第22話 バッ、バレたのだっ!
◇ ◆ レムリア視点 ◆ ◇
ぬぅ、最初に思っていたよりジョニーが強いのだ。
予定ではもう倒せているはずだったのだが、何故か妾の剣は1発も命中しておらん。想定外の苦戦なのだっ。
しかし、それでも妾には魔法がある。
あるの......だが。
当初の予定では剣で倒すのが無理だったら、適当に行動阻害の魔法を使って倒すはずだったのだ。
それが...。
何故かあのニナと呼ばれておったジョニーの仲間が、どうやら妾の魔力を解析しておるようなのだ。
どういう意図があるのかは良くわからんのだが、この状況は非常にマズイ。
ここで支援魔法以外の魔法を使ってしまうと、魔導師だということがバレてしまうのだっ!!
だから支援魔法以外で使えるのは、解析出来ないような魔力消費の小さな魔法だけなのだが。
そんな魔法ではそよ風くらいしか起こせんのだ。
--むぅ...
まずいぞ、これはまずいのだっ。
妾のスキルで華麗に翻弄した後、エルとの連携で勝つはずだったのに。これでは連携どころか勝てるかどうかも怪しいではないか。
このままではグラディスを見返すことはできんのだっ!
何故なのだっ! 何故攻撃が防がれるのだっ!?
--ガッ
--ガキンッ
「ぬ..ぐぐ...」
妾の動きを先読みして、ジョニーが盾で防いでくる。
ぬぬぅ...。
もしかして魔力の流れに反応しておるのか?
妾のスキルは体術に魔法を組み込んだものなのだ。だからどうしても微細な魔力の流れが発生してしまう。
なのでそれを感知すればタイミングを掴まれるかもしれん。
そうか...。きっとそれが原因なのだっ!
--よしっ
そよ風を起こす魔法をばら撒いて魔力の反応を乱せば、次は絶対にあたるのだっ!!
「とうっ!」
--ガキンッ
「なっ...」
何で防がれたのだっ!?
今度は魔力を乱したというのに、簡単に防がれてしまったぞ。
もしかして魔力の流れは関係ないのか?
そうかっ、気配なのだなっ!
魔力でないなら、きっと気配を読んでいるのだっ!
それなら妾のスキルで残像を残して、そこに魔法で気配を残せば次は絶対にあたるのだっ!
「とああっ!」
--ガキンッ
「なんでなのだぁぁっ!!」
しっかり残像で翻弄したというのに、またしてもジョニーに防がれてしまったのだ!!
ぬぉぉぉおおおっ!!
わからんっ!
もうわからんぞっ!!
こうなればヤケクソなのだっ!!
--ザッ
--ガキンッ
--キンッ
--カキンッ
--ザッ
「んっ?」
どうしたのだ?
いきなりジョニーが隙を見せたぞ?
まさか、妾を誘い込む作戦かっ!?
ふっふっふ、その手にはのらんのだっ!
「...んむっ?」
どうして武器を降ろして戦闘状態を解いてしまうのだ?
まだ決着はついておらんのだぞ?
いったいどうしたのだ?
「ぎっ、ギルドマスター!?」
ぎるどますたー?
ジョニーが観客の方へ振り返ると、驚いた様子でそんな言葉を口から漏らした。
そしてそのまま戦闘を放棄すると、グラディス達の方へと駆け出してしまったのだ。
いったいどうしたというのだ?
模擬戦はもう終わったのか?
ぬぅ...。何がどうなっておるのかわからんのだが、ここに一人で突っ立っておっても仕方がない。後を追いかけるしかないか。
む? 今気付いたのだが、人が増えておらんか?
んー......褐色の肌をしていて銀髪の、妾よりも2㍉くらい身長が小さいエルフが増えておるぞっ!
それに、金髪の小柄な女の子? いや、男の子か? もう一人見知らぬ人間も増えているのだ。
もしかして模擬戦が中断されたのはこやつらのせいなのか?
むぅ、何の説明も無いまま、妾を置いてきぼりにして緊急依頼がどうとか話し始めてしまったぞ。
この偉そうなちっこいエルフはいったいだれなのだ?
