第58話 異世界はハードモード

 



「そっ、そうかっ、シビスだなっ!

 宜しくなっ、シビス!!」


「うっ、うん...よろしく」



 よしっ。

 勢いで駄女神って言った事は誤魔化せたぞ。


 それじゃあこの勢いのまま、早速メシにしますか。


  --よっと


 まずは収納から、焚き火に必要な薪やらを取り出してっと。

 こうして空気が入りやすいように積み上げてから、真ん中に『火炎岩』を置いて。


   --パチッ

  --パチッ

     --ボッ


 よしっ、ついた。



「ぁ...火...?」


「ああ、ここ肌寒いだろ?」


「う、うん」


「それに暗い所なんかにいたら気が滅入るし

 あー......。まぁなんだ、早く調子戻せよ」


「...っ!

 うっ...五月蝿いわね!!

 わかってるわよ...このままじゃダメだって事くらい......」



 お? ちょっと調子戻ったか?


 じゃあ此処(ここ)で肉を投入だっ!

 うまいもん食えば元気でるだろ。


 コイツには調子戻してもらわねぇと。

 こんなヤツでも女神だ、何か今の状況を打破する手段くらい持ってるだろ。



「まぁ、これでも食って元気だせ」


「えっ、お肉っ!?」



 いや、なんでそんな驚いてんの?

 オマエが俺の収納(インベントリ)に入れたんだよね?



「ねぇ竜也、それ何のお肉?」


「え、これか?

 えーっと...これは...

 おぉ、ワイバーンの肉だな」


「ワイバーン?」


「ああ、アイテム説明によると鶏肉と豚肉の中間みたいな味がするみたいだぞ」


「へぇ~... 良くわかんないけど美味しそうね」


   --ぐぅぅ~


「御腹が減ったわ、早く食べましょう」


「あ、ああ」



 こいつ、食べ物であっさり復活しやがった。

 さっきまで『お外は危ないの...』とか言ってたのに、ほんと期待を裏切らない駄女神っぷりだな。


  --さすがだわ


 でも、これで少しは女神としての仕事をしてくれるはずだ。


 ......してくれるよな?


 ....しろよ?



「ねっ、ねぇタツヤ。こっちをジッと見て恐いんだけど」


「頑張れよ」


「えっ?」



 駄目かもしれん...。


 ......。


 さて、いい感じに絶望したところで、腹が減ったしメシにするか。



「じゃあ焼くぞ」



 あー......どうやって焼くか。



 直接火に突っ込むわけにはいかんし。


 おっ、収納(インベントリ)に串が入ってるじゃん。

 これに刺して焼こう。


   --じゅぅぅ~......


「おっにく~ おっにくぅ~」



 こいつめ...。

 さっきまでの調子(アレ)は何だったんだ?


 アッツアツの焼き立てを口に突っ込んでやろうか......。


   --ガサッ


「んっ?」



 今、なんか物音しなかったか?


  --ガササッ......


   --ガサガサガサガサガサッ


「なんだっ!?」「なになにっ!?」



 横の茂みからガサガサ音が近づいてくる!!


  --まさか敵かっ!?


 しまった、この世界の魔獣は火があっても寄って来やがるのか!?

 くそっ、肉とか何も考えずに焼くんじゃなかった。


  何か武器、武器を出さねぇと...。



  --ぐぎゅるるるるるるるぅ~



 何だこの凄ぇ音は。

 まさか魔獣の鳴き声か!?


 近くの藪(やぶ)から低く唸るような声が聞こえてきやがる。


   --がさっ


 なん...だ?



「おに...く?」

   --じゅるるるる......


「あ?」



  --がさがさっ

 おい、ネコ耳を頭に乗っけたチミっこい人間が出てきたぞ。


 これは...。



「獣人ってやつか?」

「たっ、タツヤ、タツヤッ

 危険よっ お外は危険だわっ」


「おい、落ち着け」



 藪(やぶ)から出てきたのは、泥に塗れた獣人らしき生き物だった。


 何というファンタジー。


 見た感じは黒髪で短髪の少女で、武器とかは持ってないし危険は無さそうだが。

 ただ、結構整った顔をしてるのに、着てる服がボロボロのドロドロで凄(すげ)ぇ猟奇的なんだが。


  --いったい何があったんだ?


