第30話 くすんだ銀色と老いた預言者

 


 ◇ ◆ 銀色の少女 ◇ ◆



「ぅ..ぐぅ...」



 体の全部が痛い...。


  --ぐぅぅ...


 お腹もへった...。


 気がついたら此処に居た。

 硬い地面の上に倒れてた。


 何も覚えてない。

 何で自分が此処にいるのかわからない。


 自分はいったい誰?


 名前もわからない。


  --ぐぅぅ...


 お腹へった...。



 気がついて直ぐに、近くでいい匂いがしたから行ってみた。

 焼かれたお肉があって、食べようとしたら殴られた。


 きっと私はその人のお肉取ろうとしたから怒られた。


 いっぱいいっぱい殴られて、そして此処で倒れてる。


 身体の全部が痛い...。


  --ぐぅぅ......


 おなか減った...。


 力がもう入らなくて、腕も尻尾も動かない。

 なんだか段々眠くなってきた...。



「おやおや...こりぁ、ひどくやられたね」



 いきなり私の近くで声がした。

 私に話してる?



「小さな精霊の声を聞いてきてみりゃ、この子かい?」



 せいれい?



「ああ、わかったさ。私も放って置けないからね、助けてやるよ」



 私じゃない誰かと話してる?



「でも...因果...ね」



 うぅ...。

 眠くて意識が無くなっていく。



「...だ..ってる...だ..よ」


  --ぐぅぅ...


 お腹へった......。


 ......。


 ...。



「..き..たかい?」


「ん..ぅ?」



 頭がくらくらする...。



「起きたかい?」


「う...?」



 誰かに話し掛けられた。



「ほら、目を開けて...」


「んぅ?」



 暗いと思ったら、どうやら自分は目を閉じてたみたい。

 言われた通り目を開いてみる。


 するとそこには見知らぬ部屋で、優しそうなお婆さんがこっちを見てた。



「ほら、これを食べな」


「んっ」



 そう言って差し出してきたものを両手で受け取る。


 ......?


 思わず首をかしげてしまった。

 食べろといわれたけど、これは泥のお団子?


 食べられない。


  --スン


   --スン


 においを買いでみたけど、青臭い草の嫌な臭いしかしてこない。


 ......?



「食べ物?」


「ああ、味も臭いも悪いがね、栄養だけはある食べ物さ

 取り敢えずそれを食っときゃ死にはしない...」


「んっ...」



 死にたくないから食べる。


  --かぷっ

    --ケホッ


 お腹が減ってたから沢山齧ると、あまりの不味さに吐き出してしまった。


 それでもお腹が減ってたから、我慢して少しずつ全部食べた。



「お嬢ちゃん名前は?」


「んー...無い」



 話し掛けられたから返した。

 名前を聞かれたけど覚えてない。



「そうかい...私は予言の巫女...いや、今はただのババアさね。婆ちゃんとでも呼んどくれ」


「んっ、婆ちゃん」


「それにしても名前が無いと呼びにくいね...どれ...」



 名前...くれるの?

 私も私の名前が欲しい。


 思わず尻尾が振れてしまうが、これは勝手にうごくやつだから仕方がない。



「ふむ...困ったね...」


「んっ?」


「あんたの名前は私がつけるもんじゃないらしい...」


「......?」


「もうしばらくすると、ここは不死者の街になる。その時、金色の女の子と出会うはずだ。その子に名前をもらうといい」


「金?」


「ああ、黄色でキラキラしてる色さね」


「ん、名前くれるの?」


「ああ、その子に名前をもらえば、お嬢ちゃんは幸せになれる」


「幸せ?」


「ああ、幸せさ...」


「...んっ」



 幸せは良くわからない。

 けど、婆ちゃんがそう言うなら名前は待つ。



 それから、婆ちゃんにこの地下室に住んで良いと言われて。

 あのマズイ泥団子の作り方を教えて貰って。


 30回くらいの夜が過ぎた。

 17回目の夜に、婆ちゃんが『用事がある』って言って出ていった。

 何処にいても運がめぐればまた会える...。そう言ってたけどよくわからない。


  --寂しい...


 一人でこの暗い地面の下にいるのは悲しくなる。



 ある日空から腐った人間が落ちてきた。

 いっぱいいっぱい落ちてきた。


 私はゴハンの材料を集めてて。

 慌てて地下室に駆け込んだ。


 けど、駆け込んだ後に『バキバキバキ』と、物凄い音が鳴り響いて。

 恐る恐る出口から外を覗いてみた。


 そしたらそこに、金色があった。

 変なピカピカの仮面を付けた女の子が落ちてた。



 

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