誰か説明して欲しいのだが...。
--むぅ
どうやら誰も教えてはくれなさそうなのだ。
会話に割り込むのは苦手なのだが、このままではまた妾だけ蚊帳の外になってしまう。
それで仕方なくそのちっこいのが誰か聞いてみたのだが、何故かジョニーから焦ったように怒られてしまったのだ。
どうやらこのちっこいのは、『ぎるどますたー』とか言うギルドで偉い人だったらしい。
ふむ...。
これがギルドマスターとか言うやつなのか。
しかし模擬戦を遮ってジョニーと何だか難しい話しを始めてしまったのだが、模擬戦の続きはやらんのだろうか?
まだ妾の活躍は全く見せれてないのだが.....。
どうやら皆、あのちみっこいヤツの話しに夢中になっていて、模擬戦の事は完全に忘れ去られてしまってるのだ。
んー...話してる内容は良くわからんし、暇になってしまったぞ。
もう模擬戦をせんのなら帰って市場で手に入れた食料の数々を堪能したいのだが...。ここで帰ってしまうとマズイだろうか?
まだインベントリに入れただけで整理もできておらんからな。
宿屋に帰ったら美味い物順に並べて......んっ?
......?
何だかいきなり静かになったと思ったら、皆が妾を見つめておるのだが。
--えっと...
「いったいなんなのだっ?」
意味がわからんから状況を聞いたのだが、何故かギルドマスターに深いため息を吐き出されたのだ。
--なんなのだいったい?
それで周囲の人に視線で疑問を投げかけたのだが、どうも誰も応えてはくれんみたいなのだ。
しかも、いつの間にか神官っぽい服を来た少女がまた一人増えておるし...どうなっておるのだ?
ぬぅ...。また妾には誰も状況を教えてくれんのか。みんな妾を置いてけぼりにして話しを進めていってるのだ。
教えてくれんのならもう良いのだ、今日はもう帰って......。
--ズズ...
--ズズズズン......
「むぅ...?」
魔力の波動か。
『ドラゴンテイルズ』で最上級魔法を使用した時に出るような波動が通り過ぎていったのだ。
「おさまったみたいだな」
「そうですね、しかし地震とは珍しい...」
「うぅ...もっ、もう終わりましたかっ?」
む? 地震?
もしかして今の波動を地震と勘違いしておるのか?
今のは時空系の放つ魔力の波動なのだ。
時空系は止めたり巻き戻ったり穴を開けたりするから凄く対処が面倒なやつだな。
しかしこの世界で魔力の波動は始めて感じたし、皆も気付いておらんから教えた方がいいのだろうか?
もしかしたらPK(プレイヤーキラー)が街で暴れようとしておるのかもしれんしな、早めに調べて対処せんと露天が破壊されて買い物が出来なくなってしまうのだ。
--それに...
ジョニーとの試合では良いところが見せられんかったからな。
そうだ...。
...そうなのだっ!
妾が今の現象について説明してやるのだっ!
これで皆も妾が博識だと思うはずだし、除け者にされてしまっている今の状況から抜け出せるのだっ!!
--ふっふっふ
良い作戦なのだ。それでは早速......。
「今のは...「おぉ、そうだった そこのヒラヒラ」...んむ?」
--ヒラヒラ?
「ヒラヒラと言うのは妾の事か?」
「ああそうだ」
ヒラヒラ......ヒラヒラ...?
この褐色のちっこいのが言っておる『ヒラヒラ』とはいったい何なのだ?
どうやら妾の事らしいのだが、意味が全然わからんのだ。
「首を傾げて何を考え込んどるのかは知らんが、御前にちょっと話がある」
「その前に『ヒラヒラ』...とは何なのだ?」
それがとても気になるのだ。
「そんなヒラヒラした服を着てるからヒラヒラだ、お前...そんな服着て良く戦えるな...」
「お、おおっ、この服の事だったのかっ」
成る程、やっと納得がいったのだっ。
しかしこの服の事だったのか...。ふむ......。
「んんー......」
そうだなっ、改めて見てみれば確かにヒラヒラしておるな。
この装備にしてから特に外見を気にする機会はなかったからな、今になって気がついたのだ。
錬と繋がってた頃は外見を自慢しに行く事もあったので、自分の外見は把握しておったのだがな。今の自分がこんな外見になっておるとは気付かんかったぞ。
前はシンプルでスマートな漆黒のローブに魔女帽だったのだが。
--ふむむ...