「お、おい...」



 なんかヨロヨロと此方に向かって近づいて来るんだが。

 ...倒れそうなくらいフラついて、大丈夫なのか?


  --ぐぎゅ ぐぎゅるるるる


 ......。


 ああ。

 ...もしかして腹が減ってんのか?


 目が完全に肉をロックオンしてんだが...。



「あー......えーっと...食うか?」

「良いのっ!?」


「あ、ああ」



 別に食糧不足ってワケでもねぇし、こんな餓死寸前の子を追っ払うとか良心的に不可能だしな。

 食わせてやるしか選択肢がねぇだろ。



「たっ、タツヤ、それっ、そいつ、大丈夫なの!?」


「...大丈夫だろ、多分...」



 だから俺の後ろに隠れてないで出てこい。

 あと声がでけぇから下げろ。服を引っ張んな。



「まぁ、この獣っ娘(こ)そんなに強そうに見えないし、別に害は無いだろ」

  


「そ、そう...?

 大丈夫なのね?

 な...なら良いわ」



 それにしてもビビりすぎだろ、もしかしてコイツ人見知りするのか?

 でも俺の時は最初から凄ぇ偉そうに話してたし...わかんねぇ。



「あーほら、そろそろ焼けるから食えっ」


「んっ」

「あっ 私この一番大きいのっ」



 .......。


   --ガブ

  --ガブッ


    --ムシャムシャ

   --ムシャムシャ


  --ガツ

   --ガツ


      --ゴクッ



 なんだこの野性味溢れる食事は、食い方もワイルドだし。


 獣人はわかるぞ?

 でもさ、オマエさ、女神だろ?

 お淑やかさとかは何処に行ったんだ?



「ねぇ竜也ぁ、何か飲み物無い?」

「んっ、お水が欲しい」



 こいつらなぁ......。

 遠慮とか...せめて礼儀作法とかねぇのか?

 一応女の子だろ?


 駄女神もあんなに怯えてたのにもう順応してやがるし。

 何だったんだよマジで。



「はぁ...」


  --もう考えるの疲れた...


 あー...。

 えーっと...水か?

 ...みず...みず......。



「ほれ、水だ」


「ありがとっ...。あっ! ちょっとあんた、それ私の肉よっ」


「んぐんぐっ、駄目...これは私の」


「お前ら、まだあるから喧嘩すんな」



  --はぁ~......



 俺の分は、これだと焼けた奴は全部取られて食えそうにないな。

 後でゆっくり食うか。


 それにしても...。



「なぁオマエ、迷子か何かか?」


  --ムッシャムッシャ


「なぁおいっ」


「んう?」


「ああ、近くの村かなんかの子か?」



 近くに村とかあるんなら是非とも案内して欲しいんだが。



「んう?......そうなの?」



 あーいや、その返答で首を傾げられても困るんだが。



「いや、だからどっから来たんだ?」


「...わからない、です」


「何だよ、やっぱ迷子かよ...」


「んー......月」


「は? 月?」


「んっ、月が1つのトコから来たっ」



 あー...そういやさっき月が3つあったな。

 って事はあれか、コイツもこの世界に駄女神あたりから送り込まれたのか?



  --むぐむぐ...


   --?


「何見てるのよ、私じゃないわよっ」



 おぉ、視線だけで伝わった。

 しかし駄女神が犯人じゃないって事は...。



「多分、誰かが空間をねじ曲げた余波に巻き込まれた...とかよ? きっと...

 たまたま自然災害っぽい歪みに引っかかったってのもありえるし、まぁ色々ね」


   --むぐむぐ


  --むぐむぐ


 あー、そんなのもあんのか。

 ってか、まだ食うのか、おい俺のも残しとけよシビス。



「あー、えーっと...迷子なのはわかったが、その感じからすると結構さまよってたのか?」


「んっ、夜が2回あった、です」


「2回って事は...2日か

 それで、近くに人の痕跡とかは?」


「んー......なかった、です」



 そっか...そうだよな、人の痕跡なんてあれば、こんな餓死しかける前にそっち行くよな...。


 よりにもよって異世界の開始地点がこんな森の奥とか...。

 しかも拠点になりそうな街も何も無い場所とか......。


 いきなりハードモードかよ。



 

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