第25話 少年なのか? 少女なのか?





 ◇ ◆ レムリア視点 ◆ ◇



「おい、もう少し落ち着いて喋れ。

 アンデッドだと? んなもん街中にいるわきゃねぇだろ?」



 慌てた様子のリィナお姉さんに、ギルドマスターが呆れた調子で言い返した。

 するとリィナお姉さんは一度だけ深呼吸してから、現在起こってる事について話し始めた。

 

 ええと...ふむふむ。


 話し始めたお姉さんの話しを聞いてみると、どうやら街中にアンデッドの大群が雨のように降ってるらしい。

 討伐できる量じゃないから『緊急依頼』? なんなのだそれは? 普通の依頼と何か違うのか?


  --まぁ良い...


 んーっと。


 城の上空に巨大な魔法陣?

 成る程、先程の魔力波はそれだな。ふむふむ...ギルドマスターの言う通り、妾を召喚した時の召喚陣を転用したものだと思うのだ。


 ええと...それで。


 どうやら避難の時間稼ぎをするために、冒険者達へアンデッドの駆除が依頼されているらしい。

 ふむふむ......。なっ! なん...だと!!


 『緊急依頼』だから討伐報酬が通常時の3倍!?

 これは絶対に逃せないイベントではないかっ! 完全に出遅れてしまったぞ!! こうしてはおれん。



「おいヒラヒラ、何処に行く気だ」


「むっ? 勿論アンデッドを狩りに行くに決まっているのだっ」



 何故か訓練場から出ていこうとしたらギルドマスターに止められてしまった。

 『緊急』の依頼が妾の事を呼んでおるからすぐに行かねばならんというのに、いったいなんだというのだ?



「ヒラヒラ、お前は待機だ」


「なっ、何故なのだ!! どうして妾は待機なのだ!?」



 他の冒険者達は稼いでおるというのに、ずるいのだ!!



「まぁ待て、お前にはケイトと一緒に依頼を......。って、なにやってんだお前?」



 ギルドマスターは視線をケイトの方へ向けると、首を傾げて心配そうに声をかける。

 おかげで会話が肝心な所で途切れてしまったのだが......。


 んむ? ケイトはどうかしたのか?

 なにやら扉の横でうずくまっておるみたいだが...。



「うぅ......何でみんな確認もせずに扉を勢い良く開けるんですか...」


「おい...なんだまたか? いい加減に扉くらい避けろよ」



 ああ成る程、リィナお姉さんが入ってきた扉で顔をぶつけてしまったのかっ。


 妾も時々やるからな、気持ちはよくわかるぞ。

 ステータスの補正で痛みは殆ど無いのだが、油断してるとビックリするから嫌いなのだ...。


 そんなケイトを見下ろしながら、ギルドマスターは言葉を続ける。



「あー...なんだ。追い打ちをかけるようで悪いんだが、お前のとこの審問官がミスったみたいだぞ?」


「う...ぅ、えっ?」


「やっぱり聞いてなかったのか。どうやら城の上に召喚陣が展開されていて、大量のアンデッドが降ってきてるらしい」


「なっ......」


「多分だが、城の召喚陣が暴走してるんだと思うんだが...。

 ......私は止め方とか何も知らんぞ、どうするんだ? 完全に教団の責任だろアレ?」



 --ガッ


 お、おい。

 ケイトがとうとう地面に手を付いて倒れ込んでしまったぞ?


  --だ、大丈夫なのか?

 

「僕も知りません...」



 む? 知らない? 何の事なのだ?

 ケイトが絞り出すように何か言ったのだが、妾には意味がよくわからんのだ...。



「おい待て、もしかして召喚陣の暴走を止められんのか?」



 妾が何の事か悩んでいると、代わりにギルドマスターが反応した。



「そっ...それは......はい」


「そうか......。止められないのか...。まいったな...」



 そう言うとギルドマスターは何かを考えるような仕草で腕を組んで悩み始めた。

 しかし考えがすぐに纏まったのか、ポンと手を打つと口を開いた。



「よしっグラディス。私は緊急事態を告げにポータルでちょっと聖都に行ってくる。

 だから後の事は任せ..「おいコラ糞婆っ!」」


「くっ..糞? あぁん? いい度胸だなオマエ...」


「ぐっ......おい、ガチの殺気を俺に向けるのは止めろ...。緊急時くらい真面目にしてくれ!!」


「......。」


「......。」


  --ぬぅ...


