第32話 獣っ娘と泥団子
--名前...
--名前...
自分で言い出しておきながら、いざ付けるとなると何も浮かばないのだ。
--ど、どうしよう...
獣っ娘の目がとてもキラキラしてるのだ。
とても期待してる目で見てきているのだっ!!
「むぅ...」
そっ、そうなのだっ!!
妾が自分で考える必要はないではないかっ!!
ここは『ドラゴンテイルズ』の世界から名前をかりてこればいいのだっ!
ええと...例えば。
豊穣と幸運の女神『ラクティア』
武と覇道の神『ヘルラウド』
知識と探求の神『マギ・エクステル』
んー...いまいちこの獣っ娘とはイメージが合わん気がするのだ。
何だか名前が偉そうな感じがして...いや、神の名だから当たり前ではあるのだが。
もうちょっと可愛い感じのモノは無いものか。
「んー......」
そうだ、自由と放浪の精霊で『テト』って言うのも居たのだっ!!
確かもふもふしていて、犬と猫を足して二で割った感じの...。
--んー
--...
よしっ、本人に決めて貰おう。候補は『銀子(ギンコ)』か『テト』なのだ。
「銀子(ギンコ)かテ「ギンコッ!」...ト」
二択で聞こうとしたら、最初の『銀子』にもの凄い勢いで反応してしまったぞ。
この飛びつき様は、名前が出されるのを待ち切れずに身構えていたのだなっ。
「ギンコッ ギンコッ」
なんか妾の周りをくるくると回り始めてしまった...。
--こっ、困ったのだ...
これは名前に喜んでおるのか、名前が付いたことに喜んでるのか...。
もしかして、どんな名を告げても同じ反応だったのではないか?
何方(どちら)にせよ、こんな状態の相手に、今更二択だから決めてくれとは言えんのだ。
「う、うむ、気に入ったか?」
「うんっ、かっこいい」
--格好いい...?
ま、まぁ...尻尾がはち切れんばかりにパタパタしておるし、本人が気に入っておるから良いか。
「よし、では獣っ娘の名前は今日から『銀子』だっ」
「んっ、ギンコ!」
さて、名前も決まった事だし、そろそろケイトを探しに行くとするか...。
どれくらい時間がたっておるかわからんからな...無事だといいのだが...妾の依頼。
--ぐぎゅるるぅぅ...
うん、腹が減ったな。行く前に先に飯なのだっ。
「レムちゃん、お腹へった? ギンコのゴハンあげるっ」
「んっ?」
腹の音を聞かれたのか、銀子が泥団子の様な物を手渡してきた。
--なんなのだこれは?
茶緑色をしていて、中身がぎっしり詰まっているのか重みがあるのだ。
「これは...なんなのだ?」
「んと、ギンコの朝ごはんっ」
そう言ってもう一つ取り出すと、銀子が口の中へ入れて食べ始めたのだ。
--ふむ、一応...食べれるのか...?
「どれ、妾も...」
--パクッ
--モグ...
「ブフォッ」
まずいのだっ! なんなのだコレ、途轍もないまずさなのだっ!?
--ゴホッ
--ゲホッ
口の中で噛んだ瞬間、植物の青臭さが口の中いっぱいに広がったぞ。
その後に、苦味とエグ味が広がって、最後に土臭さが襲ってきたのだ。
「もったいない...」
銀子が何だか残念そうに見つめてくる。
「いや、待つのだ、もったいない以前にこれは食べ物なのか?」
「んっ、栄養のある草っ」
「草っ?」
栄養のある草っていったい何なのだ?
「うん、草を煮込んで丸めた」
「いったい何の草なのだ?」
「んー...食べられる草?」
「そ、そうか...」
「噛むと駄目、こうやって飲み込む」
いかん、いかんぞっ、こんなマズイ物が食べ物だとは認められん。
これでは宿屋で出された残念サンドイッチが高級食に思える程なのだ。
それにこれは食べ方も味も食料ではない、これでは完全に『栄養剤』ではないか。
「ぎ、銀子は何時もこんな物を食べておるのか?」
「うん、いつものゴハン」
「......。」
これは...これでは駄目なのだ。
「レムちゃん、食べない?
食べると御腹、膨れるよ?」
「銀子(ギンコ)」
「んっ?」
「今日の御飯は妾が食べてる物を一緒に食うぞっ」
こんなマズイ物は食いたくないし、そもそもこれを食い物と認めるわけにはいかん。
ここは本当の食べ物と言うやつを銀子(ギンコ)に教えてやるのだっ。
「んー......レムちゃんのゴハン?」
「うむ、ちょっと待っておれ...」
--収納(アイテムボックス)
んー何を出すか......こんな物を食べてる銀子にステーキなんて重い物を出すのはまずいだろうし...。
でもやはり肉系が良いな...と、なると油は少なめで胃にもたれない物が良いだろうか。
この串焼き辺りが丁度良さそうだな。何の肉かは知らんが、鳥っぽい感じの...脂身の無い部分を焼いたシンプルなやつなのだ。
--とりあえずこれを2本...
「ほれ、これを食べるのだ...って うおぅっ!」
銀子の口から凄まじい量の涎が溢れておるぞっ。ちょっと待つのだ、床が水溜りみたいになってしまっているのだっ。
「れ、レムちゃん...」
--じゅるり
「う、うむ...」
「それ...良いの?」
「あ、ああ、食べても良いぞ?」
「...殴らない?」
「な、何で殴るのだっ!?」
「前、我慢できなくて...
道にあったの食べたら、いっぱい殴られた」
あー...それはあれか、泥棒してしまったのか。
「今回は大丈夫だぞっ、これは妾がちゃんと買ったやつだからなっ
ほらっ、早く食うのだっ」
--サッ
「ありがとっ!」
--パクッ
銀子が串焼きを受け取ると、すぐに口の中へと肉を頬張って食べ始めたのだ。
--んぐ
--んぐ
--んぐ
--んぐ
--ごくっ...
「おぉぉぉぉぉぉっ...」
一口食べ終わったところで、銀子が感嘆の声? を漏らしながら串焼きを掲げ始めてしまったぞ。
--そ、そんなになのかっ!?
そして何故かボロ革で作った鞄を持ってきて、その中へと...って何をしてるのだ。
「ちょっ、ちょっと待つのだ」
「んっ?」
「全部食べないのか?」
「うんっ! 大事に食べるっ」
そう言って再び鞄の中へ収納しようと...ってそんなモノに入れたら汚いのだっ。
「銀子っ!」
「ん?」
「串焼きはまだいっぱいあるから、お腹いっぱい食べるのだっ」
そう言って収納(アイテムボックス)から追加の串焼きを取り出して追加を手渡した。
--ガタッ
「レム、ちゃんっ」
「う...うむ?」
「いっぱい、あるっ」
「あ、ああ、いっぱい買ったのだっ」
--ダラァ...
--じゅるりっ
ま、また涎が...凄い沢山出てるのだ。
「ほら、妾も食べるから銀子も遠慮せずに食べるのだっ」
銀子が串焼きを見つめたままかたまってしまったので、妾も1つ頬張ってから声を掛ける。
--パクッ
--パクッ
--んぐ
--パクッ
するとタガが外れた様に、両手に串焼きを持つと口の中に詰め込み始め...って息が出来なくなるまでつっこんだら駄目なのだっ。
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