第62話 硬ってぇ......

 



 ◇ ◆ クロガネ視点 ◆ ◇



   --チュン


  --チュン



 あー......朝日が目に染みるー。

 これが噂の朝チュンってやつかぁ...。



 「ふっ......」



 どうだ?

 両手じゃなくて、両膝に美幼女だぞ?


 羨ましいか!?

 羨ましいだろ!?


 俺は全然嬉しくねーぞクソがっ!!



「あああああー......」



 結局コイツら起きなくて一睡も出来なかった。

 しかも明け方には霧まで出て来やがったせいで、服が濡れてベッチョベチョだし。


  --もう最悪だ...


「ん...おか..ちゃん」


  --ん?


「ああトウカ...やっと起きたのか......」



 俺の右膝で、猫耳のついた幼女がもぞもぞと動きだした。


 でも残念、もう朝なんだよなー......。

 ヤバイ時間は終わったんだよなー......。

 せめて後3時間前くらい前に起きてほしかった。


  --すー...


    --すー...


 駄女神はまだ寝てやがるし。

 もう蹴飛ばしてやろうかコイツ...。



「はぁ.....」



 俺の精神は一晩でもうボロボロだよ......。



「タツヤ、お肉っ!!」



 .......。




「タツヤっ、お腹減った、ですっ」


「なぁおい、起きて第一声がそれかよ」



 凄いツヤツヤした笑顔で肉を強請(ねだ)ってきやがって...。

 あー...しかし、それにしても......。


 汚ねぇとは思ってたが、明るくなったら一目瞭然だな。

 トウカ...おまえさ、凄いばっちぃな。

 全身ドロドロじゃねーか。



「メシ食う前にこれで顔と手を洗ってこい」



 せめてそこだけでも綺麗にしとかねぇとな。

 取り敢えず適当にインベントリから水と布を取り出して、それをポイッと灯火の方に投げ渡して行く。


 よし、ちゃんとキャッチしたな。



「んー......んっ?」



 で、何故に首を傾げる。

 何も悩む要素ねぇだろ?



「その水で洗ってこい、手とか凄(すげ)ぇ汚いぞ」


「んっ、でもこれ、飲める水......勿体無い、です」


「いや、まぁ、飲水だけどよ...他に水なんて持ってねぇし」


  --ゴク


   --ゴク


「っておい、なんで飲んでやがる」


「んっ、お腹減った、です」


「あー...もう、俺が拭いてやるからこっち来い」



 これはもう、俺が拭いた方が絶対早い。



「タツヤ、肉!

 肉食べたい、です」


「あーもう、ほら、先に顔と手を綺麗にしてからな

 顔は拭いてやるから」


「んぅ...」


「ほら拭いてる間に手は自分でやれ」



 って言っても水渡したら飲んじまうし...どーすっかな。

 ...そうだな、飲めないように水で布を濡らして渡してみるか。



「ほら、これで手を拭いたら食べさせてやるから」


「んっ、わかった」



 よし、流石に今度は飲まなかったな。

 濡れた布に吸い付いたらどうしようかと思ったぜ。



 「......はぁ」



 それにしても......。何で俺、朝からこんな疲れてんだろ...。


 ......。



「タツヤっ タツヤっ お腹へった、ですっ」


「あー......」



 まぁ、約束だし何か出してやるか。

 えっと......『大猪の干し肉』か......。


 大猪ってたしかアレだよな、レベルがそこそこ上ってきたくらいの戦闘職が、レベル上げで大量に狩るヤツだったはずだ。

 出たドロップアイテムを皆持って帰らずに捨てて行くから、移動途中に拾って街で売るとちょっとした小遣い稼ぎになって...。


 ああ思い出した、それでいっぱい持ってんのか。

 丁度いいしコレでいいや。



「何か、美味しそうな匂いがするわ...」



 ...駄目神が匂いに釣られて起きてきやがった。

 干し肉出した瞬間起きるとか何なんだよコイツ、何なんだよコイツ!!



