第27話 砂の降り積もる中で...
◇ ◆ ケイト視点 ◆ ◇
ふむ...。レムさんの実力を聞いてみたのですが。
『いっぱい』...とか、『何でも』...とか。
いまいち良くわからない返答が帰ってきてしまいました。
わざとはぐらかしてる様には見えませんし、レムさんの居た異世界ではそんな風に大雑把なのが主流なんでしょうか?
とはいえ、それでも魔法が得意なのはわかりましたし。
細かい部分は落ち着いてから追々聞き出すとして、今はこの惨状の改善を優先しましょう。
--はぁ......
しかし、何でしょうか...。
ここ最近、僕の運は悪すぎないでしょうか?
レムさんへの報酬も、半分は確実に僕のポケットマネーからの出費になりますよ...。
一等地を望まれなかっただけでも助かりましたが、こんな事になったのは、絶対レイナ様の悪乗りのせいですよね。面白がってましたし...。
それからレムさんと城を目指す為に街へと出ました。まず目指すのは旧市街です。
最終目的は、城で召喚陣の調査と『審問官』の救助になります。
どうしても国王を審問すると言って聞かなかったので、優先対象であるアルティナさんの為に、審問官さん達とは離れて先にギルドへ帰還したんですが。
今となれば、説得して連れ帰るべきだったと反省してます。
彼らとは今回初めて組んだので、戦力もお互いよく分かってませんし任せてしまおうと思ったのが間違いでした。
推測ですが、審問官に追い詰められた国王が召喚陣を無理やり使ったせいで、今のこの状況が発生してるんだと思うんですよ。
これは確実に本部へ帰ったら何かしら罰則が与えられちゃう事案ですね...これ。
それに審問官さん達まで最悪の事態だと、もしかしたら最下級の見習いから再スタートさせられるかも...?
......はぁ...。
考えただけでも憂鬱です。
まぁ、まだ先の暗い現実は取り敢えず忘れて、今は戦闘に集中しましょうか。
幸い、レムさんが魔法を使えますので、遠距離攻撃ができればサクサクと進め......。
ああ、駄目ですね。うん。
得意って言ってたのに、周囲を巻き込みすぎです。
これ、このまま使い続けたらいつか僕や一般人を巻き込んで吹き飛ばしてしまいそうですよ。
少しキツく言い聞かせて、今回は近接攻撃で切り抜ける事にしましょう。
幸い、出発前にグラディスさんから『レムは接近戦闘も相当な腕...』だと聞きましたので。二人で戦えば余裕で先に進めるはずです。
まぁそんな感じで敵をなぎ倒しつつゆつくり進んで、特に怪我もなく無事に旧市街まで入る事が出来ました。
途中で何組かの冒険者とすれ違いましたが、順調に救助者を連れて避難場所へ向かえてるようでしたね。
あれなら僕達が手助けする必要もなさそうです。
と、そう思って少し余裕を感じた矢先の出来事です。
いきなり遠くで物凄い音がしたと思うと、それが徐々に此方へと近づいて移動してきました。
足音だと思うんですが、物凄い振動が地面をドッドッドッドと揺さぶって、同時に建物が粉砕される音を街中に響かせています。
足音の重さから...体格はドラゴン級。
建物の破壊音から、突進力は相当なもの...と。だとすれば足腰が強い、俊敏そうだ...。
一直線に此方に向かってきている事から補足されてる可能性が高い。
今から逃げるのは不可能か...。
かと言え、僕は大型の魔物と戦えるような技は殆ど持っていない。
このまま近接戦闘で戦えば、全滅は確実ですね。
-- 一か八かレムさんの魔法に頼ってみましょうか?
いや、さっき見た感じだと、彼女は魔法の出力調整が下手クソです。
この大きさの魔物を相手にするような大魔法を使えば。出力を間違えた瞬間に街が消し飛ぶ事になってしまいます。
まだ街には冒険者が居るはずですから、それだけは避けなければならないワケで...。
--はぁ...
こんな絶望的な状況でも冷静なのは修行の賜物ですかね?
実際は今からでも全力で逃げ出したい気持ちが胸の中にいっぱいだったりするんですよ?
