第47話 ズルいのだっ!!

 



「え...ええ、そうね」

「確かに逃げるのが良いんですが...」


「...む?」



 名案だと思うのだが、何でそんなに歯切れが悪いのだ?



「今からだと、逃げる場所が...」


「んむ?」



 逃げる場所...? 転移先に登録してある別の街とかに行けば良いのではないか...?

 妾はこの世界が初めてで、登録してある場所なんてないのだが。ジョニー達は色んな場所を冒険してると言っておったからな、色々な場所が登録してあると思うのだが...。


  --ふむ...


「別の街に転移魔法で飛べば良いのではないか?」


「「......」」


「なっ、何故みんな黙るのだっ」


「いえ...その...」

「転移魔法なんて、大規模な儀式魔法を一人で扱えるワケがないでしょう?」


「む?」



 儀式魔法?

 そんな魔法、妾は知らんぞ? 初めて聞いたのだっ!



「儀式魔法とは何なのだ?」


「魔導具を用いて大人数で発動する魔法の事よ」


「ほうほう...」



 成る程、この世界にはそんな魔法があるのだな。

 『ドラゴンテイルズ』の世界にも複数人で発動する魔法や魔道具は存在したが、両方同時な魔法は聞いた事がないぞ。


 これは、とっても内容が気になるのだっ!!



「それはどんな魔法なのだ? 魔導具とはいったいどんな物なのだ?」


「ちょっ...ちょっとレムリア。待ちなさい、今はそんな話をしてる場合じゃ......」


  --バタッ


 ぬぉっ!?


 ど、どうしたのだエル!?

 妾がニナに魔道具の事を聞いておると、視界の端でエルが倒れたのだっ。

 いきなり顔から倒れたが、だっ、大丈夫かっ? いったい何があったのだっ!?


  --ユサ

   --ユサ


 まずいぞ、揺すっても全然反応が無いのだ。


  --これは......


 外傷的なモノなら回復魔法を掛ければ良いのだが、意識が無いとなると精神系の状態異常か?

 それだと、無理矢理回復させる事は可能だが、精神系はそれをやると一時的な後遺症が出てしまうかもしれんのだ。


 むぅ...。


 どうしてエルが倒れたのかは分からんが、精神攻撃を受けたなら近くに敵が潜んでおるはずなのだ。

 それだと、後遺症でエルが動けなくなる前に敵を片付けた方が良いやもしれん。


 ふむ、そうだな、どうするか...まずはジョニーと相談なのだっ。



「ジョニー! エルが...」

「ぐっ...がっ...」


    --ガシャッ


 なっ!?

 ジョニーまで!?


 いっ、いったい何なのだ!?

 ちょっと待つのだっ、ジョニーが倒れてしまったら妾は誰に相談すれば良いのだ!?


 ケイトかっ? ケイトに相談すれば良いのか!?



「ケイトっ!!」


  --バタッ


 ぬおおぉぉっ!

 アルティナとケイトまで倒れてるのだぁぁっ!!


   --ガッ


 むぉぉっ、ニ、ニナもかっ...。ニナも倒れてしまうのかっ!?

 ......いや、ニナは膝をついただけか。しかし、苦しそうに呻いて持ち堪えているだけなのだ。


 よしっ、そのまま耐えるのだ!

 せめてニナが倒れてしまう前に、いったい何が起きたかだけでも聞き出さねばならんからな。



「いったいどうしたのだ!?」


「くっ...ぐっ...。これは...魔力..欠乏症......」


「けつ...?」


「魔力が...抜かれてる...のよ...」


「抜かれてるのか...?」


   --バタッ


「まっ、待つのだっ!! 妾だけでは解決策が!!」



 どっ、どうしよう。みんな倒れてしまったのだ...。

 このままでは妾が1人で問題を解決せねばならんくなってしまうではないかっ!?



「妾を1人にせんでくれ...。妾だけでは無理なのだ...」



 折角パーティで冒険が出来ると飛んできたというのに、これでは結局ソロではないか...。1人でパーティプレイは無理なのだ...。


 ......。


 ...。



「はぁ...ここでこうやって突っ立っておっても仕方がないな」


  --妾だけで出来る事をやるしかないのだ


 んー...。魔力が抜けておると言っておったか......?

 ふむむ、どれ...。 周囲の魔素が全てあの女の術式に引っ張られてしまっておるな。さっきまで溢れておった魔素が跡形も無くなっておる。


 それでどうやらジョニー達の魔力が魔素の代わりに抜かれてしまっておる様だな。...妾の身体からも僅かに魔力が漏れておる。


 ならジョニー達に魔力を注げば良いのではないか?



「どれ...」


  --ピトッ


 魔力は心臓から生まれるからな。ジョニーの胸のあたりに手を当てて、こうして波長を調節しながら魔力を送り込んでやれば......。



「ぬぬぬ...」



 送り込んで...。

 ふぬっ、ふぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。ぬぬぬぬっ。ぬっ...ぬぬっ......。



「なんでなのだっ!?」



 魔力がジョニーに入った瞬間、全部あの術式に吸い取られてしまうのだっ!

 これでは魔力を送れんではないかっ!!


 ぐぬぬ...。


 こうなってしまうと、あの術式が吸い取ってくる範囲からジョニー達を出すしかないぞ。

 どの程度離れれば良いかはわからんが、取り敢えず運ぶしかないのだ...。



「空中浮揚(レビテーション)」



 ......?



 「空中浮揚(レビテーション)!」



 んん?



   「空中浮揚(レビテーション)!!」



 おかしいのだ...。



  「空中浮揚(レビテーション)!?」



 ぬがぁああぁぁぁぁぁぁっ!

 妾の魔法がっ! 妾の魔法がぁぁぁ!!


 発動する前に魔力が全部吸い取られるのだぁぁぁぁっ!!!



「っはぁ...はぁ...」



 もう...何なのだこれはっ。

 体内ではちゃんと魔力が練れるのだが、身体の外に出した途端あの魔法式に全部吸い取られてしまうのだ。


 あんなのズルいのだ...。錬が言っていたチートに違いないのだ...。


 これでは殆どの魔法が使えんではないか。いったいどうしたら良いのだ...?




 ◆


 ◇


 ◆




「んっしょっ」



 っとおわぁぁっとと..。



「っふぅ...。危なかったのだ」



 なんとか背中に銀子を括り付けて、ジョニーの盾に皆を乗せれたのだ。

 何故かジョニーの盾には鎖がついておったからな。これを引っ張っていけば、何とか全員まとめて運べるのだっ!


 ふふふ、やっぱり妾は天才だなっ。


 最初はドラゴンに戻って皆を運ぼうと思ったのだが、何故か人化の魔法が解けんくてな。

 もうこれが最後の手段というやつなのだ。


 バランスをとるのがちょっと難しいのだが、妾のステータスはとっても高いからな。

 皆を引っ張って進むくらい余裕なのだ。


 だが、これはこれで結構難しくてだな。

 街中で過ごす時の力加減は慣れておるのだが、こうやっていつも以上に力を込めると、少し加減を失敗するだけでジョニー達が吹っ飛んでいってしまうのだ。


 だから慎重に、ちょっとずつ...。

 こうやって引っ張って歩いているのだ。


   --ズル

    --ズル

  --ズル


 ...ふぅ......。


   --ズル

    --ズル

  --ズル


 んー...しかし、ジョニー達は倒れたのだが、銀子は寝てるだけなようなきがするのだ。

 妾の耳元で心地の良い寝息が聞こえてくるぞ。


  --スー


   --スヤー


 むぅ...。

 気持ちよさそうなのだっ。


    --ガッ


「ぬぉぉっ」



 また引っかかったのだっ!

 盾で引っ張るのは名案だと思ったのだが、色んな場所に引っかかって、いちいち外すのが面倒くさいぞ。


 これでは街の外まで運ぶのは相当面倒そうなのだ。


  --何処か近場に良い所は無いか?


「んっ?」



 向こう側に見えるのは...結界かっ!?



「よしっ、あそこまで行ってみるのだっ!!」




 

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