「タツヤ、私の分は?」


「ああん?」



 何故さも当たり前のように言ってくるんだこの駄女神様は、せめて頼む態度くらい見せてみろよ。



「ねぇ、はやく私にもちょうだい」



 ......はぁ...。

 マジかぁー......。



「なぁ、お願いしますくらい言えないのか?」


「お願いします、ねぇ、言えたから私にも早く」



 くっそ...そういう意味じゃねぇし......。

 あー...もういいや、何かコイツの相手すんのも疲れた。



「ほれっ」


「んっ...ありがと。ガリッ...んぐんぐんぐ......硬いけどなかなか美味しいわね、これ」


「ああそうか、良かったな」

「タツヤっ、おかわり、ですっ」



 ......。



「えっ!? もう食ったの?」



 干し肉っつってもデカさはカットした食パンくらいあるんだが?



「んっ、おかわり、ですっ」


「あ...ああ」


  --パクッ

   --んぐんぐんぐ...


 すげぇ、干し肉がシュレッダーみたいに飲み込まれていく。

 普通もっと噛まねぇか?


 よくこんな硬い物、そんな勢いで飲み込めるな。

 胸焼けしそう...。


 まぁでも、俺も腹が減ったしちょっとだけ齧ってみるか。


  --ガリッ


 硬ってぇ...。


  --ガギッ...ギギギッ...


 え?


 何これ?


 干し肉ってこんなに硬いもんなの?

 いや待て待て待て、こいつら普通に食ってるけど?


 えっ?


  --ガリッ

   --ググ...ググググ......


 嘘だろ...。

 噛み切れないんだが。


 俺の顎が弱いだけなのか?


 これ、『大猪の干し肉』だよな...いったい説明文どうなってんだ?

 確かメニューから見れたよな。


  --えっと......


 - - - - -


  『大猪の干し肉』


 大猪の赤身を干して乾燥させた物。


 強靭な肉体を誇る猪の肉を乾燥させた為、残念ながらそのまま食べる事は出来ない。

 食べる際は、しっかりと茹でて戻してから煮込み料理やスープ等に使うと美味とされている。


 - - - - -


 そのまま食ってやがるんですが?


 ......。



「あー......トウカ、これもやる」


「んっ、ありがと、です」



 ふぅ......。さぁて、おにぎり食べよっと...。


  --あむっ


 うん、相変わらずしょっぱい。


 それにしても、これからの事を考えないとなぁ。

 街も見つけないとこんな物騒な森に居続けるわけにゃいかねぇし。


 一睡も出来なかったから、早く安全な場所を見つけて一眠りしたい...。



「あー......」


  --っ!


 冷てっ。


 なんだ?

 なんか水滴みたいなのが降ってきたけど、まさか雨か?


 いや、これは......雪?


 マジかよ。おにぎり食ってたらチラチラと降ってきやがった。

 まずいな、霧で濡れた服がまだ乾いてないぞ。


 このまま気温が下がったら凍るんじゃ...?

 そう思えば急に冷えてきたような気が...。さっきまで春先くらいの暖かさはあったのに...いったいどうなってやがんだ?



「なぁおい、雪が降ってきたんだが...」


「雪? ホントね、これは氷の精霊かしら」


「精霊?」


「ええ、この世界には四季意外に精霊の大移動で急に気候が変わるのよ」


「へぇ~......」



 まさしくファンタジーって感じだな。


 ......。


 ...。



「で、これ、大丈夫なのか?」


「え?」


「いや、結構寒くなってきてるんだけど、このまま凍えたり...」


「「......」」



 いや、そんな目を見開いて見つめられても...。

 え? 何? まさか今その可能性に気が付いたの?



「どっ、どどどっ、どうしよう!? タツヤ! 穴よ! 地下に穴を掘るのよ!!」


「いや落ち着け、今から寒さ凌げる穴掘るとかどう考えても無理だろ」


「じゃあどうするのよ!!」


「いや、どうするって言われても...。そうだ、トウカは何か思いつかないか?」


「んっ、皆でくっつく、ですっ」


「あー...うん。それは最終手段だな」



 駄目だ、こいつらは頼りにならねぇ。


 さてどうするか...って言っても、現状をすぐに打破する手段はねぇしな。

 もしかしてこれ、地味に命の危機だったりするのか?


 異世界まで来て死因が凍死ってどうなんだ......?

 いやいやいや、そんな地味な死に方は流石に嫌だぞ。



「取り敢えず今の服だと凍死待ったなしだからこれに着替えるぞ」



 二人共みるからに薄着だしな。

 まずは今すぐ寒さで動けなくなるのは回避しねぇと。


 インベントリから出来るだけ暖かそうなヤツを出して二人に手渡してやる。



「気が利くわね! なかなか暖かそうじゃないの」

「んっ、くれる、です?」


「ああ、やるから着替えろ」



 って言っても、ドラゴンテイルズでスキル上げの為に量産した普通の毛皮コートだからな。

 多少の寒さは凌げても、このままじゃ凍死は確実だ。



「よしっ、それじゃあ雪が凌げそうな洞窟とかを探すぞ」


「そうねっ、それが良いわ!」



 最悪、雪が凌げればインベントリに入ってる薪を燃やせば凍えるのは回避できる。

 だからまぁ...そこまで慌てるもんでも無いだろ。



 ......。


 ...。



 そう、思ってた時期が俺にもありました。



「ねぇよ!!」



 何がって?

 洞窟がねぇんだよ!?



「せめて崖でもあれば横穴掘れるのに、崖も丘も何もねぇよ!!」



 やばいやばいやばい。

 屋根あるところで焚き火すりゃなんとかなるって余裕があったから焦ってなかったけど。


 今はガチで命の危機だ。


 あれから気温がどんどん下がっていって、歩くたびに地面からベキベキ霜が砕ける音がする。


  --ヒュゴォオオォォォッ


「た...タツヤ」


「......なんだよ」


「私はもうダメだわ......」


「そうか、じゃあな」


「ちょっと!! ふつう背負って行こうとか思わない!?」


「そんな余裕は無ぇ」



 いきなり膝から崩れ落ちてそんな寝言ほざいてる余裕があるなら歩け!!

 ホントに死ぬぞ!?


  --ビュゴゴォォォォォッ


「タツヤ、タツヤっ!」


「ん? どうしたトウカ」


「くっつく、です?」


「いや、こんな所でくっついても温かいのは一瞬だけで死ぬから」


「......んっ?」


「いや、こんな吹雪の中で立ち止まったら雪で埋まるから、洞窟見つけたらくっつこうな?」


「わかった、ですっ!」



 それにしてもこんな話ししてるだけで、本格的に雪が積もってきた。

 もうすぐ膝まで雪で埋まるんじゃねーか?



「おい、雪がキツくなってきたから、はぐれるなよ?」



 正直、2メートル先も見えねぇし、はぐれたら絶対に見つけられねぇぞ。


  --ザッ

   --ザッ


  --ヒュゴゴォォォォ...


 ん?

 何だこりゃ?


 ......氷?

 いきなり雪が途切れて足元に氷が出てきたが。



「もしかして湖か?」



 これは、引き返した方が良いか?

 氷の下が水だったら、割れて落ちると助からねぇぞ。


  --ドンッ


「きゃっ」

「うおおっ!!」



 いきなり背中に衝撃が。

 って、後ろから付いて来てた駄女神が背中に突っ込んできたのか。



「んっ!」



 それとトウカ、これは寒くてくっついてるわけじゃないからな。抱きつかなくて良い。


  --ツィー


「んおっ?」



 え? なんか滑ってない?



「ちょっ、ちょっと待て」


「えっ?」


「俺ら滑り出してるぞ!!」


「あ、あれ? タツヤ、ここ氷じゃない!?」


「気づいてなかったのかよ!!」



 しかもこの氷、なんか坂になってないか?

 奥に向かって斜めに......。


 って、だんだん急になっていってるぞ!?



「おいっ、何かに掴まっ「きゃぁぁあぁぁ」うぉぉぉぁああぁぁぁ」



 手遅れだったぁあああああああっ!!

 


  


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