レムさんの事は正直まだよくわからないですし。ピンチになって暴走でもしたら、どういった行動取るのかもわからない。
と、なれば、僕が囮になるしかないんですよね...。
うぅ...。嫌だなぁ...。
逃げに徹すればどんな相手でも死にはしないですが、確実に魔力が枯渇したうえ、闘技の連続使用で身体がガタガタになって...。
あー......。入院コース三ヶ月ってところですかね...。
まぁ、二人で逃げてお互いに庇いあった結果、それで死ぬよりは百倍マシなんですけどね...。
......。
っていうか、このレムさんの余裕はなんなんでしょうか?
明らかにヤバイ感じの敵が近づいてきてるのに、もの凄く涼しい顔をしています。
もしかして、こういった経験が豊富だったり...?
「ウヴォォオォォォォォォッ...ォ....ォォ.....ォオン」
「いっ、今のはっ!?」
「ふむ、何かの鳴き声だなっ」
いや、それは聞けばわかるのですが、この威圧感はあり得ない。まずいです。異常ですよっ!
元々かなりの強敵を想定していたんですが、この感じはまさか...。
--ドゴォァン
--バリバリバリバリ
来た!!
--うぐっ
「ぬっ、ぬぉぉぉぉっ」
すぐ近くの建物が吹き飛んだかと思った瞬間。
目の前で途轍(とてつ)もない砂埃と残骸の嵐が吹き荒れる。
それは身体を丸めて、薄く目を開いているだけでも精一杯な程で、視界は一瞬でゼロになってしまった。
何とか敵に攻撃されないことを祈りつつ、嵐の中を耐えていると、いきなりレムさんの悲鳴が聞こえて来た。
「レッ、レムさんっ!!」
咄嗟に彼女の居た場所へと手を伸ばす...が、その伸ばした腕は何も掴むことなくすり抜けてしまった。
「何処ですかレムさんっ!? 無事ですか!?」
「ぬぉぉぉおおぉぉぉぉ..ぉお...ぉ..ぉ....ぉ.....」
--ドゴォンッ
--ゴガンッ
--ズガァッ
--ドガガガ...ガ..ガガガッ
--ガガッ
--ガッ..ガガッ...
--ガッ...
彼女の悲鳴と建物の破壊音が、目も開けられない猛烈な砂と瓦礫の嵐の中で遠ざかっていく。
しばらくしてそれが通り過ぎると、後には瓦礫が散乱するさっきまで無かった広場だけが残されていた...。
「レム...さん...?」
一瞬の出来事で、何も出来なかった。
あまりの事に一瞬頭が真っ白になりかける。
--まずいっ
--あれはまずいっ
確実にドラゴンクラス以上の魔物...ナイトメアクラス。
そんな相手にレムさんを何処かへ持っていかれてしまった!!
--すっ、すぐに追わないと!!
あんなのを相手にすれば、いくらレムさんが異世界から来た規格外の存在だったとしても無事ではすまないはず。
--ど、どうしようっ
「回復魔法を急がないと」
あんな質量の相手に連れ去られたら、一刻を争うような重症を負っている可能性が非常に高いです。
--はやくっ
--急げっ
--はやくっ!
どんな重症でも生きてさえいてくれれば、僕なら回復魔法で繋ぎ止められる。
聖都へ帰れば四肢の欠損だろうと治せる人が居ます。
だから見つけて逃げればまだ間に合う!!
--サラサラサラサラサラ...
そう思って瓦礫が続く新しく出来た道を進もうと前へ出たが、何故かそこには大量の砂が降り積もっていました。
「これはっ......」
ここだけじゃない、さっきの魔物が通った後には大量の砂が撒き散らされている。
それも足首が埋まるほど大量に...。
「いったい何処からこんなに砂が...?」
--サララ
--サラサラサラ...
そう思いながらも足を進めようとした瞬間。
いきなり地面が盛り上がった!!
「くっ!!」
慌てて後ろに飛び下がると、盛り上がっていく砂を睨みつける。
もしかしたらこの砂には何かしらの魔法が仕組まれてるのかもしれないですね。
先を急ぎたいですが、慎重に進むしか無さそうです。
そして盛り上がった砂が徐々にその正体を現していく。
「これは、ミイラですか...」
枝のような四肢に巻かれたボロ布。所々剥げた皮膚に何も光を映さなくなった瞳。
「厄介ですね...」
それだけなら普通のミイラなんですが、目の前の奴らは黄金の仮面を着けていて、しかも両手には歪に曲がった短剣を1本ずつ握り込んでいる。
急がないとまずいのに、あんな敵は初めて見る。
こういった歪な敵は、どんな攻撃をしてくるのか検討もつかないのが厄介です。
--慎重にあたるしか無いか...?
