第56話 それ、『ユニークスキル』じゃなくて『呪い』の間違いだろ?

 



 クッソこいつ、話を勝手に進めやがった。

 このままじゃ異世界行きを強制されちまう。


 いや、まぁ。

 元の世界は両親が離婚して引き取られた親父は放浪でどっかいってるし。

 特に未練も何もねぇんだが......。


 このままだとやったこともない鍛冶職人として異世界に送られちまう。

 魔王とか居る世界で生産職とか自衛の手段が無さ過ぎんだろ?


 いくら未練が無いからって、命の危険がある世界に行きたくはない。

 勇者とか無双出来んだったら面白そうだとは思ったけど...。


 生産職もまぁ嫌いじゃないが、何よりコイツが信用できねぇ。


   --悪いがまだ死にたくない



「おい、俺は安全な元の世界が良いんだよ」


「却下! じゃあサクサク話しを進めるわよっ」



 全く話を聞かねぇし。



「それでタツヤに付与したのは、ステータスが筋力(STR)しか上がらない代わりに、レベルアップで通常より沢山の筋力(STR)が上がるユニークスキルと...」


「おい待て、何だその呪いみたいなユニークスキルは!?」



 鍛冶と相性最悪だろそれ、何考えてんだコイツ?



「なぁ、待っ「あと、どらごんているず? とか言うので生産職やってたでしょ?」


「あっ? えっ? いや、俺の話を」 


「その生産系スキル全部と、レシピもオマケで付けといたわよっ

 さすが私っ 太っ腹ねっ!」


「......。」


 

   --おい待て...


 ステータスが筋力(STR)しか上げれないのに、スキルが全部生産系ってどう言う事だよ。

 もう酷すぎて言葉も出ねぇよ......。


  --罰ゲームかなんかか?



 ・ 水薬(ポーション)作製には『知力(INT)』


 ・ 武器の切れ味や能力を高めるには『器用さ(DEX)』



 生産職には基本となる、この2つの能力(ステータス)が必須なんだぞ?


  --まぁ例外もあるんだが...


 筋力(STR)だけだと重いハンマーで金属が打てるだけだから...。

 切れ味も能力も何も無い、ただ強度が高いだけの鉄塊しか作れねぇぞ?


 マズイぞ、マズイ。


 こいつの蛮行を今すぐ止めねぇと。



「おいっ」

「あっ、能力はもう付与しちゃってて変更は出来ないから」 


「なっ......」



 俺の言葉を遮って、とんでもない事実を突きつけてきやがった...。


 ...既に手遅れ......。


  --終わった......



「それと、『メニュー』って念じると『ドラゴンテイルズ』と同じメニュー画面が出てくるんだけど

 これは他人からは見えないし、安心して好きな時に使うと良いわよっ」


「......ああ...」


「ちなみに『収納(インベントリ)』もちゃんと使えるから。

 便利だし、うまく活用してキビキビ働いてねっ」


「うん......」



 なんか言ってるけど、ショック過ぎて何も耳に入ってこない...。



「ねぇちょっとタツヤ」


「あん?」


「何でか知らないけど、他のステータスが上げれないとか思ってない?」


「うるせぇな、そうだよっ!

 ......って、もしかして違うのか!?」


「そりゃそうよ、流石に筋力(STR)だけで鍛冶なんて出来ないわ

 あっちの世界の『ステータス』って、元の能力値にブーストするだけなのよ」


「ん? どういう事だ?」


「要するに、タツヤの元の筋力が2だと、ステータスが100で200になるのよ

 逆に、タツヤの筋力が0だと、ステータスが200あろうが1000あろうが0なわけ」


「ええと...つまり、元の能力値は別にあって、ステータスの割合だけ基本値から増えるって事か?」


「そうそう、そういう事」


「な、成る程...」



 つまり、俺が努力さえすればステータスとは別に知力やら器用さを鍛えられるって事か。


 びっ...びびった。


 何とか首の皮一枚繋がった感じがする。


  --けど...


