第20話 そうだハゲに押し付けよう!
◇ ◆ レイナ視点 ◆ ◇
それで仕方なくケイトから詳しい話しを聞いてみると、どうやら5日程前に城から呼び出しがあった後に行方がわからなくなっていたらしい。今朝になって教団の密偵部隊から『城で勇者召喚が行われる』と報告があったそうだ。
どうやったのか知らんがあの国王(ばか)が神官を引き込んで味方につけたみたいだな。
しかし、勇者召喚に必要な宝具や知識は教団側が保管してるし、神官を拉致った所で『勇者召喚』が出来るとは思えんのだが。
--神官か...
「ところでどの神官が拉致られたんだ?」
国王側に寝返るとすれば『デズリ』か? あいつは金と女に弱くて酒癖が悪い、教団の上層部に親族がいるせいで神官になれてただけのゴミだしな。あいつ以外には思い浮かばん。
それを考えれば今回の出来事はそんなに悪い話でもないのか。あの国王(ばか)と一緒にデズリも消せるし、街がより良くなって一石二鳥じゃないか。
--ん?
いや、待て。...でもデズリって女神の加護を持ってるのか? 加護が無いと『勇者召喚』の儀式は無理なはずだが。
「それが、攫われたのはアルティナなんです」
「なにっ! アルティナだと?」
あの娘は貧しい人間に食料を配ってまわってるような人間だぞ? よっぽどの事がない限りあんな国王(ばか)の側に寝返るなんて考えられん。
--よっぽどの事...?
まさか、あの国王(ばか)。あの子に何かしやがったのか!?
まずいぞ、アルティナなら女神の加護を持ってるし勇者召喚の資格がある。
しかもそれだけじゃない。神殿の魔導部署出身だから『召喚』に関する知識も持ってるし、宝具が無くても召喚の儀式ができてしまう。
宝具ってのは確実に『勇者』を召喚するのに必要な代物であって、『召喚』をするのに必ず必要な物ではないからだ。
言わば『宝具』と言うのは呼び出す対象への道標であり、故(ゆえ)にそれ無しで召喚を行うと何が呼び出されるか予想が出来ない。
過去にも宝具を使わずに『勇者召喚』をしようとした国が幾つかあったのだが、その全てが失敗に終わるか勇者では無いものを呼び出して終わっている。
中でも最悪だったのは、どこぞの異世界から悪魔なんぞを呼び出してしまった時だ。あの時は一国が滅びる大惨事となってしまった。
「はぁ......」
頭が痛い。
今回の事は確実に教団...『エリアス神聖教団』を敵にまわすだろう。それだけじゃない、下手をすれば危険なモノが召喚されて国が滅びる。全く馬鹿の事を仕出かしてくれたもんだ。
......。
いや、国王(アイツ)は馬鹿だったな。
これで確実に今回の出来事が無事に終わったとしても国王(ばか)は没落するか処刑されるだろう。まぁそれ自体は大歓迎なんだが、今からやらなきゃならん仕事の量を思うと、手放しには喜べない。
是非ともまだ召喚の儀式が行われてない事だけを祈るばかりだ。何かヤバイのが召喚されてたら、街に戻っても手遅れの可能性が高いからな。
--さてと...
「それで、お前はどうするんだ?」
「ええと、僕はこのまま『ナティア』にレイナ様と向かい、神官の救出と『召喚』に関する情報収集をするように命じられています」
伝令役じゃなくコイツが此処に来たってことは、何か命じられてるんだと思って聞いてみたが、案の定だったな。どうやらコイツも一緒に来るみたいだ。
因みに『ナティア』ってのは私の管轄する国の首都名だ。国の名前は『ランティナ王国』...かつて勇者の一人と仲間が起こした由緒ある王国である。そんな国が......こんな醜態を起こすとかマジで笑えん。
「護衛(ケイト)が来るってことは、護衛対象も誰か付いてくるのか?」
「ええ、今回は国王への審問を行うので審問官が同行する予定です」
「はぁ......。なぁ、向こうにはグラディスが居るし、あいつに任せちゃだめか?」
「駄目です」
「でもアイツ有能だし「駄目です」」
「いや..「駄目です」」
......。
クソッ、審問官とか相手にすんの嫌なんだよ。
アイツらは心を読む事ができるスキルの持ち主で、それはもう嘘を付いても見抜かれる。
私がギルド資金でこっそり買ったお酒のコレクションとか、面倒だから握りつぶした案件なんかが、何気ない会話でちょろっとでも話題に出れば即バレる。
しかもそいつら教団の裁判官も兼ねてるから、その場で罪状を言い渡して神殿に連行する権限まで持ってやがるのだ。
正直言って顔も合わしたくない連中ベスト1だ。
「後、護衛に神殿騎士も何人か来るのでよろしくお願いします」
「......。」
あー...嫌だなー......組合長(ギルドマスター)辞めたいなぁ...。ギルドで踏ん反り返ってれば良いと思ったから引き受けたのに、まさかこんなに面倒だとは思わんかったぞ。
このまま全部投げ出して風呂に行きたいなぁ......。
「はぁ......」
ため息しか出てこんぞもう。
それで。
