第48話 いったいどうしろってんだ?
◇ ◆ レイナ視点 ◆ ◇
「良いからとっとと行けっ!」
--ゲシッ
「痛てえっ」
此処に残って『蒼天の剣』の奴等を探しに行くとか言い出したグラディスを、無理矢理『聖都』行きのポータルの中へと蹴り飛ばす。
「お前が行っても何も出来ないだろうがっ! ...ったく」
蒼天の連中だけじゃなくて、あのケイトまで帰って来てないんだぞ?
既に引退したアイツが1人で出ていっても二次被害になるだけに決まっとろうが。
「あー......よしっ」
これで今居たのは全員送り出したな?
逃げ遅れた人間大体は聖都に飛ばしたし、避難誘導してた冒険者も無事に全員ポータルに乗せた。
まぁ、無傷で...とは流石に行かなかったが、それでも死者や重傷者は少なく抑えられた方だろう。
商人ギルドの連中共は財産を積んで船で逃げただろうし、貴族や王族は騎士がうまく誘導してるだろ。
一般市民は衛兵の方でも別のポータルへ避難誘導してるだろうし、もう冒険者ギルドで出来る事は何も無いな。
「出来る事なら住民だけではなく、街も救いたいんだがな...」
今の状況を見ればそれが高望みだったのは馬鹿でもわかる。
避難用のポータルが設置されてる教会付近では、冒険者達によってアンデッドが掃除されて安全が確保されているがそれも時間の問題だろう。街中には今でも低級から上級までありとあらゆるアンデッドが大量に徘徊してやがる。
アンデッド化したグリフォンまで迷い込んでるって報告まであったし、何故か街の外側に結界が張られていて街に魔素が溜まりまくってるし、もう何もかもが最悪だ...。
ここから街を立て直すには、そうだな...。
まずあのアンデッドを召喚しまくってる空の魔法陣をなんとかしねぇとな...。それから街中に居る魔物を全て討伐する必要がある。
それで、それをするには魔導の専門家を組織した上でAクラスの冒険者を100人単位で招集しないと不可能だろうな。
--うん...。
で、その人数を集めるのに必要なのは報酬だ。
だが、残念ながらそんな報酬出すヤツは居ないだろう。
「昔なら協力してくれる国もあっただろうが...な」
あの国王(クソ)が外交を滅茶苦茶にしやがったせいで、今じゃ助けてくれる国なんて存在しやしない。
「はぁ...」
だからつまり、この状況に援軍は来ないってわけだ。
「せいぜい教団の連中くらいか......」
けど、教団だからな...。出してくるのは援軍じゃなくて調査員だろ。
「どうしたものか...」
私の仕事はギルドマスターの他に、実はある『杖』の管理もあったりする。
アレは元々、昔一緒に冒険した聖女から託された物で、今は城の玉座裏にあるんだが。
聖女本人による厳重な封印のおかげで、聖女として女神から認められた者にしか触れることが出来ない仕様だ。
まぁ...あの封印の目的は、私に触らせないようにするのが目的だろうけどな。聖女(マリア)め...私があの杖を預かったら売っぱらうって本気で思ってやがったな...。
いや、確かに間違いなく売っぱらってただろうけども...。
あー...それで、だ。
私はダークエルフだが、今は色々あってダークなハイエルフだったりするわけで、実はこの身体に寿命は無い。
だから嫌だっつってんのに強制的に任された。あの杖の使い方を、次の聖女に伝えるのが私の仕事だ。
難しいからな、杖(アレ)の扱いは...。
本来なら10年近くかかるだろう杖の制御を、私が聖女(マリア)から強制的に叩き込まれたコツやらなんやらを教えれば多分3年くらいでなんとかなるはずだ。
何時もの私なら、街がこんなんなった時点で面倒事はとっとと放り出して逃げてんだが。契約魔術をかけられた上に教団と冒険者ギルドのトップがその契約を握ってやがるからなぁ...。
「はぁ...」
契約魔術とか鬼畜すぎんだろ。どんだけ信用されてなかったんだ...当時の私は。
......。
いや、今もあんまり信用ねぇと思うけど...。
あー、そんなワケで杖(アレ)を確保しなきゃならんのだが、それには城を奪還しなきゃならんわけで...。
しかもまだ正式に勇者が召喚されてねぇから、聖女も居ない。それで奪還ってなると...だ。
ポータルから城までのルートを維持しなきゃいかんのだが。
「もしかして、私がなんとかしないと駄目なのか?」
いやいやいや...まてまてまて...。それは無いそれは無い、絶対に無いはずだ。
杖(アレ)の使い方についての伝承は確かに私が任されたが、管理は国と冒険者ギルドと教団の3つがする事になってる。
まさか杖(アレ)があんな事になってんのを私にどうにかしろって言ってくるわけが...。
「あっ......」
教団側の管理者、確かアイツじゃなかったか?
あの、何でもかんでも屁理屈で全部面倒事を押し付けてくる腹黒爺...。
......。
...。
なぁ...。
ギルド側の管理責任者は私なんだが?
伝承すんなら管理もしろって、グランドマスターに投げつけられて。ゴネたんだが金が出るって言われて渋々受けて......。
.....。
.........。
クソッ、まずいぞ、このままだと爺のクソな話術で私がこの状況を何とかする流れに持っていかれちまう。
「あああああっ!」
避難対策ばっかりに気が行ってて、杖(アレ)の事は完全に頭から抜け落ちていた。
今からどうにかするにしても、どう見たってコレは今からどうこう出来るような状態じゃない。
杖までのルートをなんとかするにしても、私1人じゃどんだけ時間がかかるかわかったもんじゃない。
「そうなってくると......だ」
現段階でやらなきゃなんないのは『使える人材の確保』だな。
だけどそれはかなり限られてくる。
なにせ国の首都が滅ぶなんて情報は確実に秘匿される事になる。
周辺国に影響するし、経済の混乱も起こるし。対策しつつゆっくりと公開して行く事になるはずだ。
そうなると、この場に出くわしていて能力的に使えそうな人間しか当分の間は使えない......。
新しく冒険者やらを雇い込むのはまず間違いなく却下されるだろう。
つまり、蒼天の連中とケイトが必要なわけだ。
「まずいな...」
さっきまでは『まぁアイツらなら大丈夫だろ』とか思って、此処でまったりと帰ってくるのを待ってたんだが。どうしよう......途端に不安になってきたぞ。
「さっ、探しに行くか?」
教会にはしっかりと結界が張ってあるし、私がちょちょっと離れても問題は無い。探しに行く時間くらいはあるはずだ。
ギルドプレートに仕込んである救難信号も出てないし、多分無事だとは思うんだが...。
「んー......。 よしっ、探しに行くか」
確か向かったのは...。
--パシュゥゥゥゥゥゥ......
--ズゴゴゴゴゴゴ......
......。
...。
「は?」
蒼天のやつらが向かった方に振り向いた瞬間、光が空を貫いた。
なんだ今の光は。城から空に向かって出てた気がしたが....。
此処まで瓦礫が崩れるような地響きが響いてくる。
おいおい、まさか蒼天とケイトになんかあったんじゃ?
って、なんだありゃ? 白いのが城から飛び出して...。
--パシュゥゥゥゥゥゥ......
--ゴゴゴゴゴゴ......
「うぉぉっ」
ま、また光ったぞ。何なんだいったい!?
城の方から途轍(とてつ)もない量の魔力が吹き荒れて来てやがるが......。
ただでさえ私が対処出来る許容量オーバーしてんのに、これ以上の厄介事は勘弁してくれよ。
......。
「おい.....」
いや、うん、まさかな。
--ゴシゴシ
......。
--ゴシゴシ
...。
「おいおいおいおいっ」
ドラゴンだと!?
待て、どっから出て来たあんな化物。
--パシュゥゥゥゥゥゥ......
--ゴゴゴゴゴゴ......
「あぁああぁぁぁぁっ」
城がっ、城が攻撃されてやがるっ!! 杖がっ、杖があんだぞっ!!!
結界があるから壊れはしないだろうが、あんな事されたら瓦礫の下に埋まっちまうだろうが!?
「あんのトカゲ、なんで城を攻撃なんて...」
は?
ちょっと、待て、なんでこっちに。
--キュォォッ
--ズゴォォォォォォッ
--シュゥゥゥゥゥ...
ふぉぉおぉぉぉぉぉぉっ!!?
......。
--パラ...
--パラパラ...
私のすぐ横を、真っ白な光が突き抜けてったぞ。
地平の彼方まで見通しが良くなっちまった。
......。
...。
「な、なんつー威力してやがるんだ」
建物を真っ直ぐ全部なぎ倒して蒸発させやがった...。吹き飛ぶはずの瓦礫すら蒸発して消滅しやがった。
「危(あっぶ)ねぇ...」
ちょっとズレてたら今の教会に直撃だったぞ?
あーあ...。地平線まで風通しが良くなっちまって。
誰かが張った街の外側の結界まで吹き飛んでんじゃねーか。
あれだけ濃厚だった魔素が結界に空いた穴から吹き出して...。って、おい。
「なんだこれは?」
抜けて行くはずの魔素が全部城の方に吸い込まれて行ってるのか?。
これは、また何かが起こる前兆か?
いくら私の寿命が無限だからって、精神はダメージ受けると死ぬんだぞ?
「..っ!」
--まずい!
コイツ魔素だけじゃなく、私の魔力まで吸ってやがる。
急に魔力が抜けたから背筋にゾクッと来たぞ。
いや...まて。この感覚には覚えがある。まさか魔族の捕食...?
だが、こんな広範囲なわけが...。
「くそっ、教会の結界に逃げこまねぇと」
よしっ、どうやらこの結界の中なら大丈夫みたいだな。
さすが聖女直伝の結界だ。
しかし、これじゃあ外に出るのはもう無理だ。
--どうする?
準備すりゃあ助けに行けるが、魔力を抜かれた状態が続くと廃人になりかねないぞ。
なんとかして直ぐに蒼天の奴らとケイトを助けに行かねぇと
「クソッ!」
ドラゴンまで居るのにどうすりゃ良いんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます