第60話 誰も起きねぇ......




「んんぅ...ぅぅ......」


  --がさ

    --ごそ


「あっ、おいっ」


   --スー


   --スー



 ......。



 一瞬起きたかと思ったら、もぞもぞと膝の上に戻って来てまた寝やがった。


 嘘(うっそ)だろ...オマエ......。

 これ、もしかして俺がずっと1人で起きてないと駄目なのか?


 冗談じゃねーぞ。



「なぁおいっ、起きろよっ!」


  --ゆさゆさゆさゆさっ

    --ガブッ


「いってぇっ」



 くっそ、こいつ噛みやがった。


  --ちくしょうっ!


「ぐるるるる...る..る... すやー......」


「......」



 まじかよ。

 噛むのかよこいつ...。


 はぁ......仕方ない。


 2日も森を彷徨ってたって言ってたし寝かしておきたかったんだが。

 駄女神は諦めてトウカを起こすか...。


 このままだと、俺が眠気に負けて寝落ちしそうだし。

 見張りが居ないのはさすがにマズイ。

 

 それに彷徨(さまよ)ってた間の情報も色々と聞き出せそうだしな。


  --ジャリッ


 ......。



「んん?」



 よく見たらこいつ、髪の毛の中まで泥が入り込んでるじゃねぇか。

 ちょっと綺麗にしといてやるか。


 何か適当に収納(アイテムボックス)から布を取り出して。

 んで、水で濡らして...っと。


 どれ、どんだけ汚れてんだこいつ。

 ふきふき......。



「うえぇっ」



 ちょっと拭いただけで布が土で真っ黄色になったぞ。

 どんだけ汚いんだ、いったい...。


 髪の毛が黒いし周囲も暗いから気づかなかったけど。


 そんな...。

 まさか、こんだけの汚れが目立たなかったって言うのか?


 これは本格的に拭かないと駄目だな。


  --ゴシ

   --ゴシ


  --ゴシ

   --ゴシ


「ふぅ...髪は結構綺麗になったか?

 次は耳だな......」



 ん?

 ...そういやこの耳ってどうなってんだ?

 

  --ピコッ

「うぉっ」



 先っぽ摘んだらなんか動いた。


 えーっと、俺達の耳より少し上の辺りから耳が伸びてんのか。

 根本からフワフワの細い毛が覆ってて、かなり触り心地が良いなコレ。


 コリコリしてて、ちょっとひんやりしてて...。


  --っと


 そうだ拭かないと汚いんだった。

 うえぇっ、手が砂で粉っぽくなった。


   --ワオーーーン


  --ォオーン


「......。」



 ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ。


 起きろトウカ、起きてくれっ、なんか獣っぽい鳴き声が聞こえた。

 ヤバイって、これ絶対ダメな奴だって。



「ん...んっ もう食べられない...」


「ちょっ、おまっ」



 何だよそのセオリー的な寝言はぁぁぁっ!?

 そんなの要らないからっ、求めてないからっ!!



「おいっ、良いから起きろって、なんか聞こえるんだって」



  --グァァァァァァッ

    --ギャゥ

   --ギャァ



「ほらっ、ほらっ

 ......って、なんだよこの鳴き声!!

 さっきよりヤバいじゃねーかっ!?」


「んぅー...?

 トカゲの鳴き声...です」


  --クシ

    --クシ


 お、トウカが起きたっ。

 まだ目を擦って眠そうにしてるけど、これで俺は1人じゃない。

 あー...なんだ、そう、見た目は頼りないけど、今だけは凄まじく頼りにしてるぞっ。


 2日間生き延びたその技術(テク)を見せてくれっ!!


  --いや、それよりも


「と、トカゲってなんだ?」


「んっ、でっかいトカゲ...です」


  --でっかいトカゲ?


「ちょっとまて、それってドラゴン系の何かじゃねーか?」


「ド..ラ? んー......」


  --クシ 


    --クシクシ


「うー......」


  --コテン


 ......。


   --スー


  --スー



「ちょっ、おい、寝るな!!」


  --ゆさゆさ


   --ゆさゆさ


「おっ、起きてくれ、お願いだ!!」


  --ゆさゆさ


   --ゆさゆさ


 くっそ、起きねぇし。


 何だよでっかいトカゲって。

 俺を一人にしないでくれよっ。


  --グガァァァァァ..ァァ..ァ


「ひぃっ」



 なんなんだよこの森、ヤバすぎるだろ。


 結構遠いけど洒落にならない鳴き声が聞こえてくるんですけど?

 どうなってやがるんですかねいったい。


 最初の狼っぽい獣の鳴き声は何処へ行ったんだよ。

 クソがっ。


  --そっ、そうだ裝備だ


 襲われる前に用意しておかねぇと。


 何か無いか...何か......。

 『ドラゴンテイルズ』の裝備で使えそうなやつ。



「......」



 しまった、俺が使えそうな物が何にも無え!!


 何時も製作依頼受けてから作ってたせいで、素材は沢山あるのに装備が殆ど無い。


 今欲しいのは遠距離から攻撃出来て、俺でも使えそうなクロスボウみたいなやつなんだよ。

 こんな剣とか弓とかあっても使えねぇんだよ!!


 ドラゴンに剣で近接攻撃すりゃ良いって?


 ふざけんな、考えただけでも恐ろしい。


 弓...?

 弓なんて使った事ねーよ、どうやって射れば良いんだよ。


  --どうしよう


   --どうしようっ


 お、『魔除けの聖水』があった!!


 これ、周囲の敵を遠ざけるアイテムだけど...。

 この世界でも使えるのか?


 いや、だけど他には何も無いし。


  --ええい


 駄目でも良い、使っとこう。



   --グガァァ..ァァァァ...ァ


  --ドゴ..ン



     --バキ

   --バキ



「ひぃぃぃぃっ」



  --聖水!


   --聖水!!


  --バシャッ


     --バショッ



 よし、ふり撒いたぞっ。

 これで良いんだよな?

 使い方あってるよなっ!?


 けど何なんだ、遠くから破壊音とか凄まじい鳴き声とか聞こえるのは。

 もしかして何かが戦ってんのか?


 とにかく夜は駄目だっ!

 早く、早く朝になってくれ!!



 

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