第26話 怒られちゃったのだ...

 



「ええと、それで、先にレムさんの実力を把握しておきたいのですが...」


「妾の実力?」


「ええ、スキルや闘技、魔法について、話せるだけで良いので教えていただけますか?」


「ええと...」



 魔法とスキルはわかるのだが『闘技』とはなんなのだ?



「『闘技』は何のことだかわからんが、『魔法』ならいっぱい使えるのだっ」


「いっぱい...ですか?」


「うむ」


「いっぱい...?」



 ドラゴンテイルズの魔法は全部使えるからな。

 残念ながら、この世界の魔法の事は良くわからんし、今は全部とは言えんのだが、それでもいっぱい使えるのはかわらんだろう。



「あの、『いっぱい』だけじゃ良くわからないんですが...」


「む? そうか...?

 んー......何でも出来るのだっ」


「えーっと......何でも?」


「うむっ」


「何でもって...」


「何でもだぞ?」


「...ええと、わ、わかりました...

 魔法が得意って事ですね」


「うむっ、魔法ならまかせるのだっ!」


「......そっ、そうですか...ええと、それじゃあ『闘技』の事がわからないようですので、そっちを説明しておきますね」


「おおっ、頼むのだっ」


「はい、それでは...

 『闘技』と言うのは、死地を乗り越えた時に使えるようになる、限界を超えたスキルの事です」


「限界を超える!?」



 なっ、なんだかもの凄くカッコイイ響きなのだっ!!



「はい、普通のスキルとは違い肉体の限界を超えて力を使えるかわりに、体に負荷がかかりすぎるので一日に使える回数が限られているのが特徴ですね」


「ほう......つまり超必殺技みたいなものなのだなっ」


「え、ええ、そんなものだと思っていただければ問題ないです」


「おおっ!! 妾もそれ、欲しいのだっ!!」


「ええと、残念ながら欲しいからと言って手に入るものでもないんですよ」


「そうなのか?」


「はい。先程言った様に、死と隣合わせの戦いの中で稀に発現するものであって、死にかければ必ず手に入ると言ったものではないですので...」


「むー......」


「その様子を見ればわかりますが、やはり『闘技』はお持ちではなさそうですね」


「うむ、持ってないのだ」


「と、なると...レムさんには魔法をメインに後衛についてもらった方が戦闘は安定しそうですね」


「そうだな、妾も前衛よりは後衛のほうが慣れているのだっ」


「わかりました...では戦闘はその方向性で組むとして、今後の予定を簡単に説明しますね」


「うむっ、依頼内容だなっ」



 それからケイトに今後の予定について説明してもらった。


  --ええと...


 今いる場所が宿屋街で、一般市民が住んでる旧市街という場所を抜けて、それから貴族街に行って...ええと。

 とっ、兎に角、困ってる人が居たら助けながら、城を目指せば良いみたいだなっ!!


 それで、んと、審問官? と、言うのを助け出してから、妾を呼び出すのに使った召喚陣を調べて情報収集...。

 ついでに国王とか言うのがいたら捕まえて帰ってくる...ふむ、こっちは追加依頼(サブクエスト)みたいなものなのか。


  --ふむむ...


 よしっ、ここまでは覚えたのだっ!!



「それから、レイナ様に言って教団本部に対策部隊を出してもらいますので、彼らに情報を受け渡せばレムさんの依頼は終了です」


「わかったのだっ」


「その後の事は対策部隊が行いますので、依頼が終わればレムさんはポータルで聖都に移動してください。報酬はそこで支払わせてもらいます」


「う、うむっ」



 こ、これでマイホームが手に入るのかっ。

 流石、報酬が良いだけあって依頼内容が複雑なのだ...。


 助けながら城に行って、助けて、召喚陣を調べて、返ってきて、情報を教える。

 それでついでに国王を見つけたら捕まえる。


  --よしっ


 間違えないように気をつけるのだ。



 それから早速、依頼に出かけようとしたところでリィナお姉さんに呼び止められた。

 ぬ...うぅ...。


 また追加依頼なのだ。


 何やら冒険者達に避難誘導を緊急依頼として出しているが、城付近に行った冒険者が苦戦してるらしい。

 だから苦戦してるのを見かけたら助けて欲しいと言われたのだ。


 ふむ......。

 それくらいの追加依頼なら覚えられるから大丈夫そうだな。

 ようは困ってる人が居れば助ければ良いのだなっ。


 よし、任せるのだっ!!