 睨み合いをはじめてしまったのだ。

 妾には二人がもめてる理由がイマイチわからんのだが、召喚陣が止まらないのが問題なのか?


 なんなら妾がちょっと行って止めて...。


 ......。


 いや...しかし、ついさっき待機しろと言われてしまったばかりだしな。

 それに、簡単に止めてしまうと折角の『緊急依頼』がすぐに終わってしまうかもしれん。

 ギルドマスターからちゃんと依頼を受けるまで、余計な事は言わん方が良いかもしれんのだ。


 今は大人しく、このイベントを眺める事にするのだ...。



「はぁ...... 仕方ねぇか......」 



 お、おお? 


 溜息を吐くとようやくギルドマスターが緊張をといたのだ。

 余りにも長く睨み合っておったので、もしかして妾が話しかけないとイベントが進まんのかと思ってしまったぞっ。


 しかし、これでようやく先に進めそうなのだ。


  --よしっ


 さっき言いかけておった依頼の話しを聞く絶好のタイミングなのだっ!!



「なぁなぁ、妾はそろそろ先程の『妾はケイトと一緒に...』の続きが気になっておるのだが...」

「あー...ちょっと待て、先に色々と指示を出さなきゃならん」



 ぬぅ...タイミングはバッチリだと思ったのだが、依頼の話しはさらっと流されてしまったのだ...。

 このまま放置されるようなら、どうにか抜け出して他の冒険者に混ざる方法を考えねばならんな。


 だが、その場合はどうやって緊急依頼を受ければ良いのだ?

 それが一番の問題だな...。困ってしまったぞ...。


  --んぬぬ...


「リィナ、冒険者には一通り『緊急依頼』を出したんだな?」


「はいっ」


「じゃあその中から情報収集や偵察に優れた連中を集めて、今の状況を正確に把握してくれ」


「わかりました」


「それから、ここじゃ結界のせいで外の様子が全くわからんからな

 私も一度この目で外の様子を見てくる、その間の指揮はグラディスに任せるぞ」


「ああ、わかった」


「それでグラディス、今後の事についてだが、最優先で教会の周辺の安全を確保しといてくれ

 使えそうな冒険者に指示を出しといてくれればそれでいい」


「あ、ああ...」


「このギルド施設を司令本部として使う

 此処だけなら私の結界でどうにでもなるから防衛はいらん

 使える冒険者は全部対処の方へあてろ」



 お、おぉ...。

 ギルドマスターがいきなり人が変わったようにハキハキと話し始めたのだっ。


 しかし、妾への依頼は無いのか?

 も、もう少しなら待てるのだぞ??


  --うず


   --うず


「次に『蒼天』。 お前らはアルティナと一緒に孤児院を周って教会に避難しろ

 アルティナは回復魔法が使えるからな、道中怪我人が居たらそれも拾って教会に避難させといてくれ」


「わかりました」



 よ、よし、次はきっと妾の番だなっ!!



「それからケイト、お前は早くこの状況を何とかしろ」


「......」


「どうした?」


「あの、僕への指示だけ大雑把すぎませんか?」


「だってお前は教団の人間で冒険者じゃないだろ? 自分で考えて何とかしろ」


「...わかりました」



 ぬぅ...そうか、まだケイトとやらが残っておったか。

 しかし先程、妾はケイトと...って言いかけておらんかったか?


  --んー...


 まぁ良いのだ、これで次こそは妾の番だなっ!!



「ああそれでヒラヒラ...お前は」

「わかったのだっ!!」


「おい、何もわかってねーだろ、黙って聞け」


「う、うむっ」


「それでお前はケイトの指示に従え」


「うむっ!! それで依頼料はどれくらいもらえるのだ?」


  --わく

    --わく


「あー......。そうだな、それはそこのケイトが今まで無いほど、巨額な報酬を出してくれるぞ」


「ほんとか!!?」

「ちょっ!!」



 や、やったのだっ!!

 これで夢の宝物庫付きマイホームが...



「待って下さいレイナ様..」

「報酬出せるよな?」


「......いえ、僕の権限では...あの」


「私の管轄する街をこんなにしといて、教団は依頼料も禄にだせんのか?」


「ぅぐっ...」


「よし、ヒラヒラ、良かったな。報酬ははずんでくれるらしいぞ? 何が良い?」


「宝物庫付きの家が欲しいのだ!!」


「なっ、そ、それは流石に」


「駄目なのか?」

「それくらい出せるだろ?」


「...あ、あの、街からかなり離れてる場所でよければ......何とか出来なくもないですが」


「おい、それは流石に...」

「それで良いのだ!!」


「あー......。良いのか?」


「うむっ」


「そうか...。

 良かったなケイト、破産は免れたみたいだぞ」


「......はい」



 やっ、やったのだっ!!

