第49話 私の魔王さまぁ...



 ◆ ◇ 鬼女視点 ◇ ◆



   --あの姫様には悪魔が憑いて...


    --母親の魔力を吸って廃人に...


     --まさか王族から魔族が...?


  --恐ろしい...


      --いっそ殺して...


   --醜い...


        --閉じ込めて...


     --殺せ...

    --殺してしまえ...


         --殺せ...

   --殺せ...



「ゼシェラ、俺に付いて来い。新しい世界を見せてやる」


「...はい、ガルトフォルト様」



 私の愛しい魔王様......。


 ......。


 ...。



「あぁ...」



 懐かしい夢を見ていたわぁ。


 あの真っ白なドラゴンの攻撃を受けて、一瞬意識が飛んでたみたいね...。



「はぁ...」



 ガルトフォルト様...。

 夢の中でもあの姿を見ただけで心が満たされる気がするわ。


  --けれど......。


 この世界に彼は居ない。

 憎らしい憎らしい憎らしい女神とその手下共に異次元の中へと封じられた。


 魔王城ごと異次元に......。


 あの日から私の帰る場所は無くなった。

 何とか異次元を開こうとしたのだけれど...。


 リヨンでは酷い失敗をして、しばらく動く事も出来なかった。


 だから今度は沢山沢山準備をした。それはもう慎重に。


 何年もかけて街の周囲に魔素と魔力を封じ込める結界を張って。

 王を堕落させて、洗脳して。

 ゴブリンを集めて、キングを生み出して。

 グリフォンの巣を近くに持ってきた。


 それから、無限召喚の魔法陣。

 異世界の神獣もとある伝から手に入れた。


 後は偽物の勇者を召喚して、計画はうまくまわるはずだった。


 そう。その召喚から計画が狂ってしまった。 



 呼び出されたのは勇者や女神の力を全く感じさせない変なエルフ。

 

 本当なら無限召喚のアンデッドと卵を盗まれたグリフォンの群れと、ゴブリンの群れが街を同時に襲撃するはずだった。

 それを偽物の勇者が討伐して、安堵したタイミングで偽勇者を神獣が叩き潰す。


 それで逃げ遅れた人々の魔力も魔素も手に入るはずだった。


 それが...。

 ゴブリンは討伐されて、勇者の居ない街では人々が直ぐに避難してしまった。


 少しでも命を狩ろうと、冒険者達を叩くために王をアンデッドにして放り出したのに、それも直ぐに討伐されてしまった。


  --この程度の魔素ではリヨンの二の舞...


 もう、計画がもう無理なんだったら、聖女の杖を汚して女神を地上に引きずり出してやろうと思ってた。

 もう、もう、もう、一発叩きつけないと気がすまなかった。


 どうせ殺せなくても、汚して貶めてやりたかった。


 ......。


 そんな時、あのドラゴンが現れた。

 真っ白な真っ白な私の天使。


 最初は不思議なチカラを感じて...。それと、イジメるととっても可愛かったからぁ。それでイジメてただけなんだけど、まさかあんな力をもってるなんてねぇ...。


 おかげで狂った計画がすべて挽回する事が出来た。

 私のこの『魔力を吸い取る体質』で。


 あのドラゴンのブレスと、此処に溜まった魔力を全部ゼンブ吸い取ってぇ。


 後は、そう、後は、そう、後はぁ...。


 魔王様、ガルトフォルトさまぁ。


 今すぐに次元を切り裂いて。

 貴方を外にお連れします。


 だから...だから、だからぁ。

 沢山褒めて...褒めて下さい。


 あぁ、褒められたい。


 声が聞きたい。


 見つめられたい。


 あぁ...私の魔王様。



 今、会いに行きます。

 


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