「あの、レムさんっ」


「んむ?」



 リィナお姉さんからの依頼も受けて、今度こそ依頼に出発しようとした所で後ろから声をかけられた。


  --またなのだっ!


 声の方に振り返ると、そこには犬耳を付けた少女が立っていた。


  --おお、エルかっ


 先程まで一緒に戦っていた少女だなっ。



「そのっ、急にこんな事になって、パーティは組めなかったですけど...」


「む?」


「あの、私とお友達になってもらえませんか?」



 お、おおっ!!

 フレンド要請なのだっ!!



「勿論良いのだ!!」


「よ、よかった...

 よろしくね、レムちゃん」


「うむっ、よろしくなのだ」


「えへへっ」

「むふふっ」



 そう言ってエルと握手をして笑い合う。



「今回は組めなかったけど、今度はパーティ組みましょうねっ」


「今度は絶対組むのだっ!!」


「その時は、2人でジョニーさんに一発あてないとですね」


「そうだな、先にジョニーを一回ぶっ飛ばすのだっ」



 これなのだっ!!

 こういった仲間との出会いと別れ。錬がやっていたこれがやってみたかったのだ!!



「ええと、私達はこれから孤児院の子供達を救助してから避難しますので、レムさんも依頼頑張って下さいっ」


「うむっ、ケイトの護衛は任せるのだっ」



 そんなやり取りをしておると、奥の方からジョニーの声が聞こえてくる。

 その声に『そういえば準備の途中でした』と、エルは軽く会釈してからギルドの奥へと戻って行ってしまった。



「お待たせしましたっ」



 そんな丁度いいタイミングで、ケイトの方が戻ってきた。

 妾がエルと話し始めたあたりで、グラディスに呼ばれて何処かに行っておったようだが、追加の依頼でも頼まれたのだろうか?


 ぬぅ...。これ以上やる事が増えると、妾では覚えられるのか不安なのだ...。



「何か追加の依頼でも頼まれたのか?」


「え? あぁ...いえ、ちょっと助言みたいな事を受けてました」


  --ふむ、助言か...


「それでは、まずは宿屋街を抜けて旧市街へと向かいましょうか」


「うむっ」



 グラディスの助言が少し気になるが、無理に聞くものでもないしな。


 さてと...まずはギルド施設を出ると、まずは旧市街とか言う場所を目指すのだったな。


  --んー...


 夜だというのに空の魔法陣が街を照らしだしていて、まるで昼間のように明るいのだ。

 これでは折角のアンデッドだと言うのに、ホラーの様なドキドキが無いではないか...。


  --ちょっと残念なのだ...


 と...歩き出して早々に、早速ゾンビと出会った。



「レムさん、正面にアンデッドです」


「うむっ」


「どうしますか? 迂回すれば避けて通れそうですが...」


「ふむむ...一応見つけたら倒した方が良いのではないか?」


「確かにそうですね...早く先に進みたい所ですが、放置して誰かが襲われるのも避けたいです

 宿屋街は避難場所にも近いですし、今回は処理してしまいましょうか」


「ならば妾の魔法で瞬殺なのだっ」



  --ふっふっふ、妾の魔法を見るが良いっ!



「レムさん、魔法なんですが...」

「ファイアーボルト!「ちょっ!!」」

   

    --ゴウッ


「ああっ!!」



 ゾンビなんて燃やせばすぐなのだっ。

 まだ生っぽいのは燃えにくいが、乾いてるやつは良く燃える...むぉぉっ。


  --まずい、建物に燃え移ったのだっ!


 --水っ


   --水なのだっ



「ウォッ、ウォーターボール!」


   --バシャッ


「ふぃ~...」


  --危なかったのだっ


「レムさん...あの、街中で被害が出る魔法は......って言おうとしたんですが」


「......す、すまんのだ」



 横に居たケイトから、ジト目で怒られてしまった...。


 むぅ...景気良く1発目は初級魔法のファイアーボルトで仕留めて、複数出て来たら着火と空間魔法の複合技でもっと派手に燃やそうかと思っておったのだが...。


  --この作戦は中止なのだ...