 これでいよいよ妾もマイハウスを手に入れたのだっ!!


  --ぬふふ...


 しかも宝物庫が付いておるのだぞっ!?

 これは、金塊やキラキラした宝物を沢山集めなければならんな...。



 それから、皆が指示を受けて訓練場から出ていった後。

 妾はケイトと二人きりでポツンと此処に取り残されていた。


 それでケイトなのだが...。

 先程から...『これからどう行動するのが最善だろうか...』とか、ぶつぶつ言って考え込んでおるのだが。


  --むぅ


 これはまた話しかけ難い状況ではないか...。

 早く行かんとこのイベントが終わってしまうかもしれんのに、いったい何を考え込んでおるのだ?。


 ......。


 んー、もしかして妾の事を忘れておらんか?


 ......。


 もうちょっと視界に入る位置に移動した方が良いだろうか?


  --そろ


    --そろ


 ふむ、このあたりか?



「でもそれだと...それなら一度報告した方が...」


  --ぬぅ...


「けど、そんな余裕は...ならやっぱり...」



 眼の前に立っておるというのに、顔を覗き込んでも気付いてもらえんのか?

 あー...いや、これは目を瞑って考えておるのか。これでは視界に入れんではないか...。



「専門家じゃないが、やはり行ってみるしか無いか...よしっ」


  --おっ、ようやく考えが終わったのか?


「うわっ」



 気付いてもらえる様に下から覗き込んでおった妾と目が合うと、驚きの声を上げながらケイトが勢いよく飛び退いていったのだ。

 もしかして驚かせてしまったのか? すまんのだ...。


 しかしあの驚き様から見て、やはり妾には気付いておらんかったのか。


 まぁだが、これで気付いてもらえたからな、次は放置されんようにすかさず話し掛けてしまうのだっ。

 


「考え事はおわったのか?」


「は、はいっ、待たせてしまいましたか?」


「うむ、少しだけなっ」


「すっ、すみません」



 何だか顔を赤くしてオドオドしておるが、どうかしたのか?



「そ、そう言えばちゃんと自己紹介してませんでしたねっ」


「うむっ」


「それでは改めて...」



 そう言って少年が佇まいを整えると、赤らめた顔を誤魔化す様に微笑んでから話し始めた。



「僕は教団に所属している『ケイト』と申します

 一応立場的には聖騎士(クルセイダー)と言う事になってます」


「うむ、妾はレムリアと言うのだっ

 レムと呼ぶと良いぞっ」


「はい、宜しくお願いしますね...

 えっと、それではお言葉に甘えて、レムさんと呼ばせてもらいます」



 そう言って手を差し出してきたので、握り返した。

 それにしても、凄く細い腕をしているし肌も色白で...『聖騎士』には全く見えんのだ。


 身長も妾よりは高いのだが、それでもジョニー達よりかはずいぶん低いしな。

 髪の毛も金髪で肩までかかっているし...。もしかして少年だと思っておったのだが少女だったりするのか?


 そう言えば声も女性にしては低いが、男性にしては高いような気が...。


 一人称が『僕』だったからなっ。

 それで少年だと思っておったのだが、こうして良く考えてみると全くわからんのだ。


  --むぅ......


「ケイトは...男なのか?」


「えっ、あ、はい...男性ですよ?」


「うむ、そうか」


「あ、あの...。やっぱり女性に見えますか?」


「んー...? 何方(どちら)にも見えるのだっ」


「そうですか......結構筋肉が付いてきたと思ってたんですが...はぁ......

 やっぱり僕は..屈強な男性にはなれないんでしょうか...」



 な、何故かケイトが落ち込んでしまったのだが、もしかして見た目を気にしていたのか?

 ぬー...この場合、何か言って慰めたほうが良いのか?


 また会話が途切れて話しかけ難い雰囲気になってしまったぞ。


  --どうしたら良いのだ...?


 ......。


 ...。



「えっと...。それでは、これから二人で城に向かうのですが......」


「う、うむっ」



 おっ、おお。

 妾がどうしようか悩んでる間にケイトが自力で復活したのだっ!


  --ふぃぃ~


 助かったのだ。

 また凄く時間がかかるのかと思ってしまったぞっ。


 どうやら性別の事は気にしておるみたいだからな。次からは気をつけるのだ。



 


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