結局全てを諦めてケイトと共にポータルへ向かうと、すでに審問官達が待ち構えていた。
勿論ケイトを盾にして審問官からは十分に距離をとる事は忘れない。あれに近づくのは危険だ。
そしてポータルへと乗り込むと、『ナティア』のポータルが設置してある教会へと転移した。
「それで今後の事だが...」
審問官といつまでも一緒にいたくなかったので、ギルドに行く前に教会で今後の事を切り出した。
1、まず、審問官達は城へ向かう、私は緊急事態に備えて一旦ギルドへ戻る。
2、城に連れて行かれた神官を救出したら、審問官が国王を主神殿へ連行するからポータルまで冒険者が護衛する。
3、もし、既に召喚が行われていた場合は緊急事態を宣言するので、ギルドに居る冒険者から精鋭を出来るだけ集めておく。
この3つが話し合って決まった内容だ。
なんとか出来る限り審問官と顔を合わせないように調整す事が出来たぞ。これで一安心だな。
あー...それで、迅速に審問官達を神殿騎士の連中と一緒に送り出すと、これからの面倒を思って陰鬱な気分のままギルドへと戻ってきた。
「おかえりなさい、ギルドマスター」
中に入ると真っ先にリィナの笑顔と言葉が出迎えてくれた。冒険者を癒やすような受付嬢としては満点の出迎えだ。丁度いい...。
「あー...リィナ」
「はい、なんでしょうか?」
「グラディスは居るか?」
アイツに出来る限り仕事を押し付けてやろう。
「ええと、グラディスさんなら訓練場に行ってらっしゃいます」
「なに...?」
なんでこんな遅くに訓練場なんかに。いったい何をやってるんだあのハゲは?
まぁいい、緊急事態だから居ないよりは遊んでてくれて助かった。これで面倒事は全部押し付けられる。
それで訓練場に向かって歩いていると、何故か激しく武器を打ち合うような音が響いてきた。
--何だ?
模擬戦(あそび)にしてはえらい本格的な戦闘をしているな。グラディスと誰が戦っとるんだ?
--ギギィ
「ん?」
訓練場の扉を開けると見覚えのあるハゲ頭が真っ先に飛び込んできた。あいつが観戦してるって事は戦ってるのは別のやつか。
--どう言う状況だこれは...
「随分賑やかにやってるじゃないか、グラディス」
嫌がらせをするために気配を消して近づくと、後ろからハゲた後頭部に声をかける。
「げっ...クソバ..いえ、ギルドマスター。も、もうお帰りになられたんですか?」
「今、何か聞こえた気がしたが...クソバ? ...何だ?」
「な、何でもない。気のせいだ」
「ほぉ...そうかそうか、まぁ今回はそう言う事にしといてやる。ちょっと急ぎで用があってな、こうして急いでかえってきたんだが...」
--カンッ
--ガキンッ
--キンッ
あの戦ってるのは『蒼天の剣』のエルとジョニアックか? だがあの一緒に戦ってるヒラヒラした舐めた見た目のヤツは誰だ?
「おいグラディス、ありゃ誰だ?
うちの管轄にあんな舐めた見た目のヤツなんて居たか?」
「ああ、ドレス姿に鎧をつけたヤツか?
ギルドマスターが留守の時に登録した新人なんだけどな。丁度よかった、どうにも俺の手にあまっちまって、マスターに頼みたいんだわ」
「ほぅ...そうか、手にあまる程の新人か...」
良い腕だ。
新人とか言ってたが、ありゃAランク以上の熟練者だぞ?
けど良いな。あいつは使える。受付には使えそうな冒険者が残ってなかったしどうしようかと思ってたんだ。
もしも緊急事態になったら『蒼天の剣』とあの新人が居れば最低限はなんとかなるだろう。手が足りなかったらグラディスにも働かせれば良いしな。
--ああそうだ...
その事も含めてグラディスには言っておかんとな。
「おいグラディス」
「何だ?」
「もしかしたら緊急依頼が来るかもしれん」
「.......本気(マジ)か」
「ああ、本気(マジ)だ...」
緊急依頼なんて大抵が洒落にならん出来事だからな、このグラディスの反応は良く分かる。
横で聞き耳を立ててる蒼天のニナも、表情の変化は薄いがよく見れば引き攣った顔になってるし、内心はきっと逃げ出したいんだろうな。だが、逃がさんよ?
--私の為にも働いてくれ
緊急依頼は一応断れる。だが、断ると状況に応じたペナルティが発生するのだ。
他にも依頼出来る人員がいれば別なんだが、今回みたいに少人数しか居ない時は断った時のペナルティが相当でかい。
--と、言うか私が発生させる
さてと、今頃は城に向かった連中も国王を拘束して此方に向かっている頃だろう。
もし審問官の行動を拒めば、この国の軍隊よりも遥かに強い連中が攻め込んで来るワケだから、話はすんなり通るだろうし。
ケイトも神官...アルティナを救出した頃合いかな。
--時間的には...そろそろのはずだ
これから忙しくなるぞー。
あー......だりぃ。
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