を傾げられても困るんだわ。
--んぐんぐ
--ごくっ
--あむっ
--んぐんぐ
あー...もう。
どいつもこいつもずっと食いやがって。
--あっ
...そうだ。
こんだけ食い意地はってんなら、もしかして食い物で釣れるんじゃねーか?
そうだな...。
ダメ元で試してみるか...。
--えーっと
なんか食い物あったかな...?
--おっ
ベヒーモスの霜降り肉とか結構たくさん収納(アイテムボックス)に入ってるじゃねぇか。
あー...一応レアドロップだけど、『ドラゴンテイルズ』の世界じゃ食えれば何でも良かったからな。
自分で食うのも勿体(もったい)ないし、こんなの食うのは上級(はいじん)プレイヤーだけだったから売れ残ってたのか。
でもこれは良いぞ!
使えそうだ!!
「よし、人里を見つけたら最高にうまい肉を食わしてやるぞ」
「んっ、私にまかせる、ですっ!」
「ちょっ、それを早く言いなさいよっ」
--こいつら...
なんだよこのヤル気の落差...。
いや、計画通りだよ?
だけどさ...なんだろう、疲れてきた。
「あー...うん、じゃあ二人に任せるから、日が登ったら頼むぞ」
「ええ、私に任せなさい」
「んっ、私が見つける」
「おい、どっちでも良いから喧嘩するな」
「私の肉よっ」
「んっ、駄目」
おいおい、取っ組み合いの喧嘩に発展しそうな勢いだぞ。
これ、食いもんで釣ったのは失敗したんじゃねぇか?
どんだけ肉に釣られてるんだよ。
あーもう...面倒くせぇなぁっ、おいっ!
「わかったわかった、二人で協力して見つけたら腹いっぱい食わせてやるから仲良くしろ」
「トウカ 今から作戦会議よっ!」
「んっ、シビッ 会議っ!」
よしっ、作戦成功。
今までにないヤル気を見せてるし、これなら期待できるだろ?
......できるよな?
女神様に、野生溢(やせいあふ)れる獣人のコンビだし。
うん、大丈夫なはずだ。
そう......。
......そう、思ってた時期が俺にもありました。
--スー
--スー
--むにゃむにゃ...
食い終わって作戦会議をするのかと思いきや、駄女神が『食べたら眠くなったわね』とか言い出しやがって。
ものの数分で、俺の両膝は枕として二人に占拠されてしまった。
ってかさ、全部食うとかねーわ。
肉が1串たりとも残ってねーじゃねーか。
--ぐうぅ~......
腹が減った。
でも、今から肉を焼きなおす程の気力は無い。
あ、収納(アイテムボックス)に『握り飯』が入ってた。
--むぐ
--むぐ
「しょっぱい...」
--スー
--スー
なぁ、あのさ、お前らさ...。
作戦会議は?
それにこれ、俺が朝まで一人で見張りするわけ?
普通は交代するよな?
起こすぞ?
2時間くらいしたら起こすからなっ!?
「ふぅ...」
......。
--パチッ
焚き火の音が聞こえる...。
あぁ、この辺りだけ木々が開けてるのか、夜空がよく見えて月が綺麗だなぁ。
3つも満月があると、日本に居た時より夜が明るい。
「っんー......」
あの月、よく見たら色がちょっとずつ違うのか。
赤色と黄色と青色......って、信号かよっ!?
......。
「はぁ...」
--虚しい
どっちか起こしても良いかな? 良いよな?
一人で起きてるとか罰ゲームすぎる、せめて話し相手が欲しい。
--ゆさゆさ
--ゆさゆさ
「んん~......」
--ゆさゆさ
--ゆさゆさ
「おーい...」
--スー
--スー
......。
「よいしょっと」
--べしゃっ
「んぎゅっ」
膝からシビスをひっくり返して頭から落としてやった。
取り敢えず元凶の駄女神、てめーは起きてろよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます