第50話 ふぅ...スッキリしたのだっ!

 



 ◇ ◆ レムリア視点 ◆ ◇




 ひぃっ、はぁっ、ふぅっ。


   --ズリズリ


 ひっ、はっ、ふぅ。


     --ズリズリ


 こんなにっ。


   --ザリザリ


 力加減をっ。


    --ズズ


 抑えるのがっ。


  --ズズズッ


 キツイなんてっ。


   --ズガガガッ


 思わなかったのだっ!


    --ゴガシャッ


 ......。


 ちょっとだけ失敗なのだ。


 んしょっ...と。うむっ、大丈夫だなっ。



「ふっひぃぃ...」



 よしっ、ちょっとだけ休憩なのだっ。


 ぬぁ~......疲れたのだぁ~......。

 人化の魔法を使うと人の街で活動出来るように一部のステータスが普段なら下がるようになっておるのだが。今回は皆を引っ張るためにそれを解除しているのだが。

 それがとっても...だな、精神的に疲れるのだ......。


 ステータスがドラゴンパワーのままだと、ちょっと気を抜くだけで扉なんかをぶち抜いてしまうくらいだからな。

 力加減がとてつもなく難しいのだ......。


 いつもなら魔法を使って浮かせたりしておるから筋力なんて全然使わんのだが、今はそう言った身体の外で発動する魔法は使えんし...。


 身体強化なら魔力を放出せんから発動出来るのだが、妾、近接職ではないからな...。


 避けたり距離をとったりする瞬発系の身体強化しか慣れておらんくて、使うと皆が吹っ飛んで行ってしまうのだ...。

 さっきちょっと試してみたんだがな、...んむっ、ちょっとだけビトい事になったのだ...。


 まぁ...それでだな。魔法を使うのは諦めて、そ~っと...そぉ~っと...とっても慎重に運んでいるのだが。

 これが、思ったよりも精神的にキツイのだ...。

 また壁とかに盾が突き刺さると大変だからな...。あれは引っこ抜くのに時間がかかってしまったのだ。


 ......。


 ...。


 ふぅ、それじゃあ気を取り直して皆を運ぶのだ。

 慎重に、こうして...そ~っと...。


   --ズリ


 そ~っと...。


    --ズリズリ


 慎重に......。


   --ガッ


 ......。


    --ガッ

   --ガッ


 ...。



「ぬぉぉぉぉおおぉぉぉっ!!」



 またっ!! またジョニーの盾なのだっ!!



「このっ!」


   --ガリリッ


「角のっ!」


    --ガッ


「部分がっ!」


  --ガリッ


「いつもいつも瓦礫の所に引っかかるのだっ」


   --ボゴッ

    --ガシャゴッ


 ......。


 っふぅ...。


 魔法が使えるようになったら真っ先にウインドカッターで削り落としてやるのだっ!!


   --さてと


 引っ掛かってたのは無事に外れたし...引っ張るのだ...。


  --ズリズリ


    --スー


   --スー


    --ズリ


  --スー

     --スヤー


 引きずる音と一緒に銀子の寝息が聞こえてくるのだ。

 そんな気持ちよさそうな寝息を聞きながら、ブレスで出来た溝の中を皆を引っ張ってズリズリズリと進んで行く。

 

  --ザリザリ

   --ザリザリ


「んー...。こうなると分かっておれば、もっとブレスの威力を上げたのだが......」



 ぬぅ......。威力が中途半端だったせいで、地面がボコボコしているのだ。

 しかも威力が低くて周囲の建物がちゃんと吹き飛んでおらんからな、瓦礫が溝の中まで崩れていて鬱陶しいのだぞ...。


   --ズリズリ


     --ズリズリ


 しかし、だいぶ進んで来たのだが。さっきチラッと見えた結界の場所は確かこの辺りのはずなのだが...。



「んー......?」


  --キョロ

    --キョロ


「んむむっ!?」



 おっ、おおっ、もう目と鼻の先にあるではないかっ!!

 力加減を『そ~っと』するのに集中しすぎて、全く気が付かなかったのだっ。


  --ふむむ...


 それにしても、かなりしっかりした結界みたいだなっ。

 だが、何故こんな場所に結界が張ってあるのだ?


 周囲には古びた建物が沢山建っておるだけだが......。



「ふむ......」



 こうなってしまった今だとだな、妾でもこのレベルの結界を張るのは不可能なのだ...。

 いやっ、あれだぞっ!

 こうなっておらねば妾でもこの程度の結界は簡単にはれるのだぞっ!?


 だが、今は......。


  --ぐぬぬ...


 しっ、しかしっ、ここに結界があるってことはだなっ、こうなる前に結界を張ってたと言う事だなっ!

 うっ、うむっ。妾より凄い魔導師なんているわけがないからなっ。

 絶対にこうなる前に張っていたに違いないのだっ!!


 だが、こんな場所に一体何があると言うのだ?

 意味もなく結界なんて張らんと思うのだが......。


 まぁ...。理由は知らんがこんな場所に結界があったのは助かったのだ。

 兎に角、今はあの中に避難なのだっ。



「よしっ、後ちょっとなのだ...」

「おいっ、お前......まっ、まさか、ヒラヒラか!?」


  --スコー


「むっ?」


     --スコー


「無事だったのかお前」


  --ガッチャ

    --ガッチャ

   --ガッチャ



「うっ...うむっ」



 だっ、誰なのだ?

 何だか物凄く丸っこくて小さな鎧の塊に話しかけられてしまったのだが。しかもこっちに向かって駆け寄ってきたのだ!!


 こっ、こんな鎧、全く見覚えが無いのだが!?



「おいおいおいっ、もしかしてその後ろにいるのは蒼天とケイト達か!?」


「うっ、うむ、えっと、確かにそうなのだが......」

「でかしたぞヒラヒラっ!?」


「うっ、うぬっ」



 なんか知らんが、知らない鎧に褒められてしまったのだ。

 妾、どうしたら良いのだ?



「しっかし、なんでお前...無事なんだ?」


「んむ?」


「異世界人の特性か何かか? 普通、この状況で動くのは困難なハズなんだが......。あぁいや、今はそんな事よりソイツらを早くなんとかしねぇとな」



 ......。



「よしヒラヒラっ! こっちに付いてこい」


「えっと.......」



 し、知らない鎧に付いてって大丈夫なのか?


   --ガッチャ

  --ガッチャ


「ほらどうした? 早くしろ」


「う、うむっ、わかったのだ」 



 此処におっても仕方が無いからな。

 それに結界の方へ向かっておるみたいだし、一先ず付いて行ってみるのだっ。


   --ズズ


  --ズズ


    --ガッチャ

   --ガッチャ


   --バタンッ


「よし...ヒラヒラ、ちょっと待ってろ」


「う、うむ」



 何か教会みたいな場所に連れてこられてしまったのだが。此処はいったい何なのだ?


   --ガシャ

  --ガシャ


     --ガシャン


「っふぅ~......この鎧、高性能なのは良いんだが...こう、窮屈でたまらん」


「おっ、ぬおぉっ!!」



 鎧が鎧を脱いだら中からギルドマスターが出てきたのだっ!?


 なんとっ!

 あの鎧はギルドマスターだったのかっ!?

 全く気が付かなかったのだっ!



「なんだ? どうかしたのか?」


「いっ、いや、何でもないのだ」


「ん? そうか。ならそんなとこで突っ立ってないで手伝え。ソイツらを地下に連れて行くぞ」


「んむ、わかったのだ。だが、ちょっとその前に...だな。妾にはやらねばならん事があるのだ」


「あぁ? いったい何を...?」

「ウィンドカッター!!」


    --キンッ

     --キンッ


 ふ...ふはははっ!

 やってやったのだっ!!


 ジョニーの盾の角を切り落としてやったのだっ!!



「おいっ、なんでいきなり攻撃魔法なんて使いやがった!?」


「この盾の角の部分が悪いのだっ」


「は? 何だそれ? バカか? バカなのか!? あぶねぇだろ!」


「なっ、妾は馬鹿ではないのだっ!」



 ......。


 ...。



「なっ、なんなのだ?」



 なんか知らんのだが、反論したらジトっとした目で見られているのだ。



「はぁ......。もう良い、『やること』とやらが終わったんなら地下に行くぞ。ほら、早く付いて来い」


「ちょっ、ちょっと待つのだっ! 妾は馬鹿ではないのだぞっ!?」



 なっ!? バカ扱いした上に手伝ってもくれんのかっ!?

 妾の事を置いてさっさと行ってしまったのだ...。


 むぅ...。折角『そぉ~っと』は終わったと思ったのだが...。まだこの盾を引っ張らねばならんのか...?





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る