迂闊に急いで僕まで倒れたら、何もかもが終わってしまいます。
しかし、こいつらの動きを洞察してから戦うような余裕も今はありません。
「仕方ないですね...」
今は兎に角時間がありません。
相手の動きがわかるまで防御に徹していたかったですが、攻撃をしながら見極めて行くしかなさそうです。
いったいレムさんは何処まで連れていかれてしまったんでしょうか...。
こいつらを相手にして、間に合えば良いんですが。
--ザザザ...
--ザザ..ザザザザザ...
そんな事を考えてる間にも次々と砂が盛り上がって仮面のミイラが増えていく。
ええと...数は5体ですか。この数を同時に相手にするのは厄介ですね。
しかも全部が全部、武器持ちですか...。
普通のミイラなら動きは鈍いはずなんですが...。
あいつらの持ってる武器は速度を重視する武装です。短剣と言うのは極端に間合いが短いですからね、素早く懐へ潜り込めなければ意味がありません。
--と、言う事は...
あのミイラ達は相当動きが素早い可能性があるわけですね...。
それか耐久度にモノを言わせて短剣の間合いで纏わり付いてくるタイプかもしれません。
--何方にせよ迂闊に近づくのは危険です...
けれど、僕には遠距離攻撃の手段がかなり限られているんですよね...。
元々少ない魔力量を、気功法と言う体力と混ぜ合わせる秘技で底上げしているんですが。
混ざった物は普通の魔力では無く、身体から離れると一瞬で劣化して消えてしまうんですよ。
なのでどうしても身体強化や回復、近接戦闘でしか僕のスキルは使い物になりません。
--そうなってくると...
ここで使えるのは手持ちの聖水か銀の投擲用ナイフ。
しかしこれらは数に限りがありますので、この後もこういった敵が出てきた時の為に温存しておきたかったんですが...。
しかし、今はそんな事を言ってられる状況じゃないですね。
「ヴヴ..ヴォォゥヴヴウ...」
どうやら、彼らの標的も僕に定まってしまったみたいです...。
バラバラな方向を向いていた仮面ミイラ達が、次々に此方へと向きを変え始めた。
--まずは...
全ての敵が此方を向く前に、まだ明後日の方向を向いている敵へと迷わずナイフを投擲する。
--シュッ
--キンッ
「なっ...」
投擲したナイフが、手前に居た仮面ミイラによって弾かれてしまった。
しかもその動きは、暗殺者並に素早くて流れる様に静かなものでした。
--まいりましたね...
「これは、苦戦しちゃいそうです...」
あわよくば、何体かは奇襲で片付けてしまいたかったんですが。
--ガキンッ
「...っ!!」
--キンッ
--ガキンッ
「くっ」
--ザザッ
速いっ。
一瞬で間合いを詰められましたっ。
咄嗟に顔を庇った右腕をミイラの短剣が素早く叩きつけてくる。
気功で強化した腕は無事に短剣を弾きましたが...。
これは...。
--キンッ
--カンッ
防ぐので...。
--ガギンッ
--キンッ
手一杯ですっ!!
--ザシュッ
「があっ...」
しまった、死角からもう1体。
--ザッ
何とか体を捻って、ミイラ達から距離をとります。
「油断しました...」
抑えた脇腹からは、ジクジクとした熱い痛みが広がってます。
反射的に避けたのが功を奏したのか、急所からは外れたみたいですが...。
気功で硬化できるのは身体の一部だけ。
なので避けられないとこうなってしまうわけです...。
「始祖たる生命を司りし金色の女神よ...
我が呼びかけに応え、欠けし血肉を再生させよ!!
ハイヒーリング!」
--ふぅ...
た、助かった......。
どうやら、ミイラに思考力は無いみたいですね。
今の回復魔法を妨害されていたらまずいところでした。
特に今の魔法に反応しないところを見ると、攻撃本能で動いてるだけなんでしょうか?
--けどこれは...
--サラサラ...
--サラサラサラサラサラ...
更に追加で砂の中から仮面のミイラが出てきてしまったんですけど...。
しかも完全に囲まれれてしまいました...。
後ろに追加で2体、正面に5体。それであの強さですか...。
いくら本能で動くような単純な的だったとしても...。
「これはちょっと、腹をくくらないと駄目そう...ですね」
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