第29話 これはきっと強制敗北イベントに違いないのだっ!!

 


 言葉を聞いてみても意味がわからんしなっ。

 ケイトとも早く合流せねばならんし、とっとと倒してしまうのだっ!!



「よしっ」



 多分こいつも頭の仮面を取れば倒せるのだっ。

 ふふふ、そのオシャレな仮面はいただきなのだっ!!


  --確認(チェック)


    --それから引寄(プル)!


「ウヴォァァァァァッ」



 ぬ...ぐぐぐぐぐぐっ。

 こ、こやつ、抵抗するのだっ!


 ぬぐぐぐぐ。

 も、もう少し...なのだっ!



「だめよぉ? 私の玩具(おもちゃ)をとっちゃぁ」

   --パシンッ


「むぉっ?」



 なっ、何なのだ?

 いきなり魔法が弾かれたぞっ!?


 それに今の声は......こいつとは違う声が聞こえてきたのだ。


   --ザシュッ


 ぬぇっ?

 え...あ...。


  --さ、刺された!?


 いきなり胸から尖ったものが飛び出してくると、遅れて焼け付くような痛みがズクリズクリと広がって行く。



「ぬがぁ..ぁぁあ...」



 酷い痛みに思わずその場で蹲(うずくま)る。

 貫かれた胸からは、生暖かい血が流れ落ちていく。


   --何なのだっ!!


    --何が起きたのだっ!?


「あらぁ? 意外と良い声で鳴くじゃない」



 そんな妾の耳元に、ねっとりとした女性の声が囁かれた。



「誰...なのだ?」



 痛みを堪えて声の方に振り向くと、妾の横から金ピカミイラの方へと1人の女性が歩き出てきたのだ。


 その助成は頭から巨大な一本の角が生えていて、胸がとてもとてもでかい。

 それで白目の部分が黒くて、瞳が金色をしているのだ。


 角が生えておるからきっとあれは鬼なのだっ!!


 ぬぐぐぐ...鬼なんかに不覚をとってしまったのだ。

 傷は自然回復でふさがり始めておるのだが、何をされたのか全く何もわからなかったのだ。


 鬼の女は薄ら笑いを浮かべながら、舐め回すように此方を見下ろしてくる。

 その後ろでは先程まで暴れていた金ピカミイラが、時が止まった様に跪(ひざまず)いて佇んでいる。


 あの視線はなんだかとっても気持ち悪いのだ...。



「貴方、何だか他のとは違う感じがするわねぇ?」


「い、いったい何なのだ?」



 鬼の女が何か言ってくるが、それより先に体勢を立て直さないとまずいのだっ。

 さっきされた攻撃がわからんから、兎に角敵より先に攻撃を...。


   --確認(チェック)


     --着火(ディダ) 


「うふふ、だめよぉ」


    --パシンッ


 なっ、魔法を消されたの...。


   --ザシュッ


「うがっ...ぅぐっ」



 また妾の胸を漆黒の刃が貫いて出てきた。


 い、いったい何なのだこれは!

 魔力の反応も気配も何もないのだっ!!


 いきなり妾の中から刃が飛び出してくる、こんなの絶対避けられないではないかっ!!


 ぅぬ...ぐぐ...。

 ずるいのだっ。


   --ザシュッ


「ぬ..ぐぅ...」



 またかっ。

 胸からは飛び散る血液に金属の冷たい感触が伝わってくる。


   --ケホッ

  --ケホッ


 堪らず声を漏らすと、喉から生臭いものが込み上げてきて咳き込んでしまったのだ。


 もう怒ったぞっ!!


   --爆発(エクスプロージョン)...

       --パシンッ


  --獄炎(ヘルバーニング)

    --パシンッ


「ふふ...ふふふ......あは、アハハハハハ..ハハハハッ

 まだ魔法なんて撃てるのねぇっ 良いわ、良いわよ貴女(あなた)」


「ぬ..ぐっ...」



 妾の魔法がまた消された...!?

 こいつの使っておるのは呪文破壊(スペルブレイク)なのか...?


 いや、妾の魔法がそう簡単に破壊(ブレイク)出来るわけがないのだっ!!