「何で鍛冶やんのに上げるのが筋力なんだよ!?」


「え? だって鉱石掘ったり運んだりするのに必要でしょ?」


「いや、それはわかるが、鍛冶には他にも必要な能力があんだろ?」


「え? 鉱石さえ手に入れば後は気合でどうとでもなるじゃない?」


「......え?」

「...えっ?」



 ......。


 ...。



「なぁ器用さ(DEX)とかは...」


「ん? そんなの、生まれ持った分だけで十分でしょ?」



 ...あっ、わかった。

 コイツ、前はドワーフだったって言ってたな。


 それだわ。

 そこが原因だったわ...。


 コイツ、ドワーフの感覚で物事を考えてやがる。


 あの種族、もともと器用で鍛冶に特化してるからな。

 つまりコイツは筋力特化して貴重な素材沢山持ち運び出来れば良いとか思ってやがるわけだ。



「おい、俺はドワーフじゃねぇんだぞ?」


「え、そんなの見たらわかるわよ。かっこいいヒゲも無いし」


「そうか、それじゃあヒゲのついでに器用さ(DEX)とかも無いって知ってるか?」


「えっ......」


「......」



 ......。


 ...。



「それでねタツヤ、ドラゴンテイルズで使ってたメニューを」

「おいまてコラ」


「ちょっ、しっ、知らなかったのよ」


「知らねぇですむか!?」


  --ガシッ


「ひっ!

 おっ、おまけで『ドラゴンテイルズ』のアイテム全部メニューのインベントリに入れといたからっ!

 だから掴みかかるのは止めてちょうだい!!」


「...えっ?」



 マジで?


  --『メニュー』


 これか...。


   --『インベントリ』



「おっ...おおおおっ」



 収納(インベントリ)に『ドラゴンテイルズ』で俺のキャラが持ってたアイテムが全部入ってる!?

 初めてまともな能力だっ!!



「そ、それで何とかならないかしら...?」


「あー...これでか......?」



 一応、売ろうと思って作ってた装備は入ってるけど...。生産メインだったからやっぱ素材が多いな。

 これだとやっぱり生産に合ったステータスが上げれないのは辛い。

 辛すぎる...。

 素材がたっぷりあるのに、これだと相当俺が努力しないと碌な物が作れないんじゃないか?

 俺の元の器用さ(DEX)にもよるけど...。



「この『メニュー』と『インベントリ』は良い。アイテムも入ってるとか最高だ」


「そっ、そうでしょっ!?」


「でも『ユニークスキル』で完全に帳消しだ」

「なんでよっ!」


「いやいやいや、筋力(STR)じゃ生産スキルが全く活かせないからっ」


「え、でも、重いハンマーとか振れるわよ?」


「はぁぁ......」


「振れてもその後が無理だろ」


「そうなの?」


「そうなんだよ、だからユニークスキルを直せっ」

「無理よ?」


「あぁ?」


「何でそんな喧嘩腰なのよっ、ただでさえ顔恐いんだから止めなさいよ」


「じゃあせめて戦闘スキル寄越せよっ」



 そっちなら筋力(STR)活かせるし。



「それも無理よ、キャパシティ限界だし」



 キャパシティって何だよ...。

 説明不足すぎてもう解(わ)っかんねぇよ...。



「それじゃあもう飛ばすからっ」


「まてまてまて、せめて言語はっ? 言葉は通じるよなっ!?」


「あぁ...言い忘れてたわ。

 それは異世界から渡ればデフォで付いてるから大丈夫」


「良かった......いや、良くねぇよ、どんな場所に飛ぶだとか色々言う事あるだろうがっ!?」


「あー...えーっと」


   --ピシッ


「あぁ?」「うぇっ?」



 今の音は何だ?



   --ピシッ

     --パシッ



「おいおいおい、何だかヤバそうな音がするんだが?」


「えっ、わっ」



 なんだこれ、白い空間に蜘蛛の巣みたいなヒビ割れが広がっていってるぞ。



「おいこれ、大丈夫なのか?」


「そ、そんなの、わかんないわよ! こんなの初めてで...」



   --パンッ

      --ピシピシッ

  --ピシシッ


 確実に駄目なやつだろ?

 なぁ、駄目なやつだろこれっ!?



「ど、どうにかしろよっ」


「五月蝿いわねっ、もうやってるに決まってんでしょっ!」


「でも悪化してんぞ!?」


「どうなってんのよ...これ、駄目...だめだめだめっ!」



   --パァァンッ

      --カシャァァン



「「ああああああああああっ」」「きゅん...」



 足場が急に無くなりやがった!?


 しかも下は底が見えない真っ暗闇だ。


  --落ちっ

      --落ちるっ!



「おいぃっ 駄女神!!」

「......」


「って、気絶してんじゃねぇかぁぁぁっ!?」



 

 

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