「ちょっと良いですかレムさん」


「うむ? どうかしたのかケイト」


「あの...使用する魔法なんですが、出来る限り街中に被害が出ないようにしてもらってもよろしいですか?」


「わっ、わかったのだっ」


「それと、教団から後発隊が来ますので

 水浸しで足場を悪くする等の、進行が困難になるものは避けて欲しいです」


「う...うむっ」



 そうなると、周囲に影響を出さずに......死体とゾンビが混ざらない様にもした方が良いのだろうな。


 何か良い魔法は...神聖魔法は威力が高すぎて街が焦土になってしまうかもしれんし。

 単発で安全な......うむ、重力魔法が良いなっ。あれなら地味だしきっと大丈夫なのだっ。



「次は任せるのだっ」


「はい、頼りにしてますっ

 魔法を使えば簡単に進めますし、手早く倒して行きましょう」


「うむっ」



 先程失敗したばかりだと言うのに、ケイトはにっこりと笑って妾に任せてくれたのだっ。

  --優しくて良い人なのだっ



 おっ、次は建物の前に数匹まとまって居るのだっ。


  --ヴァ~

    --ヴヴ...ヴ..


 よしっ、次こそはうまくやって見返すのだっ。



「今度は周囲に影響の無い魔法で倒すのだっ」


「はい、お願いします」


「うむっ」


  --それでは...狙いをつけたら


「重力圧縮(グラビティプレス)!」


  --ギュンッ

   --ブヴヴヴヴヴゥゥゥゥ........



 一瞬、周囲の空気が歪むと、同時に鈍い音をたてながら周りを巻き込んで一点に向かい収束して行く。



  --メキッ


「あっ...

 やっ...やってしまったのだ...」


「えっ?」


   --ベギキ......

 --ベキ  --ベキ


  --ズズズズズズズ...ズン


「えぇぇぇぇっ!!」


「ぬぅ...」



 狙い通り標的が1センチ程まで圧縮されただけで、見た目としては地味だったのだが。

 ゾンビごと建物を巻き込んで圧縮してしまったのだ...。



「えっと...範囲の指定が甘かったのだなっ、次からは気をつけるのだっ」



 建物はゾンビの居た片側が抉(えぐ)り取られて、支えを失うと耐えられなくなって崩れ始める......。



「そう、物と言うのは下へ落ちるのだ、どんな物でも何時かは落ちる運命にあるのだっ」


「何を言ってるんですかぁあぁぁぁぁっ」



  --ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

       --ガガガガガ

     --ズザザザガガガガガガガッ




「......。」



 この後、無茶苦茶怒られたのだ...。


 優しいと思っておったのに、怒るととても恐かったのだ。


 別に怒鳴られも蔑(さげす)まられもしなかった。

 ただ、延々に何が駄目で、妾はどう反省するべきか。

 これからどうやって直していくのか、そもそも自分を理解しているのか。


 非常時だと言うのに、戦って進みながらも、ずっとその様な事を言われ続けてしまった。


  --妾の駄目さ加減が心に突き刺さって


    --沢山考えて...でも全部否定されて


   --とても恐かったのだ...



 そして宿野街を抜けて旧市街に入った所で、やっとケイトの説教が終わったのだ。


 因みにこの後魔法は禁止されてしまって、ケイトと一緒に近接攻撃でゾンビを凌(しの)いで倒して来た。

 ケイトは聖騎士(クルセイダー)だと自己紹介で言っておったので、剣でも収納(アイテムボックス)から取り出して戦うのかと思っておったら。

 どうやら聖騎士(クルセイダー)と言うのは教団内での地位的なもので、ケイト自身は修道士(モンク)と言うやつらしいのだっ。


 どうやら素手で戦うらしい。


 避けて、流して、がら空きになった場所へ聖属性を付与した拳を叩き込む。


 おお、そうやって戦うのかっ。非常に洗練された動きで、妾も少し見とれてしまったのだっ。


 動きが綺麗でカッコイイのだっ!!

 妾もあれ、やってみたいのだ!!



「ウヴォォオォォォォォォッ...ォ....ォォ.....ォオン」



 行き成り遠くから巨大な雄叫びが響いてきた。

 建物の間を木霊して、周囲をビリビリと震わせてくる。



「いっ、今のはっ!?」


「ふむ、何かの鳴き声だなっ」



    --ガガァ...ン..




 --ドガァ..ン




   --ガガ...ガガッ



 --バキバキバキ


     --ドゴォーン


  --ドゴォッ

   

   --バゴォッ

 --ゴガッ

    --ガッ

  --バゴッ



 何だか破壊音の様なものが近づいてきておるようだが。

 しかし、かなり巨体のようだな、建物が次々と崩れるような音がするのだ。


  --ボスだろうか?


 ちょっとワクワクするのだっ。



「れっ、レムさん、周囲に気をつけて下さい」


「うむっ、音からして多分......こっちなのだっ」



  --ドゴォァン

      --バリバリバリバリ


「ぬっ、ぬぉぉぉぉっ」



 

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