 他に何か仕掛けがあるはずだぞ、絶対に見つけてやるのだ...。



「ふふ..ふふふ、どうしてって顔してるわねぇ?

 いいわぁ...これぞ愉悦(ゆえつ)の時間ってやつね、ふふ..ふふふっ」

 


 何なのだ...この敵は。

 『ドラゴンテイルズ』の世界でも、此処まで奇怪なボスは居なかったのだ。


 これでは攻撃が出来んではないか!!

 しかも相手は避けられない攻撃をしてくるし、こんなのどうやって戦えばいいのだ?



「うふふ...まだ死なないのね?

 ふふふ..ふふ、丈夫な玩具は大好(だぁいす)きよ?」


  --ザシュッ


「......でも..ね」



 ぐぅっ...体力が回復するより早く流れだして行くぞ。

 このままではいずれ削られきってしまうのだっ。



「今日は駄ぁ目......此処をたぁっくさんの魔素で埋めなくちゃいけないから、遊べないのよ...」



 こ、このままだと、死んでしまうのだ...。

 で、デスペナは嫌なのだ!!


  --に、逃げないと...


    --小転移(スモールワープ)

   --パシンッ


    --くっ...


 転移魔法まで...消されたのだっ...。

 まずいぞ、頭がクラクラしてきてしまったのだ...。



「ふふ...ふひキヒャッ...キャハ、キャハハハッ」



 いったい何を...されているのだ。



「無理よ、私の前で貴方の魔法は使えないの

 ...ふふ..ふふふ...でもね、好きよ、その絶望した表情...ク..くふふッ」



 目の前では笑いを堪えられない表情で、女性が甲高い笑い声を漏らし続けている。

  --とっても不愉快..なのだ...



「はぁ...いけないわ...」



 しかしその表情は唐突に崩れ去って、残念そうな瞳を此方に向けてきたのだ。



「こんな面白い玩具があるせいで...仕事が遅れるところだったわぁ

 はぁ......残念だけど、もうお別れねっ」


「なに..を...」


「さよならぁ」


 

 そう言って鬼の女性が手を振ると、目の前に異常な量の魔素が集まっていく。



「こ、これ..は?」



 こ、こんな量の魔素を使って攻撃されると流石の妾でも駄目なのだっ...。

 絶対に..止めないと......負けてしまう。


 ぐ..ぬぬ...。

 1月に1度しか使えんから残しておきたかったのだが、とっておきの魔法を使うしか無い。

 世界に干渉する魔法だからなっ、これならきっと止められんのだっ。

 

  --次元断絶式結界...


   -- 一層『反転』


    -- 二層『静止』


     -- 三層『絶界』



「発..現...なのだっ」

 


   --ギャリリリリリリリリリッッ


 妾が全力で発動した結界を、大量に出現した漆黒の蝶がゆっくりと確実に削り取っていく。



「キャハハッ、こんな魔法を出せるなんてすごいわぁぁっ」


  --ギャギャギャギャッ


「でぇもぉ、残念」


    --バギャンッ


「ぬぅ...」

  --『反転』が壊れたのだ..


「フフ..うフフッ」


   --カシャンッ


  --『静止』も逝ってしまったぞ...


「ま..ずい...」


「そうねぇ...まずいわねぇ..キャハハッ」


 妾の漏らした言葉に、馬鹿にしたような言葉が返って来た。

 女はクシャリと潰れた笑顔になると、更に魔力を込めて攻撃力を上げてくる。


    --ピシッ


  --パキッ


   --パキパキッ


 『絶界』まで..削られるのだっ...。



「キャハ、キャハハハハハハ、アハハハハハッ」



 目の前の空間にピシリと罅(ひび)が入って割れると、それが蜘蛛の巣のように広がっていく。


    --ガシャンッ

 

 その蜘蛛の巣をとうとう蝶が食い破り、津波の様に妾の身体を飲み込んだ。


  --下卑た目を向ける女性が遠ざかる


 蝶の波に身体が押されて、世界が急速に流れて行く。


   --建物を突き抜けて

  

  --瓦礫が飛び散って...


    --意識が消える......


 ああ...デスペナが...。




   ◆


        ◇

 





     ◆



       ◇



    ◇



      ◆      

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