インベントリのアイコンと説明文で素材がオリハルコンとミスリルの合金だとか、漆黒のドレスアーマーだとは知っておったが。今回の装備はこんな外見だったのか。
「おい、呼び名の意味が理解できたんなら付いて来てくれるか?
話がある私の部屋まで移動するぞ」
「うむ、わかったのだっ」
そう言えば先程の波動について話せんかったからな、話があるなら丁度いいのだ。ついでにその事も話してしまおう。
「それと、『蒼天』3人とアルティナも来てくれ...。
あー......ケイトはいらん、もう帰れ」
「ちょっ、僕も行きますよっ!?」
「ちっ...」
「舌打ちしないで下さいよ、アルティナさんを放ったらかしたりしたら大目玉くらうんですから」
「まぁ良い、とっとと来い」
ふむ、それにしても知らぬ顔がいきなり3人も増えてしまったのだが。
えーっと...。
この褐色で偉そうなのがギルドマスターで、こっちの白いローブを着た少女...いや、男なのか? 此奴(こやつ)が確かケイトと呼ばれておったな。それで、この神官ぽい服の少女がアルティナと呼ばれておったはずなのだ。
んむむ......それにしても何で急に人が増えたのだ?
今の模擬戦を見に来たにしては関係ない事を話しておったし、むぅ...わからんのだ。
「しかしジョニアック、こんなヒラヒラした奴にあそこまで剣で押されるとは、腕が鈍ってんじゃないだろうな?」
歩き始めてからすぐ、ギルドマスターがジョニーに駄目だしをし始めた。
--むぅ
ジョニーはとっても強かったぞ?
グラディスの時と違って攻撃があたる気がしなかったのだ。
「はい、...防ぐのがやっとでした。鍛錬しなおします」
その駄目だしにジョニーが悔しそうに言葉を返す。
むぅ...鍛錬でジョニーが更に強くなってしまうのだ。また模擬戦をするなら対策を考えておかねばならんな。
「あのっ...そちらの方と剣で戦われたのですか?」
そんな会話に、アルティナが不思議そうに首を傾げて混ざってきた。
「えっ、ああ...そうです
そちらのレムさんと戦わせてもらったのですが
手も足も出ないところをギルドマスターに見られてしまいまして...」
ジョニーはお恥ずかしい限りですと言葉を返す。
しかしアルティナは妾とジョニーの模擬戦に興味があるのか?
妾としては決着はついておらぬし、もしこの少女が戦いを観たいと言うなら再戦は大歓迎なのだっ。
「あの...でも、確か...レム様は『魔導師』ですよね?」
「うむ......む?」
なっ、何故、妾の職業がバレておるのだっ!?
ま、まずいのだっ、思わず頷いてしまったのだっ。
「......おい」
「「「......。」」」
グラディスと他の連中から白い目が向けられてくる。
--まっ、待つのだっ
「いやっ、何を言っておるのだ? わっ、妾は剣士だぞっ!」
まだなのだ......。
まだ、この少女の言動が本当だと証明はされておらん。
「で、ですが...お城で鑑定した時は確か『魔導師』と......」
「......。」
--城?
......ぬっ。
ま、まさかっ、この神官少女は...。
ああっ!! 妾が此方に呼び出された時に居たあの少女かっ!!
--まっ、マズイのだ...
--これは本格的にマズイのだっ
「おい...ヒラヒラ」
「うっ...?」
「吐け」
「ぬぐっ」
ギルドマスターの鋭い視線で睨んでくる。これは...誤魔化すのはもう無理そうなのだ...。
「う...うむ、その...」
「魔導師なんだな?」
「......うむ」
とうとうバレてしまったのだ。
み、皆もきっと非難の目で妾の事を見て......?
何故かジョニーが落ち込んでいるのだ。それをニナが慰め? て、いるのかあれは?
『魔導師に剣で挑むなんて凄いわよ』と声を掛けている。
グラディスは別に『知ってた』みたいに頷いておるし、エルは何故か目をキラキラさせていたのだ。
そしてケイトはこの状況が良くわからん様子で、首を傾げてこちらを見ている。
--と、取り敢えず非難はされんのか?
それならそれで、この話は早く終わらせてしまうのが良いなっ。これで次からは魔法を使っても大丈夫なはずだし、めでたしめでたしなのだっ!
「あれなのだっ 職業は別に気にしなくても...良いのではないか?
それより妾に話があるといっておったが何の話なのだ?」
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